束を部屋まで引きずってきた一夏は、そのまま部屋に束を放り込み、そしてその前に腰を下ろして睨みつけた。
「そ、そんなに見られると束さんも恥ずかしいんだけど」
「くだらんことで時間を無駄にする暇など無いと言っただろうが」
「酷いな~。束さんはこんなにもいっくんの事を愛しているというのに~」
「それで、お前のラボからガラクタを盗んだ犯人は見つかったのか?」
「あらら……束さんのラボに忍び込んだと思われるのは、この女だね。だけど、少し調べたけどこの女、死んでるんだよね」
「死んでる? 幽霊がお前のガラクタを盗んだとでも言いたいのか?」
「ガラクタは酷くないかな~? そうじゃなくて、アメリカ軍の資料を盗み見たけど、この女は戦死者のリストに載ってたんだよ。だから、公式的にはこの女は存在しないはずなんだ。だけど、この別の研究の資料の被験者リストにも名前が載ってるんだよ」
「別の研究?」
束が差し出した資料に目を通した一夏は、次第に表情を曇らせていく。その変化を見た束は、何故か嬉しそうに微笑んでした。
「いっくんの役に立てて嬉しいな~。それで、今回の報酬は如何ほどで?」
「バカな事をした件を不問にしてやる。それで十分だろうが」
「え~!? 全然釣り合ってないじゃないか~!」
「なら怒られたいと?」
「えっ!? 何で束さんの苦労の方が価値が低いのさ!?」
「それだけお前が俺の邪魔をしているからだろうが!」
一夏のカミナリが堕ち、束は背筋を伸ばして頭を下げた。いくら束とはいえ、一夏を本気で怒らせたら大変な目に遭うと分かっているので、最後の最後ではちゃんと謝るのだ。
「それで、この実験とやらは成功しているのか?」
「そこまではまだ……だけど、サイボーグなら束さんが作った警報機が作動しないことも、気配がない事も納得出来るんだよね」
「生身の部分が残っているだろうが。そこに反応しないという事は、やはりお前の発明品はガラクタだという事だな」
「そもそも、束さんが認識できないんだから、警報機だって認識するわけ無いじゃないか! って、この前おんなじことを言った気がするけど……」
「いい加減他人に興味を持ったらどうだ?」
「有象無象に興味なんて持てないからね~。いっくんの事なら隅々まで調べたいって思うけどさ~……って、冗談だから! だから怒らないで!」
一夏の怒気を敏感に察知した束が、一夏が怒る前に頭を下げて話題を戻した。
「それからこのサイボーグ女だけど、どうやら犯罪組織に属してるみたいなんだよね」
「犯罪組織?」
「組織の名前は亡国機業って言うらしいんだけど、何をしてるのかさっぱり分からないんだよね……」
「活動が分からないという事は、所属してるやつらも当然分からないという事か」
「何か昔見た事あるような奴らがいた気もするんだけど、とにかく全体像が分からないから何とも言えないんだよね」
「見たことがある? 映像があるのか?」
「正確にはあったんだけど、いつの間にかデータが消されてたんだよ」
さすがに悪びれている束の態度に、一夏はため息を吐くだけに留めた。
「つまり、また侵入されたという事か」
「もしくは、束さんのPCに侵入してデータを消したか、だけどね。さすがにそっちは無いだろうから、やっぱり頻繁に束さんのラボに忍び込んでる輩がいるんだと思うよ」
「監視カメラとか設置していないのか、お前のラボは」
「見たくもない有象無象の姿なんて録画しても意味ないしね~。そんなことにメモリを使うくらいなら、箒ちゃんとちーちゃんの成長記録を――って、いっくん? 何だか怖いよ?」
「バカな事を言ってないで、とっとと帰ってセキュリティの強化でもしてろ!」
再び一夏のカミナリが束を襲い、束は弾かれたように自分のラボに戻っていった。
「しかし、アイツが見覚えがあるという事は、もしかしたら……」
もしかしたら最悪の事態なのかもしれないと考えていた一夏だったが、ポケットで携帯が震えている事に気が付き考えを中断し、携帯を取り出した。
「布仏姉? なんだいったい」
言葉ではそう言っているが、虚の用件などだいたい予想がついているので、一夏はため息を吐いてから電話を取った。
「どうかしたのか?」
『お嬢様が不在で、生徒会の仕事が滞ってしまっているのです。織斑先生もお忙しいと分かっているのですが、少し手伝っていただけないでしょうか?』
「まぁ、こちらもお前たちに仕事を頼んだりしてるからな。というか、妹はどうしたんだ?」
『机に突っ伏して寝てしまってます……』
「やれば出来る子じゃなかったのか? まぁいいか。もう少ししたらそっちに顔を出すから、それまではお前たちだけで頑張れ」
『分かりました』
電話を切って、一夏は先ほどまで考えていた事を頭の隅に追いやって、速攻で自分の仕事を終わらせたのだった。
本音は駄目だな……