夏休みに実家で生活するためには、まずライフラインを復旧させなければいけないので、千冬は一夏の姿を探して学園中を彷徨ていた。
「何処にもいないな……」
「部屋にもいなかったし、職員室でも知らないと言われたからな……電話は繋がらないのか?」
「さっきから掛けてるんだが、電波が届かないところにいるか、電源が入ってないと言われてる」
「こんな時、姉さん並みの気配察知能力があればと思うぞ……」
千冬と箒もそれなりに気配に敏いのだが、一夏や束と比べたら一枚も二枚も堕ちる。もちろん、普通の人間と比べれば格段に凄いのだが、二人はその事に気付いていないのだった。
「メールを送っておけば後で読んでくれるんじゃないか?」
「だがそれだと、明日までに間に合うか分からないじゃないか」
「というか、前以て一夏さんに頼んでおけば、今日になって慌てる事は無かったんじゃないか?」
「今更そんなこと言われてもな……実家で生活するためにはそれをしなければいけないっていう事に気付いたのがついさっきだからな……」
「相変わらずだな、お前は……」
「仕方ないだろ! そもそも学園で生活する事に慣れてきてるんだから、ライフラインの事を考える事なんて滅多にないだろうが」
「まぁ、それはそうかもしれないが……」
千冬の剣幕に圧され、箒も納得しかけてしまったが、ゴールデンウィークに一度帰っているのだから、忘れてる方が悪いのだ。
「さっきから何を騒いでるんだ、やかましい」
「あっ、一夏兄」
「学校では――まぁもう終業式も済んでる事だし見逃してやる。それで、何の用だ」
「実家に戻るからライフラインの復旧をお願いしようと思って」
「それなら既に手配してあるから、明日からでも生活出来るだろうな」
「さすが一夏さん……千冬の考えてる事などお見通しでしたか」
「不本意ではあるが、こいつの兄を長年務めてきてるからな」
本気で不本意だと言いたげな一夏の態度に、箒は同情をしてしまった。それだけ千冬の兄と言うのは大変なのだという事を、箒も間近で見てきたからであろう。
「それじゃあ、私は荷物をまとめたりするから、一夏兄、ありがとう」
「今度からは早めに言えよな……」
「大丈夫だよ。私が忘れてても一夏兄が忘れないでしょ?」
「だから、いい加減人に頼るのは止めろと言ってるんだが」
この調子では千冬が自立するのはまだまだ先だなと感じて、一夏は盛大にため息を吐いて職員室に入っていった。
「これでいつでも遊べるな」
「いや、まずは宿題を片付けない事には遊べないだろ。お前の家が使えるのなら、そこで宿題合宿と行くか」
「本当にお前は実家が嫌いなんだな……」
「嫌いというわけではないが、なんとなく居づらいんだよな……稽古しなければいけないような気になってきて」
「とにかく、鈴にも連絡を入れておくか。候補生の合宿は夏休み後半だって言ってたし、アイツも宿題に苦戦するだろうからな」
「私たち三人集まっても、大して戦力になるとは思えないがな……」
「一人で悩むよりかは良いだろ」
千冬の言い分に頷いた箒は、携帯を操作して鈴にメールを送る。その一分後、鈴からの返信メールが届く。
「相変わらず返信が早いな……今から来るそうだ」
「今から来られても困るんだが……今日は私、寮で寝るつもりなんだが」
「まぁ私もだが……とりあえず今から片付けられるものは片付けようって事じゃないのか?」
「来たわよー! って、何で部屋の前で突っ立ってるの?」
「お前が来るのが早すぎるだけだ……とりあえず、出来そうなものから片付けるとするか」
「その前に荷物を纏めておかないと、明日帰れないぞ」
「そうだったな」
「なに? まだ纏めてなかったわけ?」
「ついさっき一夏兄にライフラインの事を話したばっかだからな。とりあえず明日から使えるそうだから、ウチに泊まるのは明日からな」
「分かってるわよ。とりあえず今は、出来るだけ多くの宿題を片付ける事だけを考えましょう」
「だから、私たちは荷物を纏めるのが先だと言ってるだろうが」
鈴にツッコミを入れる箒だったが、あまり意味はない事を箒自身が良く分かっているのか、あまりキレは無かった。
「早いところ荷物を纏めてよね。あたしだって色々と予定が詰まってるんだから、宿題に割ける時間は多くないのよ」
「偉そうに言うな! というか、私たち三人で宿題に挑んでも、片付けられる未来が視えないのは何故だ?」
「そりゃ、成績不振者だからじゃないの? 下から数えた方が早いでしょ、あたしたち」
「威張っていう事ではないが、確かにそうだな……とりあえず、取り組んだという形が見せられれば良いんじゃないか?」
「そうね。とりあえず空欄を埋めておけば、やった感じは出るでしょうし」
「本当に大丈夫なのか?」
一抹の不安を懐きながらも、他に案を出せなかった箒は、とりあえず荷物を纏める事にしたのだった。
前日に思い出す残念さ……