目を覚ましたナターシャは、何者かの気配が側にあることに気が付き、警戒しながら声をかける。
「誰? 私に何の用?」
「あら、目を覚ましたのね。ダーリンに報告してくるわ」
「ダーリン? というか、ここは何処なの?」
「それも含めて、ダーリンから説明してもらった方が良いわよ、ナターシャ・ファイルスさん」
自分の名前を知られている事に驚きはしたが、それを表情に出す事はしなかった。
「へー、さすが軍人と言ったところなのかしらね」
「人の事を観察するなんて、随分と感心しない趣味を持ってるようね」
「別に観察したわけじゃないわよ? ダーリンならこう思っただろうなって感想を言っただけだから」
そう言い残して、謎の女性は部屋から出ていってしまった。ナターシャは慌てて自分の状況を確認した。
「何でこんなところで寝ていたのかしら、私は……確か、銀の福音の飛行実験の為に出頭して、その後どうなったんだっけ……」
自分が銀の福音に乗り込んだ後からの記憶がない事に気付き、慌てて腕を確認する。そこには、しっかりと待機状態の銀の福音があり、とりあえず安心したのだった。
「目が覚めたようだな」
「イチカ・オリムラ……」
「アメリカ人アピールはしなくていいぞ」
「あら、そうなの? 久しぶりね、一夏」
「ドイツ軍との演習以来だから、二年以上前だな」
「さっきの女性は?」
「女性? あぁ、飛縁魔の事か」
一瞬だけナターシャが言った女性の意味が分からなかった一夏だったが、すぐに飛縁魔の事だと理解し、待機状態の飛縁魔を指差した。
「お前は会った事なかったんだっけか?」
「一夏の専用機が人の姿になるというのは聞いたことがあったけど、あんなに美人だとは思わなかったわよ。というか『ダーリン』ってどういう意味なの?」
「あいつは……人前では止めろと言っているんだがな」
本気で頭が痛いのか、一夏は顔を顰めながら頭を抑える。それだけでナターシャは、一夏があえて呼ばせているわけではないと理解した。
「何でかは知らんが、千冬や束に対抗してるんだよな、こいつは……」
「千冬って、一夏の妹よね? 束というのは、篠ノ之束博士の事かしら?」
「そうだ。というか、お前は何でここにいるのか分かってるのか?」
「全然分からないのよね……確かこの子の飛行実験の為に呼び出されたんだけど、その後の事は全然。ねぇ一夏、いったい何があって私はここにいるのかしら?」
ナターシャにまっすぐ見つめられ、一夏は誤魔化す事は不可能だと理解し、居住まいを正してナターシャを見つめ返した。
「少し衝撃が強いかもしれないが、それでも構わないか?」
「……大丈夫よ」
少し躊躇いを見せたが、ナターシャは力強く頷いて一夏に答えた。
「アメリカ・イスラエル両国が共同開発の名目で作り上げたIS『銀の福音』は、突如暴走して研究所から飛び立ち、日本の領空を猛スピードで飛んでいこうとしたところを、俺が撃ち落し回収した。この件の報告を受けた時、銀の福音にパイロットは搭乗していないという報告を受けたんだが、飛縁魔のセンサーで確認した所、お前が乗っていたということだ。何かアメリカから疎まれるような理由に心当たりはないか?」
「心当たり……」
既に束と一夏で明るみにしているのだが、あえて本人に尋ねたのは、万が一の可能性があるかもしれないからだ。
「特に思い当たる事はないわね……ただちょっと前に、軍上層部と衝突したけど、それが原因とは思えないもの」
「衝突?」
「軍の資金を不正利用している事が分かって、その事を追求したの。でも、それだけでこの子を暴走させるとは思えないのよね」
「いや、たぶんそれが原因だろうな。軍の不正を見逃せないお前が、軍にとっては邪魔になり、事故に見せかけて消そうとしたんだろう。しかも、自分たちの手は汚さず、我々IS学園にそれを実行させようとした」
「ちょっとまって! 一夏のその考えだと、事故の原因はアメリカにあるように聞こえるんだけど」
「実際その通りだからな。既に束を動かして事故の原因は突き止めてるからな。IS後進国となりかけているアメリカとしては、イスラエルの技術を盗み、潤沢にある資金を使ってIS先進国へ躍り出るつもりだったんだろ。そこに丁度、お前をどう処分するか悩んでいた軍上層部がけしかけて、今回の実験のパイロットにお前が選出されたという感じだ」
「それじゃあこの子は、いったいどうなるの?」
「お前がそのまま持っていればいいだろ。ただし、アメリカに帰ってもお前の居場所は無いと思うがな」
「どうすればいいのよ……」
「とある暗部組織の当主に話は付けてあるから、しばらくは表世界から姿を消せるだろう。その間にアメリカの膿を出しきっておくから、そうしたら復帰すればいいだろ」
「そんなこと出来るの? って、一夏と篠ノ之博士が動けば、世界は変わるんだっけ」
「甚だ不本意ではあるがな」
ナターシャの言葉に、一夏は苦笑いを浮かべたのだった。
真耶より良い雰囲気