自分たちでお金を払うつもりだった真耶たちだが、気が付いたらまとめて一夏が会計していたのでお金を出そうと一夏からレシートを受け取ろうとしていた。
「気にするな」
「駄目ですよ! 自分のものは自分で払います」
「そうですよ。私たちだってそれなりに稼ぎはあるんですから」
「そんな気にするような額でもないんだし、素直に払われておけ」
一夏はそういうが、楯無たちからしたらそうはいかない。ただでさえ借りがある一夏にそんな事してもらったら、何時かその借りを返せと言われた時大変だと思ってしまっているのだ。もちろん、一夏がそんな事するとは思っていないのだが、万が一を考えて行動する癖がついているから、今回も素直に引き下がれない。
「お願いします、一夏先輩。一夏先輩に買ってもらったなんて千冬ちゃんに知られたら、生徒会室に殴り込みに来ちゃいますよ」
「話すつもりは無いし、千冬程度の実力では、お前には勝てないだろ」
「私は剣術なんて嗜んでませんよ……」
「謙遜するな。お前は武道の実力も相当なものだろ。というか、お前に斬りかかる前に布仏が取り押さえるだろ」
「確かに、私はお嬢様の護衛でもありますので、お嬢様に害を為そうとするなら取り押さえます。って、そういう話ではなく、織斑先生の買ってもらった水着を着るのは、ちょっと恥ずかしいので……」
「そんなものか?」
一夏の問い掛けに、楯無と真耶は物凄い速度で首を縦に振る。一夏としては千冬に服を買ってやった時と同じ感覚なのだが、三人からしてみたらそんな事では済まされないのである。多少なりとも意識している一夏から直接肌に触れるものを買ってもらうという事は、ちょっと抵抗があるようだ。
「なら仕方ないな。半分は払っておくから、後で半分出してくれればそれでいい。こんな人目があるところで女性から金を受け取ろうものなら、余計な騒動を起こしかねないからな」
「……分かりました。それが一夏先輩の最大限の譲歩でしょうし、これ以上ゴネて結局全額払ってもらったら意味がないですしね」
「というか、一夏さん相手に文句を言える女性がいるとは思えませんが」
「可能性の問題だ。束の阿呆の所為で、自分が偉いと勘違いしている女性が増えたからな。それがなければ、俺だって普通に生活出来ただろうさ」
「いやー、それはどうでしょう……一夏先輩が普通に生活していたら、あっという間に女の人が群がりますよ、絶対」
「何せISを生み出したのは篠ノ之束で、ISを世界に広めたのは一夏さんですもんね」
「俺は広告塔になった覚えは無いんだがな……」
束の計画を潰す為にISを動かしただけであって、一夏としてはそのまま代表を務めるつもりなどさらさらなかったのだが、あれよあれよと話が勝手に進み、気が付いた時には計画を潰せないところまで話が進んでいたのだ。
「一夏さんがいなかったら、日本のIS産業はここまで進んでなかったとまで言われてますからね」
「というか、一夏先輩が代表を務めてなかったら、私と虚ちゃんが今ここにいれたかどうか分かりませんし」
「その節は大変お世話になりました」
「大したことはしてないだろ。結局は刀奈が決めて行動したんだから」
「安心して相談出来る相手なんていませんでしたから……ましてや、裏の世界の事を平気な顔で聞いてくれる人なんて、それこそ一夏先輩だけでしたし」
「そもそも裏世界に人を引きずり込もうとしてたくせに」
まだ子供と言ってもおかしくない年齢で、大人の汚い世界に引き込まれた楯無たちは、全てを捨てて家を飛び出そうとまで考えていたのだ。だが自分たちだけなら何とか出来たかもしれないが、妹たちをそれに巻き込む勇気が持てなく、結局は一夏のアドバイスとちょっとした手伝いのお陰で、無事に楯無を襲名出来たのだった。
「まだ火種は残ってますが、その内収まると思いますし」
「何かあったら相談しろよ? お前は今、IS学園の生徒で俺は教師だ。相談しても不自然ではないだろう」
「前に相談したときだって、一夏さんは国家代表で私は訓練生だったんですし、不自然では無かったと思いますよ」
「お家騒動に首を突っ込むには、ちょっと理由が弱かったと思うんだが」
「一夏さんだから問題なかったんだと思いますよ? 私だったら介入出来なかったでしょうし」
「そもそも真耶さんに相談しようとは思いませんでしたよ」
「それってどういう意味ですか?」
後輩という事もあって、真耶は割と楯無には強気に出る事が多い。楯無もそれが分かっているので、笑いながら真耶に頭を下げる。
「とにかく、これ以上ごたごたが起こらないに越したことはないんだがな」
「まだ落ち着かないと思いますよ。ウチも世界も」
「いい加減落ち着きたいものだ」
「一夏さん、まだ三十前なのに年寄りくさいですよ?」
「ほっとけ」
一夏の不貞腐れた態度に、三人は顔を見合わせて噴き出したのだった。
老成している感があるのは否めない