生徒会の手伝いを終えた一夏は、早々に自分の部屋に引っ込み、先ほどから感じていた不審者の気配を確認し、その人物の携帯に電話をかける。
『もすもすひねもす~?』
「何の用で忍び込んでいるんだ?」
『わぉ! やっぱりいっくんにはバレてたんだね~。今からそっちに行くから!』
一方的に電話を切られた一夏は、部屋の鍵を閉めて不審者が入ってこれないようにする。
「へばっ!? 何で開かないの~? っていっくん! 鍵かけたでしょ!?」
「お前の相手をしてる暇は無いんだ。さっさと帰れ」
「またまた~! いっくんはツンデレなんだから~」
「どうやらここで人生を終わらせたいようだな」
「冗談だから!? って、こんな事してる場合じゃなかった。いっくんに頼まれてたもの、持ってきたよ」
どうやらちゃんとした用件があるようだと、一夏は鍵を開けて束を部屋に招き入れる。
「それで、何か分かったのか?」
「少なくとも私たちの研究を盗めた可能性のあるカスは存在しないっぽいよ。ドイツ政府にいるヤツも、当時あの研究所に通ってたヤツはいないし」
「ちゃんと確認出来てるんだろうな? お前は他人を区別できないからイマイチ信用ならん」
「いっくんに頼まれた事だから、頑張ったんだからね~。そんなに気になるなら結果を見てくれればいいじゃんか~」
束から受け取った調査結果に一瞬で目を通した一夏は、とりあえず束が言っている事が正しい事を認めた。
「そうなってくると、一番怪しいのはお前、という事になるな」
「束さんがあの試験官ベビーに嫌がらせしたっていうの? そんなことして、束さんに何の得があるっていうのさ」
「さぁな。お前の考えなど俺に分かるわけないだろ。それで、VTシステムをドイツ政府に売り渡したりしてないだろうな?」
「お金に困ってるわけじゃないし、そもそもいっくんに破棄しろって言われたんだから、そんなデータ残ってないもん」
「データ復元など、お前にとっては造作もないことだろうが」
「信用ないな~。まぁ、いっくんが束さんの事を信用出来るはずもないって分かってるから仕方ないけどさ~」
「自覚があるなら少しは改善したらどうだ」
心底疲れ切った表情で呟く一夏に、束は満面の笑みで首を左右に振る。
「改善なんて出来ないよ~。これが束さんなんだから」
「まぁ、分かってたから別に良いんだが……」
「それじゃあいっくん、調べたんだから報酬を貰おうかな」
「報酬? ビンタで良いのか?」
「何で叩かれなきゃいけないのさ!? まぁ、ある意味『ご褒美』だけどさ」
「それで、なにが欲しいんだ?」
「いっくんが作ってくれた、あったかいご飯が食べたいな~」
「まぁ、それくらいでいいなら」
一夏は冷蔵庫を開けて少し考えてから、手際よく束の分の料理を作っていく。
「いっくんの手際の良さはさすがだよね~。高校時代によく見てたけど、本当にそこらへんの女より家事スペックが高いよね~」
「こんなもの、慣れれば誰だって出来るだろ」
「少なくとも束さんには無理だね~。ちーちゃんや箒ちゃんも、頑張ってもいっくんのレベルにまで達するか分からないし」
「くだらん事言ってないで、お前も少しは努力したらどうなんだ?」
「しても結果が出ない努力は無意味だよ。そんな事してる時間があるなら、束さんはさっさとVTシステムを盗み出した愚か者を見つけ、この世から消し去るよ」
「消し去る前に報告してくれると助かるんだがな……ほら、出来たぞ」
あっという間に一人前の料理を作り上げた一夏を見て、束は思わず首を傾げた。
「ほよ? いっくんの分は作らなかったのかい?」
「まだ仕事が残ってる。お前の相手をしてる暇はない、と言ったはずだが?」
「いっくんなら速攻で終わらせられるでしょ」
両手を合わせてから、束は良く噛みもせず一夏の料理を口に運んでいく。味わっていないように見えて、これでちゃんと味わっているのだから驚きだ。
「相変わらず行儀は良くないな」
「どうせ誰も気にしないんだし、いっくんも気にしないでよ」
「昔から注意しても治らなかったしな……千冬と箒が真似しなくて本当に良かった」
「いっくん、なんだかお父さんみたいな感想だね~」
「あの二人の保護者代わりだったからな……師範も女将さんも忙しくて、千冬と箒に構ってる時間は少なかったから仕方ないが」
「放任主義だったからね、ウチの両親は」
「お前がそんなになってしまったから、箒は自由にしてやろうとでも思ったんじゃないか?」
「どうなんだろうね~? いっくん、食後のお茶が欲しいな~」
「もう食ったのか? 相変わらず早食いだな……早食いは太りやすいんじゃないのか?」
「束さんに世間の常識は通用しないんだよ~」
「まぁ、お前は非常識だもんな」
呆れながらもお茶を淹れる一夏を見て、束は満足げにその場に倒れ込んだのだった。
食べてすぐ寝ると食道がやられるんですが、束なら何でもありでしょうね