ノーゲーム・ノーライフ I am a loser 作:飯落ち剣士
男が歩いている。ただそれだけの光景に、殆ど全てのそこにいる彼等が反応する。
——ただそれだけ、なのは人の世に限った話で。例えば人以外が幅を効かせる盤上の世界の、
それはさぞかし目立つことだろう。
しかし、その視線に気づいていないのか、その男——海は歩く。
「さて……どこに向かうのか、見せてもらうのですよぉ♪」
はるか遠方から魔法で覗かれているのにも、気付いていない——魔法が感知できない以上気付きようがないのだが——のだろう、その足取りに揺れはない。
数分で、街の一角、小さな家にたどり着いた。そこの扉を開け、中に入る。
それを遠くで見ていたフィールは、すぐにその家に魔法妨害・到着妨害・視線遮断の術式が編まれていることに気付く。
……というか、まあ。陰謀策略政略戦争、不利な情報なぞ漏らした日には蹴落とされるこの国では、こういった防護術式が編まれていない時の方が少ない。
よって彼女にとってもそれは想定内。たかだか二重で組まれているその術式を確認、その額の宝石が光る。なるほど決して悪くはない。が——相手が悪かった。
「じゃんけん勝利による、盟約による記憶の封印を破棄する」
「——よし。思い出した」
そう、つまりフィールは全てを見た。
読み通り、海の記憶が消されていたことも、
「……さあ、ゲームを続けようぜ、フィール・ニルヴァレン」
——読み違え、彼が自分の名前を呼んだことも。
*
「ああ、ジブリール、久しぶりだな」
……さて、この場面とは全く関係ない話だが、ファルは死後の世界があるのなら、自身はきっと地獄に行くだろうと思っている。
あのカジノで働く前はギャンブラーとして暮らしてきた。イカサマはもちろん、詐欺まがいのこともしょっちゅうしていた。それのせいで、破滅した人もいるだろう。
そして、今海の元でも……決して、良いことはしていない。被害者として破滅した経済大臣。国中に仕掛けている工作により土地を失った人々。
三重スパイをし、隠蔽し、嘘をつき、虚構を与え、不正を働き、正規ルートから外れ。ひたすら、間違え続けた人生だ。地獄に落ちない理由がない。
……そう、ファルの普段の行いは悪い。しかしまあ、この場面とは全く関係ない。はずだ。
では状況を整理しよう。国王
……普段の行い改めるべきかなぁと、ファルは現在逃避じみた感想を抱いた。
「で?ジブリールはこんな所で何をしてるんだ?」
そしてファルと対照的に、ミハイールは至って冷静だった。理由は簡単。海が
——彼女は、何も困らない。ファルは経済大臣をクビになり路頭に迷う。だから焦る。しかし彼女は盟約で縛られているだけ、『最悪ジブリールに
「ええ、私は先輩がいるのが分かったので少し挨拶を、と。
で、そちらの人間とは何をしていたんですか?
だが……ミハイールにとっても、まあ。誤魔化せるに越したことはない。海という人間の側で起こることは、彼女の好奇心を揺れ動かしていた。今離れるのは避けたい。それにはこの核心を突いてきた質問を、ミハイールが?いいや。
ミハイールは
「経済大臣、ファルです。いま、ミハイールさんと——仕事を共にしています」
「仕事?」
そもそも——情報戦ではこちらが勝っているのだ。圧倒的優位、しかも目的は
だから「開示していい情報」のみを晒し、根本のところ、こちらの全体像は掴ませない。そのための会話を。
「ええ、……この国の土地をいくつか、
現状、ジブリールは『十八翼議会』、ならびに
その場合まず間違いなく
よって、
なら、どうとでもなるのだ。土地の下見も
「貴方も下見ですか?」
暗に、ジブリールが
これだけ。これだけで、ファルはモブに成り下がる。
「……そうですか。お気をつけて」
そして、ジブリールはここで得られる情報を全て手に入れたと感じ、消える。こちらへの興味を無くして。
……
ファルは、ホッとしたため息もつかない。尾行を警戒して、ミハイールと拠点と関係ない場所へ向かっていく。
次の次でこの章のエピローグです