事後処理の為に緊急対策本部に詰めていた真耶は、横で作業している一夏の顔を見て体力を回復していた。
「真耶」
「は、はひっ!?」
「……何をそんなに驚いているんだ?」
「い、いえ……それで、何でしょうか?」
「ナターシャの様子を見てきてくれ」
「一夏さんが行った方が良いと思いますけど」
「さすがに寝ている女性の所にずかずかと入ってくほど、俺は無神経ではないつもりなんだが」
「そ、そうですね! 失礼します!」
大慌てで緊急対策本部がら逃げ出した真耶を見て、一夏は首を傾げた。
「いったい何だと言うんだ……」
「さっきからダーリンの横顔を見てニタニタしてたから、それがバレたとでも思ったんじゃないの? まぁ、最初からダーリンにはバレバレなんだけど」
「……お前、この前より若返ってないか?」
「そりゃダーリンの精気を吸い取ったばかりだもの。艶やかさが増してても不思議じゃないでしょ?」
「まぁ、今回は俺が許可したから仕方ないが……やっぱりお前のアンチエイジングに使われてると思うと、ちょっと考えるな……」
「その分動きとかが格段に上がるんだからって、割り切ってたんじゃなかったの?」
「そう言われてもな……」
人の姿になった飛縁魔を見て、一夏は複雑な思いを懐きながら作業に戻る。暇を持て余すのが嫌だったのか、飛縁魔も作業を手伝い始めた。
「この報告書は嘘だったわけだし、銀の福音をアメリカに返す必要はないわよね?」
「人一人の命を見捨てようとした国にISは相応しくないと思うが、俺が言えた義理ではないからな」
「ダーリンは誘拐犯数十人を半殺しにした過去があるものね」
「あれはお前が人の意思を勝手に汲んで暴れただけだろ。制御不能寸前だったんだぞ、あの時は」
「まぁ、そのお陰で千冬ちゃんは無事に助け出せたんだし、日本政府の老害たちも黙らせることが出来たんだから良かったじゃないの。その所為で今は、IS学園の生徒会が大変な目に遭ってるけどね」
「それは断じて俺の所為ではない」
「戻りました――って、一夏さんが綺麗な女性を部屋に連れ込んでるっ!?」
「よく見ろ馬鹿者」
一夏に呆れられて落ち着きを取り戻したのか、真耶は眼鏡を軽く持ち上げて飛縁魔の顔をじっくりと眺めた。
「あぁ、一夏さんの専用機さんでしたか……てっきり私を部屋から追いやって美女を連れ込んだのかと……って、何で木刀を振り上げてるんですか?」
「一度しっかりと教育してやろうかと思ってな」
「じょ、冗談ですよ。少しくらい冗談を言う余裕があった方が良いでしょう?」
「……で? ナターシャの容態は?」
「ま、まだ目は覚ましてませんが、命に別状はないそうです」
「そうか」
興味を失ったのか、一夏は再びモニターに向き直って作業を再開した。その背後で真耶が座り込んだのを気配で感じ取ったが、一夏はそちらに興味は示さなかった。そう、一夏は……
「貴女、何度か私と会った事あるのに、何であんな冗談を言ったのかしら? そんな冗談、あの人が喜ぶわけ無いと分かってるはずなのに」
「だ、だって……前見た時より綺麗になってたから、一瞬分からなかったんですよ」
「でも、私だって認識した後も、同じような冗談をかましたでしょ? もしかして自殺志願者なのかしら?」
「そ、そんな事ないですよ! というか、どうして人の姿に?」
「ちょっと高ぶってるのよね。あの人の精気を吸い取った所為で、いろいろと大変なのよ」
真耶には出せない大人の色気を醸し出す飛縁魔に、同性の真耶も気恥ずかしさを覚え視線を彷徨わせる。
「あの人が相手をしてくれれば一発で収まるんでしょうけども、見ての通り忙しそうだしね~」
「あ、相手ってその……」
「えぇ、お喋りよ」
「へっ?」
「何素っ頓狂な声を出してるの? お喋り以外何の相手をするって言うのよ?」
「わ、分かってますよ! お喋りですよね!」
あからさまに勘違いさせようとしていた飛縁魔だが、真耶はその事に気付けずに大慌てで声を張り上げる。その慌てっぷりに満足そうに笑う飛縁魔だったが、一夏から不機嫌オーラが流れ出て来てしまい、さすがに自重せざる得なくなってしまった。
「あの人が忙しそうにしてるんだから、貴女も手伝ったらどうなの? 貴女はあの人の部下なんでしょ?」
「えっと、部下というか後輩というか……まぁ、一夏さんは学年主任ですし、部下と言えばそうなんですが……」
「さっさと終わらせないと、このまま徹夜になっちゃうわよ? ただでさえ忙しかったんだから、あの人の体調が心配よ」
「専用機だけあって、所有者の体調とか分かるんですね」
「全然? だってあの人、誤魔化すのとか上手だし」
「何なんですか、もー!」
またからかわれたと思った真耶は、飛縁魔に抗議するが、彼女は全く相手にすることなく待機状態に戻ってしまったのだった。
完全に勘違いさせるつもりだった飛縁魔