IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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この人しかいないな……


頼れる大人

 着替えを済ませて食堂にやってきた二人を、簪は首を傾げて眺める。本音は気にしてない様子だが、簪には何か感じ取れたようで、しきりに首を傾げている。

 

「何だ? 私たちの顔に何かついてるか?」

 

「ううん、そうじゃない……なんだか分からないけど、さっきより二人の距離が開いてる気がする」

 

「距離が?」

 

 

 そんなにか、という感じで首を傾げる二人を見て、簪もつられて首を傾げる。

 

「肉体的距離じゃなくて、精神的距離って言えばいいのかな……お風呂で何かあったの?」

 

「あぁ、それならちょっとしたことだ。私の胸は成長しないのに、箒ばかりデカくなってズルい! という話をしただけで」

 

「ふーん……まだ大きくなってるんだ、その胸」

 

「か、簪? 何だか視線が怖いんだが……」

 

「別に? 早くご飯を取ってくれば?」

 

「あ、あぁ……そうするか」

 

 

 簪の殺気の籠った視線に耐えられなくなったのか、箒がそそくさと食券売り場に逃げ出し、千冬も後を追いかけるように去っていく。

 

「かんちゃん、気にし過ぎじゃないかな~?」

 

「そういえば、本音もまた成長してるんじゃない?」

 

「そ、そんな事ないよ~?」

 

「何で私のは大きくならないんだろう……」

 

 

 自分の胸に視線を落として呟く簪を見て、本音は苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。

 

「本音もだけど、お姉ちゃんも大きいし、虚さんだって、私ほど小さくないし……」

 

「大きくたって良い事ないし……あっ、ほら! 織斑せんせ~はあんまり興味なさそうだし」

 

「な、何でそこで織斑先生の名前が出るのよ!?」

 

「へっ? だってかんちゃんだって織斑せんせ~のこt――」

 

「一夏兄がどうかしたのか?」

 

 

 本音が何かを言い掛けたところで、千冬が戻ってきてしまった。このまま今の話題を続けると面倒な事になると本音も弁えているので、何とかして誤魔化そうと頭をフル回転させた。

 

「楯無様だけじゃなく、かんちゃんも織斑せんせ~にお世話になってるから、何かお返しが出来ないかどうか話してたんだよ~」

 

「まぁ一夏兄ならそれくらいは出来て当然だからな。というか、お返しなんて渡しても受け取ってもらえるわけ無いと思うが。あの人は仕事の一環としてやってるわけだから」

 

「あっ、そっか……う~ん、でもお世話になりっぱなしじゃ更識家の名折れだしね~、かんちゃん?」

 

「そ、そうかもしれないね……何時かまとめてお返し出来れば良いけど、その間にどれだけの恩が積み重なっちゃうか分からないもんね……特にお姉ちゃんは、織斑先生にしか相談出来ないような悩みがあるわけだし」

 

「簪の姉さんは、一夏さんの事をそこまで信頼しているのか? あの人ならそれくらい可能だろうが、何をしたらそこまで信頼されたんだ?」

 

「まぁ、お家騒動の時に、織斑先生の助言のお陰で表面上は穏便に済んだからね。その事もあって今でも相談してるみたいだよ」

 

「お家騒動? 表面上? 随分と物騒な話題だな」

 

「更識家の本当の姿を知ってると、そうでもないんだけどね」

 

 

 さすがにそこまでは話せないと言外に告げる簪に、千冬と箒は「仕方ないか」という表情を浮かべて話題を変えることにした。

 

「簪は合宿とかないのか?」

 

「あっても日本だし、それほど急がなくても良いんじゃないか? 鈴たちは出国の手続きとかが面倒だからって言ってたが、簪はそんな事気にしなくてもいいわけだしな」

 

「うん。私も合宿はあるけど、まだ急がなくても大丈夫なんだよ。もちろん、準備はもうしてあるから、後は当日合宿所に向かえば大丈夫」

 

「簪が合宿に出かけるとなると、本音はどうするんだ? ここでだらだら過ごすのか?」

 

「う~ん……多分生徒会の仕事に駆り出されると思うよ~? かんちゃんも楯無様もいなくなるとなると、私にやらせようとおね~ちゃんが動くだろうし」

 

「本音が手伝って役に立つのか?」

 

「私だってやる時はやるんだよ~?」

 

 

 千冬の視線を受けて、本音が自信なさげに答える。その答えを聞いた三人は、揃ってため息を吐いた。

 

「全然役立たなさそうに聞こえたのは、私だけではなかったようだな」

 

「というか、そこは断言するところじゃないのか?」

 

「そもそも、そういう事は自分で言っちゃ駄目なんだけど」

 

「ほえ~?」

 

 

 本音の実力を正確に把握しているはずの簪ですら、本音のこの態度が本気なのか演技なのか見分けがつかない。それくらい普段の本音は頼りないのだ。

 

「だいじょ~ぶ、だいじょ~ぶ。いざとなったら織斑せんせ~が助けてくれるだろうし」

 

「だから、何時までも織斑先生に甘えてたら、社会に出た時大変だよ?」

 

「織斑せんせ~を更識で雇えば問題ないじゃないか~。そうすれば、織斑せんせ~だって普通の生活を送れるかもしれないし」

 

「まぁ、ウチは無駄に広いからね……織斑先生一人を住まわせるくらいは平気だけど……ね?」

 

 

 簪の視線の先では、千冬が物凄い形相で本音を睨みつけている。それだけで簪の言いたい事を理解した本音は、多少引き攣った笑みを浮かべて誤魔化したのだった。




やれば出来る子、でもやらない子……
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