部屋に戻ってベッドに倒れ込んだ箒は、本音に負けたことを改めて実感し、その場で大声を出した。
「あぁ!」
「っ! おい、どうした?」
隣で休んでいた千冬が跳び上がり箒の顔を覗き込む。千冬がいたことを失念していた箒は、一言謝ってから身体を起こした。
「いや、本音に負けた自分が不甲斐なくてな……最初から強敵だと分かっていたはずなのに、心のどこかで油断していた」
「お前は専用機で本音は訓練機だったんだ。油断するなと言われてもどこかで油断してしまうのは仕方ないだろう。実際鈴だって本音には勝てなかったんだ」
「アイツは中近距離主体だからな。近接オンリーでは分が悪かったんだろう。だが私は違う。近接主体の機体に乗り、剣術を修めてきたというのに、訓練機に乗った本音に勝てなかったんだ……本音が武術が達者だというならまだ諦めもついただろうが、普段のあいつからはそんな空気は感じなかった」
「普段の本音を見て警戒心を懐くのは一夏兄レベルじゃなきゃありえないだろ。私だって本音があそこまで出来るとは思ってなかった」
「簪がパートナーに選んだんだから、それなりに出来るヤツだろうとは思っていた。だが、負ける事はないだろうと高を括っていたのも事実だ」
想像以上に凹んでいる箒を見て、千冬は下手に慰めの言葉をかけるのは止そうと思った。ここでしっかりと反省して次に生かす事が出来れば、箒はさらに強くなると思ったのだ。
「確かに本音は強かった。だがお前が弱かったわけではないだろ」
「負けた私が強いわけ無いだろ」
「いや、私たちのペアよりもお前たちのペアの方が、簪・本音ペアを苦戦させていたのは事実だ。試合時間を見ても分かるように、私たちの倍近くは粘っていたんだからな」
「お前らは無様に見えないように負けただけだろ」
「……気づいていたか」
「あの程度、一夏さんじゃなくても見抜けるさ」
箒に見透かされていたと気づき、千冬はそこまであからさまだっただろうかと自分たちの動きを振り返った。だが自分たちではそこまであからさまに負けに行ったとは思えないので、箒に確認する。
「確かに勝ちに行かなかったが、そこまであからさまに負けに行ったわけじゃないぞ?」
「確かに、一見すれば拮抗してたようにも見えるが、何年お前と付き合ってると思ってるんだ。動き方がおかしいことくらいすぐに気づく」
「そういう事か……つまり、お前以外は気づいてなかったのか」
「そもそも、決勝まで進んだペアがわざと負けに行くなんて誰も思わないだろうが、普通」
箒の指摘に納得した千冬は、とりあえず自分たちの試合の事は忘れて箒の話を聞くことにした。
「それで、お前は負けっ放しで良いのか?」
「良いわけ無いだろ。あの本音が簡単にリベンジに乗ってくるとは思えないが、その時の為に鍛えるに決まってるだろうが」
「なら、負けたことを受け止め、それを糧に頑張るんだな。修行くらいなら私も手伝ってやる」
「そもそも戦闘技術で負けたわけじゃないからな……ISの操縦技術で劣ってるから、千冬相手に修行してもあまり効果は無さそうだ」
「違いない。私だって実技試験は合格ギリギリだろうからな」
「ギリギリだろうが何だろうが、合格すれば問題ないだろ」
間近に迫ってきている試験に戦々恐々しながらも、千冬と箒は焦った様子はない。簪とセシリア、後はシャルロットに教わりながら座学に重きを置いてきたため、実技試験はそれほど自信はない。だが赤点で無ければそれでいいという考えの持ち主なので、より危険な座学の方に力を入れたのだ。
「とにかく、試験が終われば臨海学校だろ? 何をする行事なのかは分からないが、参加する為にも残された日数しっかりと勉強しておかなければな」
「こればっかりは姉さんが羨ましい」
「束さんの頭脳なら、この程度の試験など問題にならないだろうからな。一夏兄もだろうけど」
普段は気にしないのだが、テスト期間だけは一夏や束の頭脳を羨ましく思う千冬と箒。くよくよしていられないと奮起して一夏から出されている課題に取り組むのだが、やはり半分くらいは分からないのだった。
「授業で聞いているはずなんだがな……」
「最近はなんとかついて行けてると思ってたんだが、やはり私たちは落ちこぼれだったのか……」
空欄が目立つ課題を見て、千冬と箒は盛大にため息を吐き、簪に電話する。
『どうしたの?』
「課題で分からないところがあるんだが、今から簪の部屋に行って良いか?」
『別にいいけど、今から?』
「消灯時間にはまだ早いからな。それに、怒られるとしたら簪ではなく私たちだろ」
『まぁ、千冬と箒がそれでいいなら、私は構わないよ』
「では、すぐに行く」
簪の許可をもらった二人は、必要なものを持って簪の部屋を目指したのだった。
学生の本分は勉強ですから……