ノーゲーム・ノーライフ I am a loser   作:飯落ち剣士

19 / 20
お久しぶりです。


餌付け(ギブ)

男が歩いている。ただそれだけの光景に、殆ど全てのそこにいる彼等が反応する。

——ただそれだけ、なのは人の世に限った話で。例えば人以外が幅を効かせる盤上の世界の、森精種(エルフ)の国だったりしたら。

それはさぞかし目立つことだろう。

しかし、その視線に気づいていないのか、その男——海は歩く。

 

「さて……どこに向かうのか、見せてもらうのですよぉ♪」

 

はるか遠方から魔法で覗かれているのにも、気付いていない——魔法が感知できない以上気付きようがないのだが——のだろう、その足取りに揺れはない。

数分で、街の一角、小さな家にたどり着いた。そこの扉を開け、中に入る。

それを遠くで見ていたフィールは、すぐにその家に魔法妨害・到着妨害・視線遮断の術式が編まれていることに気付く。

……というか、まあ。陰謀策略政略戦争、不利な情報なぞ漏らした日には蹴落とされるこの国では、こういった防護術式が編まれていない時の方が少ない。

よって彼女にとってもそれは想定内。たかだか二重で組まれているその術式を確認、その額の宝石が光る。なるほど決して悪くはない。が——相手が悪かった。

フィール・ニルヴァレン(六重術者)にとっては、それを掻い潜るのはあまりにも容易で。内部での会話——人類種(イマニティ)海と、フィールの知らない森精種(エルフ)の会話——は、簡単に覗かれる。

 

「じゃんけん勝利による、盟約による記憶の封印を破棄する」

 

「——よし。思い出した」

 

そう、つまりフィールは全てを見た。

読み通り、海の記憶が消されていたことも、

 

「……さあ、ゲームを続けようぜ、フィール・ニルヴァレン」

 

——読み違え、彼が自分の名前を呼んだことも。

 

 

 

 

「ああ、ジブリール、久しぶりだな」

 

……さて、この場面とは全く関係ない話だが、ファルは死後の世界があるのなら、自身はきっと地獄に行くだろうと思っている。

あのカジノで働く前はギャンブラーとして暮らしてきた。イカサマはもちろん、詐欺まがいのこともしょっちゅうしていた。それのせいで、破滅した人もいるだろう。

そして、今海の元でも……決して、良いことはしていない。被害者として破滅した経済大臣。国中に仕掛けている工作により土地を失った人々。

三重スパイをし、隠蔽し、嘘をつき、虚構を与え、不正を働き、正規ルートから外れ。ひたすら、間違え続けた人生だ。地獄に落ちない理由がない。

……そう、ファルの普段の行いは悪い。しかしまあ、この場面とは全く関係ない。はずだ。

では状況を整理しよう。国王『 』(空白)の側近にして、『____』(アンダーバー)……海曰く、『計画の穴(イレギュラー)」。それがいま目の前にいる。理由は不明。殺意あり。

……普段の行い改めるべきかなぁと、ファルは現在逃避じみた感想を抱いた。

 

「で?ジブリールはこんな所で何をしてるんだ?」

 

そしてファルと対照的に、ミハイールは至って冷静だった。理由は簡単。海が『 』(空白)にバレたとしても。

——彼女は、何も困らない。ファルは経済大臣をクビになり路頭に迷う。だから焦る。しかし彼女は盟約で縛られているだけ、『最悪ジブリールに『____』(アンダーバー)の全てがバレても』、困らないのだ。

 

「ええ、私は先輩がいるのが分かったので少し挨拶を、と。

で、そちらの人間とは何をしていたんですか?

 

だが……ミハイールにとっても、まあ。誤魔化せるに越したことはない。海という人間の側で起こることは、彼女の好奇心を揺れ動かしていた。今離れるのは避けたい。それにはこの核心を突いてきた質問を、ミハイールが?いいや。

ミハイールは人類種(イマニティ)、ファルを見る。アイコンタクトですらない無言の圧に、ファルは現実逃避をやめる。

 

「経済大臣、ファルです。いま、ミハイールさんと——仕事を共にしています」

 

「仕事?」

 

そもそも——情報戦ではこちらが勝っているのだ。圧倒的優位、しかも目的は『____』(アンダーバー)含むこちらの陣営の存在を隠すことだけ。

だから「開示していい情報」のみを晒し、根本のところ、こちらの全体像は掴ませない。そのための会話を。

 

「ええ、……この国の土地をいくつか、天翼種(フリューゲル)が必要だというのでその下見の手伝いを」

 

現状、ジブリールは『十八翼議会』、ならびに天翼種(フリューゲル)から若干離れた立ち位置であると海は推測している。これはジブリールが人類種(イマニティ)の、というか『 』(空白)に付き添っていることから容易に考えられることである。

その場合まず間違いなく『 』(空白)はゲームで勝って彼女を味方につけており、『 』(空白)と十八翼議会が協力関係でないのはミハイールから既に聞いている。

よって、天翼種(フリューゲル)とジブリールの間での海に関する情報の共有は、ない。

なら、どうとでもなるのだ。土地の下見も天翼種(フリューゲル)、つまりミハイールが必要としていることも真実として話せる。そして、ファルは言葉を続ける。

 

「貴方も下見ですか?」

 

暗に、ジブリールが天翼種(フリューゲル)陣営として動いていないことを知らないことを匂わせる。

これだけ。これだけで、ファルはモブに成り下がる。

 

「……そうですか。お気をつけて」

 

そして、ジブリールはここで得られる情報を全て手に入れたと感じ、消える。こちらへの興味を無くして。

……『 』(空白)には報告されてしまうだろうが、それによる不利は少ない。

ファルは、ホッとしたため息もつかない。尾行を警戒して、ミハイールと拠点と関係ない場所へ向かっていく。




次の次でこの章のエピローグです
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。