学園に戻ってきた千冬は、荷物を部屋に置いてすぐに一夏の部屋に向かった。
「一夏兄、いますか?」
「学校では織斑先生だ。それで、何の用だ」
「一夏――織斑先生、今日何処かに出かけませんでしたか?」
「ボーデヴィッヒから聞いてるだろ」
「何故女性の水着売り場に織斑先生がいらっしゃったのでしょうか?」
「真耶たちの付き添いだ。俺個人は新しい水着など買う必要はないと思ったんだがな」
あっさりと白状した一夏に、千冬はさらに詰め寄る。
「何故織斑先生が山田先生たちと……たち? 他には誰がいたんですか?」
「更識姉と布仏姉だ。真耶が誘ったらしい」
「そうでしたか。それで、何故織斑先生もご一緒されたんですか?」
一夏が言ったように、本人は水着を新調するつもりは無かったという事から、一夏が付き添う意味がないと千冬は思っているのだ。
「断っても良かったんだが、たまには外出した方が良いと更識姉に言われてな。確かにここ最近外出した覚えがなかったので、丁度いいかと思っただけだ」
「つまり、気まぐれだったと?」
「そうだが、何故お前にそんな事を聞かれなければいけない?」
「もし別の意図があったらと思いまして」
「別の意図?」
一夏としては、あれがデートなどとは思っていないので、千冬が何を気にしているのかが分からず首を傾げた。その反応を見た千冬は、一夏にそんな気持ちは無かったと分かりホッとした表情を浮かべている。
「織斑先生にそういう意図がなければいいんです」
「だから何の話をしているんだ、お前は」
「生徒とデートなんて、教師として合ってはいけない事ですので」
「デート? 俺と更識姉、布仏姉、真耶がか?」
「そうです」
「ありえないだろ。こんな社会不適合者とデートしたいなんて」
「一夏兄は自分の評価が低すぎるんだよ! 一夏兄とデートしたい女が、どれだけいるか分かってないの?」
「落ち着け……とにかく、そんな気持など俺には無い。だいたい、お前や箒が一人前になるまで、他の事に時間を割く余裕なんて無いんだ」
保護者代理としての務めをしっかり全うするまで自分の事に時間を使うつもりがないと、一夏は前々から公言しているのだが、千冬はそれが本当かどうか疑っている。確かに一夏は自分たちの為にいろいろと時間を割いてくれているが、一夏のスペックからすれば、自分の事に時間を使っていても自分たちの事に時間を割く余裕があるのではないかと考えてしまうのである。
「だいたいな、俺が誰かと付き合ってたとして、それがお前に何の関係があるんだ?」
「大ありだよ! 一夏兄に相応しいかどうか、しっかりと見極めないといけないんだからね!」
「なんなんだいったい……とにかく、あんまり大声を出すと誰かくるかもしれないから、とりあえず部屋に入れ」
一夏としてはさっさと追い返すつもりだったので玄関先で話していたのだが、どうやら時間を掛けて納得させなけれないけないと考えを改め、部屋に通した。
「というか、何で俺の恋人をお前が見極めようとしてるんだ? 束にも言われた事があるが、俺の事は俺が決めるに決まってるだろ」
「一夏兄、人と交流がないから、変な女に騙されそうだし」
「つまり俺には人を見る目がないと?」
「そ、そんなこと言ってないよ……ただ、女は裏表がある生き物だって知ってもらいたいだけ」
「そんなこと、束やお前たちを見てれば分かるに決まってるだろ」
呆れながら千冬にお茶を出し、彼女の正面に腰を下ろして一夏も一服する。
「とにかく、一夏兄が誰かと付き合うとしても、私が認めない限り結婚は許さないからね!」
「随分と話が飛んだな……というか、俺の事よりお前はどうなんだ。気になってる異性とかいないのか?」
「基準が一夏兄になっちゃってるんだから、そんな人出来るわけ無いじゃん」
「五反田くんや御手洗くんは違うのか?」
「絶対にありえない! 冗談でもそんな事言わないでよ!」
「あ、あぁ……すまんな」
そこまで拒絶されるとは一夏も思っていなかったので、千冬の剣幕に思わずたじろいでしまう。だが千冬からしてみれば、弾や数馬と付き合うなんて絶対にありえない事なので、力一杯否定してしまっても仕方ないと思っていたのだ。
「あの二人はあくまでも友人。それ以上になることなんて絶対に無いんだからね! これは箒や鈴だっておんなじことを言うと思う。てか、絶対に言う!」
「分かった分かった。とにかく落ち着け」
興奮している千冬を宥め、一夏はどうやって納得させるかを考える。
「今は誰かと付き合おうなんて考えはないから、お前も落ち着け」
「本当? 間違っても山田先生と付き合うなんて事はない?」
「真耶? 何で真耶の名前が出たのか分からないが、あれはただの後輩だ」
「なら良い……」
「なんなんだ、いったい」
千冬が何を考えているのか分からなかった一夏は、終始首を傾げていたのだった。
普通逆だと思うんだが……まぁ、逆でもおかしいとは思いますが