ノーゲーム・ノーライフ I am a loser   作:飯落ち剣士

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去年はあまり投稿できずすみませんでした。
あけましておめでとうございます。


餌食(プレイ)

エルヴン・ガルドの端の街、その一角にある家。

テテフが、海の合図で森精種(エルフ)にとっては見慣れた術式……防護術式と、大アルカナを広げる術式を、構築する。

 

「ゲームは、オラクル・カード。

――いいな?」

 

「ゲームの説明は不要だろう?」という確認の意味の「いいな」ではない。

「ゲーム内容はこちらが決めるが、いいな?」という意味。

フィールへの挑発?いやいや、そんな簡単な話ではない。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()フィールは、一瞬硬まった。相手の出鼻を挫く、主導権を握らせない。『____』(アンダーバー)は相手の胸中を見透かすように、フィールの大きな胸を見る。

 

「問題、ないのですよ」

 

先手を取られたことは自覚している。しかし、今からゲームを変更するのも、相手の思う壺だろう。そこまでフィールは考え、手早くオラクル・カードのために術式を展開した。

 

「俺とここの森精種(エルフ)……テテフが賭けるのは保持する森精種(エルフ)領地全て、お前も同じでどうだ?

……俺個人の情報は渡すつもりないから、そのつもりで」

 

間髪入れず畳み掛ける。今度は言外に言うのではなく、自分の譲歩できるラインを明言する。まるで友人に向けるような笑顔をフィールに向けながら、返答を待つ。

フィールの警戒心は高い。頭も切れる。だから単純な挑発や煽りなどしない。海は、会話の先手を取り畳み掛ける必要があった。

彼女が主導権を握り、冷静に考えられたら。フィールはこのゲームにノらない可能性は高い。そもそもここにゲームをしに来たわけではなく、立場上リスクを取る必要がないからだ。

 

……だが、少し立場を変えればどうだろう。「フィールを出し抜いた」海のことを危険と判断する。この短時間で十分過ぎるほどその材料はあるのだから。そして危険な男を野放しにしているより、自分の領地を失ってでも、目の前の男に勝って領地を奪うか、ゲームをして情報を掴むべき、と考える。わざわざ情報は渡さないと明言したのも、情報を重要視していると思わせるため。

ここまでは、予定通り。しかしここで乗るという確信はない。だがゲームに乗らなくても逃げるだけ、そして――

 

――誓わせてしまえばこちらの勝ち(負け)だ。

 

「その条件を呑む、のですよ……盟約に誓って(アッシェンテ)

 

(____)はその笑みを崩さない。崩さないまま、ゲームは始まる。

 

盟約に誓って(アッシェンテ)

 

人間には見えない精霊が、動く。

オラクル・カード。大アルカナ22枚を2枚ずつ出し、その組み合わせで役を決定するカードゲームである。22枚出し終わった後は続けるか、ギブアップかを双方が決めて、を繰り返す。

 

「「2カード、セット」」

 

お互い、2枚のカードを伏せた。

伏せた2枚に対応する役で、攻撃、防御・回避・反射・罠等々…相手を傷つけるための魔法が起動する。決闘の代用とされる危険なゲームだ。

その組み合わせは231通りにもなる、よって役の予想など不可能に近い。

が、それは常識的な、凡人の発想。

この世界でも上位に入るこの2人(ゲーマー)にとっては……初手からの心理戦など、当然。

考え尽くされた一手目が、開かれる。

 

「「オープン・ディール」」

 

フィールが出したのは「愚者」と「正義」。「独り善がりな正しさ(アローン・パーフェクション)」、現れた人形が小細工のない正しさを正面から叩きつける。

対して海が出したのは「魔術師」と「悪魔」。「召喚されし異形の者よ(アウトサイド・サモン)」。現れた異形がその歪な触手を正面から叩きつける。

お互いに純粋な攻撃役、結果は相殺。

 

フィールは初手(運ゲー)でリスクが低い「回避役・防御役」読みでそれらを貫通する役を……相手が選ぶと読んで、それを上回る威力の純粋な攻撃役を選択した。

が、相殺となると……相手も自分と同じ思考である可能性が高い。ならば次は――。

 

「「2カード、セット」」

 

伏せたのは「皇帝」と「運命の輪」。「私の道は私が決める(ディレイルメント・フォーチュン)」、攻撃防御の役。

2回連続で同じ役を選ぶ、裏の裏をかいてくると予想し、それを防ぐ役を選択。

 

「「オープン・ディール」」

 

開かれたカードに、フィールは内心で落胆する。

そこには「愚者」と「吊られた男」の「無気力な天才(シンキング・ジーニアス)」、攻撃防御の役。

また、被り。次のカードを伏せるために、次の手を通すために、フィールは思考を加速させる。

……それを、自身の胸を隠すように腕を組む、暗い目の『____』(最底辺)がただ嘲笑っていた。

 

 

 

 

オラクル・カード、15周目、ラストの2枚。

フィールの顔には焦りが浮かんでいた。

 

「「オープン・ディール」」

 

開かれたカードは双方同じ、よって相殺。その場にいる者にとっては見慣れた光景。

これまで、165回の攻防。()()()()()()()()()()()()

イカサマ?魔法?上位種族の干渉?だが、フィールは知っている。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

この状況の原因は――。

 

「まだ、続けるか?」

 

目の前の、暗い眼で微笑む人類種(イマニティ)

 

「続ける、のですよ」

 

怒りを目の奥に燃やして、彼女は次の手を考える。これは明らかに……時間を稼がれている。この場に彼女を留めることで、フィールの予定していた策略、仕事を壊すのが狙い、と予想。

だとしたら。まだこちらにも、勝機がある。それは「今フィールの代わりに暗躍している人類種(イマニティ)」への信頼。この状況に余裕はないが……彼女の口元に、笑みが浮かんでいた。

 

そんな、相手を見て。海は口を開いた。

その口で、軽く、サラッと、この場をぶち壊すために。

 

「そっか。じゃあ……俺の負けだ」

 

 

 

……は?

 

 

 

テテフが、術式を止める。

 

「領地は、やるよ。

――俺の実力はよくわかったろ?」

 

時間稼ぎ?そんな訳が、ない。海のフィールへの評価は高い。そんな単純な手は、取らない。

――良い駒があるのに、使わないなんて勿体ないことするわけがない。

 

「どうぞご自由に使ってくれ。じゃ、俺はこれで――」

 

海が手にしている領地はほぼ州1つ。フィールは今後その手を他の州に伸ばしやすくなる。そして領地が増えれば……色々なことができる。

例えば、他国(エルキア)への侵略とか。

一貫して、『____』(アンダーバー)の目的は――ただ一戦(対空白戦)の布石を打つことのみ。

ここでフィールを墜とす意味は、皆無。

 

「待つの、ですよ?」

 

が、そこまでを。理解したフィールは。

キレていた。それはもう、ものすごい勢いでキレていた。

そりゃあそうだろう。綺麗に出し抜かれ、完全に上を行かれ、結局それをぶち壊され。挙げ句の果てには掌の上で大人しく踊れ?

巫山戯るな、と。

 

「ここはもう私の領地。あなた達の今立っている場所は返しますが――

――私の領地に許可なく立ち入るのは、辞めてもらうのですよ」

 

その言葉で、2人はそれ以上動けない。

十の盟約、【一つ】。「この世界におけるあらゆる殺傷、戦争、略奪を禁ずる」。領土侵犯も、略奪だ。

海は――振り返らず言う。

 

「テテフやるから、出してくれねぇ?」

 

めんどくさそうな、声色で。そう取引を持ちかける。

天翼種(フリューゲル)1人いれば、今後は充分だ。テテフをここでフィールへ引き渡せば、フィールが今後テテフを「使える」上、此方は動き易い。フィールに出会う前から、テテフはエルヴン・ガルドで切り捨てるつもりでいた。

そう、ここまで、ゲーム開始前から描いていた。

だが――。

 

「いや、その必要はありません」

 

ここからは、描いてはいないが、読んでいた未来。

 

「……このタイミング、か。まあいいけど――悪手じゃねぇか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ファル」

 

部屋に転移してきた天翼種(フリューゲル)に、荷物のように抱えられている人類種(イマニティ)に、苦笑いで海は呟いた。


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