それぞれが自分が着たい水着を見つけたので、真耶が一夏に連絡して来てもらう事にした。その間楯無は真耶が選んだ水着を見て言葉を失っていた。
「あの、更識さん?」
「私もそれなりに大きいとは思ってたんですけど、真耶さんと比べるとね……」
「えっと……?」
「ゴメンね、虚ちゃん。虚ちゃんはいつもこんな気持ちを味わっていたのね」
「お嬢様、それは私に喧嘩を売っているんですね?」
「何でよっ!?」
いきなり虚に怒られそうになって、楯無は慌てて逃げ出そうとして、こちらにやってきた客にぶつかってしまった。
「あっ、ゴメンなさい……って、一夏先輩でしたか」
「何をして怒られたんだ、お前は」
「何で怒られた事前提で話してるんですか……」
「逃げ出そうとしてたんだ、怒られたんだって分かるだろ普通」
一夏に捕まり元の位置に戻された楯無は、とりあえず虚に頭を下げてこの場を済ませた。
「それで、選んだ水着を見てほしかったんじゃないのか?」
「そうでした。それじゃあ、試着してきますね」
「あぁ」
試着室に三人が引っ込んでも、一夏は別に居心地の悪さは感じていなかった。元々女だらけの世界で生きてきたという事もあるが、普通の男性よりも興味が薄いのも相まっているのだろう。
「お待たせしました」
「刀奈は水色が好きなのか?」
「これともう一つ、こっちの薄い緑のヤツで悩んでるんですけど、どっちが良いですかね?」
「髪の色と同じだから、そっちで良いんじゃないか? 自分でそっちを着たということは、もう決まってるって事だと思うしな」
「……そう言われれば、二着あったのに迷わずこっちを着たわね、私」
「どっちも刀奈には似合うと思うが、自分が気に入った方が良いだろ」
「はい!」
一夏のアドバイスに満面の笑みで答えた楯無は、すぐに試着室に戻って着替えを始める。楯無が引っ込んだのを見計らって、今度は虚が一夏の前に姿を見せる。
「どうでしょうか……」
「虚は大人っぽい雰囲気だから、そういった水着が似合うな。色も黒で落ち着いた雰囲気だし、俺は良いと思うぞ」
「あ、ありがとうございます」
一切照れることも無く虚の水着姿を見て、これまた照れる事無く褒めちぎる一夏の態度に、虚の方が恥ずかしさを覚えてしまった。ただやはり虚も女の子という事で、気になっている異性に褒められて悪い気はしなかった。
「織斑先生は、女性を喜ばせる事が得意なんですか?」
「そんな事に長けた覚えはないがな。思った事を素直に言ってるだけだ」
「それが嬉しいんですよ」
照れ隠しにそう答えて、虚も再び試着室に逃げ込んだ。一夏はやれやれと頭を振り、残り一人が試着室から出てくるのを待った。
「お待たせしました」
「別に待ってはいないが、お前がそういう恰好でいると、生徒たちと同年代だと言われても納得しそうだな」
「何処かおかしいでしょうか?」
「いや、似合っているが。ただ若干の幼さは隠しきれないようで、スーツの時よりも生徒に近い感じがしただけだ」
「一夏さんみたいに威厳を身につけられればいいんですが……」
「生徒に近い事は悪い事じゃないだろ。呑み込まれなければ、それはお前の武器になるだろうし」
「精進します……」
「別に落ち込むことはないだろ。水着はちゃんと似合ってるんだから」
一夏は別にフォローしたわけではない。それは真耶も分かっているので、素直にお礼を言って試着室に戻っていった。
「やれやれ……真耶も気にし過ぎだと思うんだがな」
「その声は、一夏教官ですか?」
「ラウラか……何してるんだ、こんなところで」
「千冬たちと水着を買いに来たのですが、どうやらはぐれてしまったらしく」
「電話は?」
「生憎繋がりませんでした……」
しょんぼりとしたラウラの頭を軽く撫でながら、一夏は集中して気配を探り始めた。
「向こう側の試着室周辺に千冬たちの気配がある。そっちに行ってみるといい」
「ありがとうございます! では、私はこれで」
「今度ははぐれるなよ」
ラウラを見送っている間に、着替え終えた楯無が試着室から出てきて一夏の背後でにやにやしていた。
「何が言いたい?」
「一夏先輩、お兄ちゃんを通り越してお父さんみたいでしたよ」
「例え父親だったとしても、あんな大きな子がいるような歳ではない」
「知ってますけど、雰囲気というかなんというか……私も撫でられたいです」
「子供かお前は……っと、高校生は子供か」
「一夏先輩から見れば、私も虚ちゃんもまだまだ子供ですよ。だから、撫でてください」
「理由もなく撫でることは出来ない」
「じゃあ、一夏先輩に撫でてもらえれば、もっと頑張れるからという理由で」
「どんな理由だ……」
楯無の理論に呆れ顔を浮かべながらも、一夏は楯無の頭を多少乱暴に撫でる。いきなりでびっくりした楯無ではあったが、一夏の照れ隠しだと分かり嬉しそうに目を細めたのだった。
確かに父親っぽいよな……