自分の置かれている現状を理解するのに多少手こずったが、ナターシャはとりあえずアメリカに戻ることはせず、一夏の言う通りにすることを決めた。
「というか、今日ここに一夏がいたのって偶然なの? それとも、最初から私が巻き込まれることを知っていてここにいたの?」
「まったくの偶然だ。俺は今、IS学園の教師として、一年の臨海学校の付き添いでここに来ていただけに過ぎないからな」
「IS学園……一夏が姿を消したって話題になってたけど、IS学園で教鞭を振るってたのね」
「何処で話題になってるのかは知らんが、そうやってマスコミがしつこく追いかけてくる所為で普通の生活が送れなくなったから教師をやっているだけだ」
「織斑家なんて、IS操縦者を志す少女たちの聖地になってるみたいだしね。今は誰も住んでないのに」
千冬が寮生活を始めたため、織斑家は現在無人なのだが、それでもそこを訪れる人が少なくないと、前に誰かから聞いたことがあった一夏は、ますます頭が痛い思いをしているのだった。
「いい加減マスコミ共をどうにかしないと、あの家を売り払うしかなくなりそうだ」
「帰るつもりがあるのかしら?」
「落ち着いて生活出来るなら、わざわざ学園の敷地内で生活する必要はないからな」
「一夏が結婚でもしてIS界から完全に引退すれば、その内大人しくなるんじゃない?」
「結婚する相手なんていないし、そもそもそれで落ち着くとは思えん。むしろ束が率先して暴動を起こす未来しか見えないんだがな」
「あー……篠ノ之博士って確か、一夏の事を追いかけまわしてるんだっけ?」
「端的にいればストーカーだろうな」
ナターシャは前に一夏から束の変態行動の一部を聞かされたことがあったので、それほど驚かない。それでもやはり幻想は捨てきれていないのか、若干顔を顰めたりはするのだった。
「アメリカの問題が片付いたとして、私は受け入れられるのかしら? 良くも悪くも、アメリカを変えてしまう事には変わりないわけでしょ?」
「今の腐った状態を善としてる時点で、アメリカという国家は一度死んだ方が良いだろうな。そこからどう蘇るかは、俺たちが知った事ではない」
「一夏が言うと本気で殺せそうだから怖いわよね……」
「無関係な人間を巻き込むつもりは無いが、国全体が死んでいるなら仕方ないだろ」
「自称世界の警察を名乗ってるから、そう簡単にはいかないんでしょうけども、一夏と篠ノ之博士の二人がかりなら楽勝なんでしょうし……私はどうすればいいのか悩むわよ」
「壊しつくした後のアメリカを復興させればいいだろ。お前が先頭に立って何とかすれば、数年である程度までは育つだろうしな」
「何の根拠があって言ってるのか分からないけど、一夏にも手伝ってもらいたいわよ」
壊すんだから直せと言いたげなナターシャの視線を完全に無視して、一夏はポータブル版のモニターに表示されたデータをナターシャに見せる。
「これは?」
「これがアメリカ政府の現状だ。不正の温床となっている」
「こんなに酷いの……」
「何処の国も大差ないのかもしれないが、束が少し調べただけでこれだけ出てきたんだ。本格的に捜査すれば、もっと出てくるかもしれないぞ」
「こんなことになってるなら、一度壊した方が良いって一夏が言う理由も分かるわね……でも、私はISの指導は出来ても、国の舵取りなんて出来ないわよ?」
「腐った連中の中にだって、まともな人間がいるかもしれないからな。その人に任せればいいだろ。いれば、の話ではあるが」
「どれだけ政治家を信用してないのよ……」
「というか、俺は人間を殆ど信用してないからな」
「理由は何となく知ってるけど、そこまで酷かったのね……」
千冬誘拐以前から一夏は政治家やマスコミを信用していない傾向にあったが、あの事件以降それに拍車がかかっている。面白おかしく報道したり、事実とは異なる情報を流したりするマスコミや、言葉だけでまったく実行に移さない政府に、一夏は呆れ、見限ったのだった。
「そんなに嫌いなら、一夏がやれば良いじゃないの」
「そんな面倒な事を俺がすると思ってるのか? そもそも、アイツらは自分が悪いと思ってるのかすら疑わしいんだから、人一人がとやかく言ったところで響かないだろうが」
「篠ノ之博士なら、脳に直接響かせることが出来そうだけど?」
「人体実験など俺が認めるわけ無いだろうが。いくら腐った人間とはいえ、アイツのおもちゃにしていいなんて誰が決めた」
「一夏と篠ノ之博士が決めれば、それが世界の決定になると思うけど?」
「そんな世界が嫌だから、俺は内に籠ってるんだろうが」
自分たちが右と言えば右になるような世界などまっぴらごめんだと、一夏は本気で嫌がって見せた。それが面白かったのか、ナターシャはしばらく笑い転げたのだった。
人間嫌い、面倒事嫌い、騒がしいの嫌い……これだけ上げると駄目人間だな……