千冬たち四人を叱った後、一夏は背後に隠れている過保護な姉に声をかけた。
「その程度で隠れてるつもりか?」
「あはは……本音は誤魔化せても一夏先輩は誤魔化せませんね。まぁ、あの子と一夏先輩を比べるなんて失礼なんですけど」
「お前は何処まで過保護なんだか……」
「妹を心配するのはお姉ちゃんとして当然の事ですから」
「束はあまり箒の事を心配してる様子はなかったが?」
「それは、篠ノ之博士が異常なだけですって」
「虚もあまり心配してる様子は無いが――いや、あれは違う意味で心配してる感じだが」
「まぁ本音ですから」
虚が心配している事は、本音が真面目になるかどうかの心配なので、自分とは違った心配の仕方だと楯無も分かっている。だから一夏のセリフに素直に応える事が出来たのだ。
「それで、一夏先輩から見て、簪ちゃんと本音はどの程度なのですか?」
「簪の方は気配が素直だからな。ひねくれた姉に似ないようにしているのかもしれないな」
「それって、私がひねくれてるって言ってるんですか?」
「素直ではないだろ?」
一夏にそう言われ、楯無はどう返せばいいのかに困ってしまった。自分でもひねくれた部分があると自覚しているのもあるが、結構素直に甘えてきたつもりだったのに、あまり意識されていない事に絶句してしまった部分もあった。
「それで、こんな朝っぱらから妹の観察か?」
「一夏先輩に話があったから探してたんです。そうしたら簪ちゃんたちを見てる一夏先輩を見つけたから、こっそりと見ていたんですけど……一夏先輩には気づかれちゃいました」
「話? これ以上の面倒事は御免だぞ」
「そうじゃないですよ。この間言っていた人の都合がついたので、今度顔合わせをしておいた方が良いかなって思ったので」
「あぁ、そういえば言ってたな。顔合わせも何も、同級生なんだろ?」
「話したことは無いんですよね? 一夏先輩の学生時代は、殆ど篠ノ之博士の相手で潰れてたんですから」
「人に言われると何だか腹立たしいな……」
自分で言う分には諦めがつくのだろうが、楯無の口から束の相手で時間を潰していたと聞くと、一夏は無性に束を説教したくなった。
「わ、私の事を睨まなくても良いじゃないですか」
「ん? あぁ、すまん。完全に無意識だった」
怖がらせたことによる謝罪なのか、一夏は楯無の頭を軽く撫でる。いきなり撫でられて驚いた楯無だったが、次第に気持ちよさそうに目を細め、終いには自らすり寄ってくる始末になっていた。
「それで、時間と場所は」
「……はっ! えっと、今度の日曜日、場所は駅近くの喫茶店で時間は十三時です」
「日曜日というと、明後日か」
「一夏先輩は彼女の事を知らないでしょうけど、向こうは一夏先輩の事を知ってるので大丈夫だと思いますけど、一応私も――」
「お嬢様。何時まで織斑先生にすり寄ってるおつもりですか?」
「う、虚ちゃんっ!? 何時から見てたのよ」
「最初からです。織斑先生は気づかれてたようですが」
「完全に油断してたわ……」
まさか自分も監視されていたとは思っていなかった楯無は、驚きのあまり虚から距離を取って息を整えた。
「すみません織斑先生。ウチのご当主様が迷惑を……」
「気にするな。割と何時も通りだから」
「それもそうですね」
「ちょっとっ! 二人して私を虐めてるの? か弱い女子高生を虐めて楽しいの?」
「か弱くは無いと思われますが……織斑先生はどう思われます?」
「ノーコメントで」
「目が笑ってるじゃないですか! というか、いつの間に虚ちゃんとそんなに仲良くなったんですか」
「お嬢様に迷惑を掛けられるという共通点から、割かし最近仲良くさせていただいていますが」
楯無の問いかけに答えたのは、問われた一夏ではなく虚だった。自分が原因で虚が一夏と仲良くなったと知らされ、楯無は複雑な思いを懐く。
「虚ちゃんが一夏先輩と親しくなるのは、更識の現状を考えれば嬉しい事なんだけど、原因が私ってなると何だか複雑よ……これで虚ちゃんもライバルになったわけだし」
「何のですか?」
「そりゃ一夏先輩と結婚する為に勝ち抜かなければならない相手って事よ。一番の強敵は篠ノ之博士かと思ってたけど、こりゃ虚ちゃんの方が手ごわそうね」
「なっ!」
楯無の言葉に、虚は口をパクパクと動かすだけで、何も言えなくなってしまう。一方で一夏はというと、自分には関係ないとでも言いたげな表情で視線を明後日の方へ逸らしていた。
「お嬢様はもう少し慎みを持たれた方がよろしいのではないでしょうか? 僭越ながらこの私が、お嬢様に慎みと言うものを教えて差し上げますので、今度の日曜日は何処にも出かけないでくださいませ」
「えっ、ちょっ……今度の日曜日は私も一夏先輩と――」
「宜しいですね?」
「は、はいぃ……」
あまりの剣幕に、楯無はそう答えるしかなかったのだった。
虚には敵わない楯無でしたとさ……