ノーゲーム・ノーライフ I am a loser 作:飯落ち剣士
あけましておめでとうございます。
エルヴン・ガルドの端の街、その一角にある家。
テテフが、海の合図で
「ゲームは、オラクル・カード。
――いいな?」
「ゲームの説明は不要だろう?」という確認の意味の「いいな」ではない。
「ゲーム内容はこちらが決めるが、いいな?」という意味。
フィールへの挑発?いやいや、そんな簡単な話ではない。
「問題、ないのですよ」
先手を取られたことは自覚している。しかし、今からゲームを変更するのも、相手の思う壺だろう。そこまでフィールは考え、手早くオラクル・カードのために術式を展開した。
「俺とここの
……俺個人の情報は渡すつもりないから、そのつもりで」
間髪入れず畳み掛ける。今度は言外に言うのではなく、自分の譲歩できるラインを明言する。まるで友人に向けるような笑顔をフィールに向けながら、返答を待つ。
フィールの警戒心は高い。頭も切れる。だから単純な挑発や煽りなどしない。海は、会話の先手を取り畳み掛ける必要があった。
彼女が主導権を握り、冷静に考えられたら。フィールはこのゲームにノらない可能性は高い。そもそもここにゲームをしに来たわけではなく、立場上リスクを取る必要がないからだ。
……だが、少し立場を変えればどうだろう。「フィールを出し抜いた」海のことを危険と判断する。この短時間で十分過ぎるほどその材料はあるのだから。そして危険な男を野放しにしているより、自分の領地を失ってでも、目の前の男に勝って領地を奪うか、ゲームをして情報を掴むべき、と考える。わざわざ情報は渡さないと明言したのも、情報を重要視していると思わせるため。
ここまでは、予定通り。しかしここで乗るという確信はない。だがゲームに乗らなくても逃げるだけ、そして――
――誓わせてしまえばこちらの
「その条件を呑む、のですよ……
「
人間には見えない精霊が、動く。
オラクル・カード。大アルカナ22枚を2枚ずつ出し、その組み合わせで役を決定するカードゲームである。22枚出し終わった後は続けるか、ギブアップかを双方が決めて、を繰り返す。
「「2カード、セット」」
お互い、2枚のカードを伏せた。
伏せた2枚に対応する役で、攻撃、防御・回避・反射・罠等々…相手を傷つけるための魔法が起動する。決闘の代用とされる危険なゲームだ。
その組み合わせは231通りにもなる、よって役の予想など不可能に近い。
が、それは常識的な、凡人の発想。
この世界でも上位に入る
考え尽くされた一手目が、開かれる。
「「オープン・ディール」」
フィールが出したのは「愚者」と「正義」。「
対して海が出したのは「魔術師」と「悪魔」。「
お互いに純粋な攻撃役、結果は相殺。
フィールは
が、相殺となると……相手も自分と同じ思考である可能性が高い。ならば次は――。
「「2カード、セット」」
伏せたのは「皇帝」と「運命の輪」。「
2回連続で同じ役を選ぶ、裏の裏をかいてくると予想し、それを防ぐ役を選択。
「「オープン・ディール」」
開かれたカードに、フィールは内心で落胆する。
そこには「愚者」と「吊られた男」の「
また、被り。次のカードを伏せるために、次の手を通すために、フィールは思考を加速させる。
……それを、自身の胸を隠すように腕を組む、暗い目の
*
オラクル・カード、15周目、ラストの2枚。
フィールの顔には焦りが浮かんでいた。
「「オープン・ディール」」
開かれたカードは双方同じ、よって相殺。その場にいる者にとっては見慣れた光景。
これまで、165回の攻防。
イカサマ?魔法?上位種族の干渉?だが、フィールは知っている。
この状況の原因は――。
「まだ、続けるか?」
目の前の、暗い眼で微笑む
「続ける、のですよ」
怒りを目の奥に燃やして、彼女は次の手を考える。これは明らかに……時間を稼がれている。この場に彼女を留めることで、フィールの予定していた策略、仕事を壊すのが狙い、と予想。
だとしたら。まだこちらにも、勝機がある。それは「今フィールの代わりに暗躍している
そんな、相手を見て。海は口を開いた。
その口で、軽く、サラッと、この場をぶち壊すために。
「そっか。じゃあ……俺の負けだ」
……は?
テテフが、術式を止める。
「領地は、やるよ。
――俺の実力はよくわかったろ?」
時間稼ぎ?そんな訳が、ない。海のフィールへの評価は高い。そんな単純な手は、取らない。
――良い駒があるのに、使わないなんて勿体ないことするわけがない。
「どうぞご自由に使ってくれ。じゃ、俺はこれで――」
海が手にしている領地はほぼ州1つ。フィールは今後その手を他の州に伸ばしやすくなる。そして領地が増えれば……色々なことができる。
例えば、
一貫して、
ここでフィールを墜とす意味は、皆無。
「待つの、ですよ?」
が、そこまでを。理解したフィールは。
キレていた。それはもう、ものすごい勢いでキレていた。
そりゃあそうだろう。綺麗に出し抜かれ、完全に上を行かれ、結局それをぶち壊され。挙げ句の果てには掌の上で大人しく踊れ?
巫山戯るな、と。
「ここはもう私の領地。あなた達の今立っている場所は返しますが――
――私の領地に許可なく立ち入るのは、辞めてもらうのですよ」
その言葉で、2人はそれ以上動けない。
十の盟約、【一つ】。「この世界におけるあらゆる殺傷、戦争、略奪を禁ずる」。領土侵犯も、略奪だ。
海は――振り返らず言う。
「テテフやるから、出してくれねぇ?」
めんどくさそうな、声色で。そう取引を持ちかける。
そう、ここまで、ゲーム開始前から描いていた。
だが――。
「いや、その必要はありません」
ここからは、描いてはいないが、読んでいた未来。
「……このタイミング、か。まあいいけど――悪手じゃねぇか?
……ファル」
部屋に転移してきた