簪とナターシャの戦いを見ながら、本音は隣に腰を下ろした一夏に視線を向け、そして気になってる事を尋ねた。
「織斑せんせ~は、私が疑うって分かってて気配を掴ませたんですよね?」
「何故そう思ったんだ」
ほぼ答えのような返事をする一夏に、本音は自分の考えを告げる。
「おね~ちゃんか楯無様かは分からないですけど、私が護衛で本当に大丈夫かどうかを確かめてほしいって頼まれたんじゃないですか?」
「自覚があるなら、もう少し頑張った方が良いと思うぞ」
「かんちゃんにも言った事ありますけど、これでもちゃんと警戒してるんですよ~?」
「そのようだな。あの程度で気づけたとなれば、それなりに周りに意識を向けている証拠だからな」
「やっぱり試したんですね~? 生徒を試すなんて、悪いせんせ~ですよ~?」
「簪には言うなと言われているから言わなかったが、今お前たちの家の問題に手を貸している。だから刀奈や虚は、簪の警護をお前に任せて良いのかどうか、確信が欲しかったんだろ」
「ウチの問題って、更識家ですよね? まだ何か問題があるんですか?」
一夏の言葉に表情を改めた本音が、身体を乗り出して一夏に問いかけるが、一夏は何も言わずゆっくりと本音から距離を取った。
「まだ何も分かってない状況だから、お前たちには何も言えないな。余計な心配をかけるわけにもいかないし、そもそも何もないかもしれないからな」
「でも、織斑先生が手を貸してるという事は、かなりマズい状況なのではありませんか?」
「さてな。それじゃあ、ナターシャには終わったら元の場所に帰るように言っておいてくれ」
「何処に行くんですか?」
「これでも忙しい身でな。仕事がまだ残ってるんだ」
そう言って一夏は立ち上がり、一度だけ簪の動きを見て頷いてからアリーナを後にしたのだった。
途中で一夏がいなくなったことに気付かなかった二人は、アリーナ席に本音しかいない事に首を傾げたが、本音からの説明で納得した。
「やっぱり織斑先生は忙しいんだね」
「それで、私はこのままでいいのかしら?」
「織斑せんせ~は、元の場所に帰るようにって言ってましたよ~」
「あらそう。じゃあ私は帰るけど、二人はどうするの?」
「私たちもそろそろ部屋に戻ろうかと思います。アリーナの使用時間もそろそろ終わりますし」
ナターシャと別れて、本音は先ほど一夏から聞かされた事を簪に話すかどうか悩んだ。特に口止めされたわけではないが、一夏の言う通り不確定な事を話して余計な心配をかけるのは得策ではないのだ。
「難しい顔してるけど、何かあったの?」
「別に何も無いよ~? 晩御飯は何を食べようか考えてただけ~」
「まったく本音は……さっきの真面目な雰囲気は何処に行ったのよ」
「あれをずっとやってると疲れちゃうからね~。それに、織斑せんせ~が偽物じゃないって分かったから、もう警戒する必要もないかな~って」
「一応本音は私の護衛なんだから、警戒し続けてくれないと困るんだけど?」
「前にも言ったけど、のんびりしながらも警戒してるからだいじょ~ぶだよ。あっ、おりむ~にシノノンだ~!」
何かを誤魔化すように千冬たちの側に駆け寄った本音に、簪は何か不吉な予感を覚えたが、すぐに首を振ってその考えを追いやった。
「簪に本音か。今日は忙しかったんだな」
「何で?」
「帰国パーティーに参加せず、こんな時間まで外にいたという事は、それなりに忙しかったという事だろ?」
「これでも織斑先生の後釜として期待されてる身だからね。稽古をしっかりと積んでおかないと合宿所とかでの失望の視線が突き刺さるんだよね」
「まぁ一夏兄レベルを期待されてるわけだからな、簪は」
「あのレベルは絶対に無理だからね……子供の頃テレビで見たけど、織斑先生は普通に強かったもん」
「まぁ一夏さんの印象は、第二回モンド・グロッソ決勝の一戦で固定されがちだが、普通に戦っても負けるような人じゃないからな」
「私も見た事あるけど、織斑せんせ~は普通に強かったよね~。今もこの学園にいる誰よりも強そうだし~」
「普通に最強だと思うが?」
箒の言葉に、本音も同意したが、勝てる可能性がありそうな人物に心当たりがありそうな雰囲気だった。
「本音は一夏兄が誰かに負けると思ってるのか?」
「現役を退いたんだし、もしかしたらってぐらいかな~。というか、織斑せんせ~が普通に強いのは授業とか見れば分かるしね~。少なくとも、一年生じゃ敵わないと思ってるよ~」
「もしかして、お姉ちゃんなら勝てるんじゃないかって思ってるの? だったら無理だよ。お姉ちゃん、ISとか関係なく織斑先生には敵わないから」
「頭上がらないもんね~」
一夏に世話になっている事は知っているので、簪が言いたい事も理解しているが、本音は楯無ならもしかしたらと思っているのだった。
誰が勝てるって言うんだ……