ビーチに出てきた千冬たちを、鈴は仁王立ちで出迎えた。
「遅い!」
「そんなに待たせた覚えはないが?」
「遊べる時間は限られてるんだから、もっと早く出来なかったわけ?」
「相変わらず遊ぶとなると凄い気合いだな」
「当然でしょ! さぁ、急いで遊ぶわよ」
そんなに急がなくても、十分遊べるのではないかとシャルロットは思ったのだが、千冬や箒が何も言わないので、自分も黙っていようと空気を読んだのだった。
「それじゃあ、あたし、シャルロット、セシリアチーム対千冬、箒、ラウラチームで良いのね?」
「お前がそれでいいなら、私たちに文句はない」
「別に何か懸けてるわけじゃないんだし、チーム分けに文句はないわよ」
「それじゃあさっそく始めるとするか。ラウラはやりながらルールを覚えると良いだろう」
「分かった。とりあえずのルールは先ほど電話で教えてもらった」
「さっき誰かに電話していたのは、それが目的だったのですね」
鈴がセットしたネットを挟んで、ラウラとセシリアが話す横では、鈴が千冬と箒に挑発的な笑みを見せていた。
「このあたしと勝負するなんて、相変わらず命知らずね」
「別にお遊びなんだろ? というか、鈴相手に後れを取るつもりは無い」
「そもそも私たち二人を同時に相手しようなんて、鈴の方が命知らずじゃないのか?」
「アンタたち個々の力は認めるけど、連携とか殆ど出来ないでしょ? だから、この程度どうって事ないわよ」
「言ったな? それじゃあ、勝った方が負けた方に一つ命令出来るようにしよう」
「ちょっと待ってよ!? それってボクたちも含まれるの?」
いきなり賭け事に巻き込まれそうになり、シャルロットが慌てて会話に口を挿んだ。
「いや、今回は私たち対鈴という形だ。シャルロットたちは普通にビーチバレーを楽しんでくれ」
「それなら良いんだけど……いや、賭け事は良くないんだろうけど……」
「これくらい遊びに範囲だろ? 別に金品を賭けるわけじゃないんだ。シャルロットは少し大げさに事を捉えすぎだ」
「そうなのかな……」
「それじゃあ、十点マッチでデュースは無し。サーブは下からオンリーでいいかしら?」
「初めての人間もいるわけだし、そのルールで構わない。ちなみに、再戦は無しだろ?」
「当たり前でしょ。一回勝負だから気合いが入るんじゃないの」
既に気合十分の鈴を見て、千冬と箒も楽しそうに笑ったかと思ったら、いきなり表情を改めて臨戦態勢に入った。
「この空気、戦場と似ているな」
「ただの遊びなのに、何でここまで気合いが入るんだろう……ボクはそれが不思議だよ」
「お三方とも負けず嫌いだからではありませんか? それに千冬さんたちは旧知の仲ですので、ますます負けたくないという気持ちが強くなるのではないかと思いますわ」
「そんなものなのかな……」
ふと自分たちが注目されている事に気付いたシャルロットは、これほど注目されることではないんじゃないかと思ったが、今更逃げ出すわけにもいかないので覚悟を決めた。
「とりあえず、ボクとセシリアは鈴の、ラウラは千冬と箒の足を引っ張らない程度に頑張ろうか」
「そうですわね。私たちは勝っても負けても何もありませんが、簡単に負けたくはありませんし」
「一夏教官の為にも、私は負けるつもりは無い」
「そこで何で織斑先生が出てくるのさ」
「一夏教官の教えだ! 負けて良い戦などこの世には存在しないと!」
「……多分違う言葉だったと思うな」
一夏がそんなことを言うとは思えなかったシャルロットは、またラウラが曲解したのではないかと疑ったが、とりあえず今はその事を指摘してる場合ではないのでスルーすることにした。
「それじゃあ三人とも準備出来たわけだし、どっちから始めるかじゃんけんで決めましょうか」
「そうだな。ではこちらはラウラに任せる」
「ふーん……じゃあシャルロット、お願いね」
「任された!」
「ボクなの? まぁじゃんけんくらいなら」
代理戦争にやる気のラウラと、イマイチやる気のないシャルロットの対決は、ラウラが勝利した。
「それじゃあまず私がサーブを担当しよう」
「分かってると思うけど、下からだからね?」
「さっき聞いたルールくらい覚えてる! というか、鈴は私の事をそこまで馬鹿だと思ってるのか?」
「一応言っておかないと、気合入り過ぎてジャンプサーブとか繰り出しそうだったから」
「それは私も感じた。千冬、くれぐれもルール違反で負けるなんてことは無いようにな」
「分かっている。それじゃあ行くぞ!」
改めて釘を刺されて、さすがの千冬もサーブを上から打つことはせず、しっかりとアンダーサーブで敵陣に打ち込む。
「シャルロット、任せた!」
「はい! セシリア!」
「任されましたわ!」
鈴、シャルロットとつなぎ、セシリアがスパイクを打ち込んだが、千冬がしっかりとブロックして、まずは千冬たちが先制したのだった。
見学だけでも楽しそうな対決だ