意外な事に、箒が本音に負けたことで、セシリアは一気に押し切られてそのまま簪・本音ペアの勝利となった。
「決勝の相手は簪か」
「これじゃああたしたちが考えてた計画は使えないわね。言っとくけど、あたしは箒に勝った本音に勝てる程近接戦闘が得意なわけじゃないからね」
「私だって、セシリアを完全に抑え込んでいた簪を長時間引き止める事など無理だからな」
「それじゃあ、無様に負けないように気を付ける、という事で」
「決勝まで進んだんだ。点数はだいぶ稼いだだろう」
「そもそも参加するだけで良かったんだから、ここまで勝ち進んだことを喜びましょうか」
既に敗色濃厚となっているので、千冬も鈴もどうやって負けるかに焦点を合わせている。同じ候補生として簪に負けたくない、という考えは鈴の中には無いようだ。
「しかし、あののほほんとした本音が、まさか箒に勝つとはな……」
「簪が上手く誘導してたから仕方ないんじゃない? セシリアのフォローがあれば、もっと切迫した戦い方になってたと思うし」
「やはり一夏兄が手を貸した専用機だけあって、第二世代だろうが関係なく強いな」
「一夏さんが手を貸したって必要だった? 単純に簪が強かったって事で良いじゃないの」
「確かに簪は強いが、一夏兄が手を貸してなかったらまだ完成してなかったかもしれないだろ?」
「まぁ、そうかもしれないけどさ……そもそも一夏さんが手を貸したのは、篠ノ之博士が余計な事をしたからなんでしょ? そうなると箒が負けたのって篠ノ之博士の所為って事なの?」
「アイツは単純に本音の事を甘く見ていた時間が長かったせいで負けたんだと思うぞ? 途中から本気を出したところで、時すでに遅しだ」
千冬の言葉を、鈴は「辛辣だ」とは思わなかった。それだけ本音の実力が高く、相手を侮っていた時間があった所為で箒が負けた、という事くらいは鈴にだって分かっていたのだ。
「とにかく、決勝は無様に負けないように負ける、という事で良いんだな?」
「デザート無料パスは魅力的だったけど、さすがにあのペア相手に勝てる気がしないもの」
「そもそも、私も鈴も、それなりに料理が出来るんだから、自分で作ればいいだけだな」
「面倒だけど、食べたいならそうするしかないわね。それか、普通にお金を払って食べるか」
二人は顔を見合わせて笑い合い、そして表情を引き締めてピットに移動したのだった。
決勝は千冬と鈴が考えていた通りに事が進み、善戦しているように見える戦いをして二人が負けた。従って今回の大会の優勝は簪・本音ペアに決定したのだ。
「やったね、かんちゃん」
「うん……でも、千冬と鈴が勝ちを狙ってたら分からなかった」
「大丈夫だって。二人ともわざと負けたわけじゃなくて、勝てないにしても無様に負けないようにしようって考えだっただけで、ちゃんと力は出していたよ」
「それは分かってるよ。もし手抜きなんてしてたら、織斑先生に怒られてただろうし」
負けた二人は今、アリーナで反省会をしてる風に装っておる。だが心から簪と本音の実力を認め、拍手もしてくれているのだ。
「かんちゃんの専用機、世代差なんて関係なく強かったね」
「それを言うなら、本音だって訓練機で箒と鈴相手によく戦ってくれたよ」
「たまには力を見せておかないと、ただ本当にのほほんしてるだけの女の子だって思われちゃうからね~」
「本音でもそういう事を考えているんだ……」
「どういう事さ~!」
口では抗議しておきながら、本音の表情は明るい。自分でも普段は怠けすぎているという自覚があるようで、簪は安心して良いのか、それとも呆れれば良いのか分からない表情を浮かべた。
「とにかく、これで一学期の間は学食でデザート食べ放題に加えて、優勝した事で赤点補習の心配も減ったし、万々歳だね~」
「一応勉強はするんだからね? 更識関係者が赤点なんて事になったら、お姉ちゃんと虚さんに怒られるから」
「おね~ちゃんは兎も角、普段遊んでる楯無様が学年トップっていうのが信じられないんだけどね~」
「お姉ちゃん、要領良いし、頭もいいから」
「かんちゃんだって頭いいでしょ? 何で私だけ出来ないんだろうな~」
「頑張ろうとしてないからでしょ」
簪にバッサリと斬り捨てられ、本音は困ったように笑う。
「何かご褒美があれば頑張れるんだけどな~」
「それじゃあ、本音が平均点以上取れたら、お姉ちゃんに頼んでケーキでも作ってもらおうか?」
「楯無様のケーキか~。甘くてふわふわで美味しいんだよね~。よし、少し頑張ってみようかな!」
「それでも少ししか頑張らないんだ……」
「だって、ずっと頑張ってたら疲れちゃうでしょ~?」
「本音は少し疲れた方が良いと思うよ」
元気溌剌な本音と対照的に、簪は疲労困憊の様子でため息を吐く。せっかく優勝したのに、その喜びは何処かに吹き飛んでしまったようだった。
結局食べ物につられる本音……