真面目な雰囲気で対峙していたが、一夏が呆れたのを感じ取って碧の雰囲気が柔らかいものに変わった。それを受けて一夏の方も警戒心を解き、何時も通りの雰囲気に変えたのだった。
「高校時代は話す機会が無かったから分からなかったけど、織斑君ってかなり疑り深いんだね」
「人を信じるなど馬鹿らしいからな。常に何時裏切られてもいいように行動していた」
「暗部社会で生きてる私が言えることではないけど、そんな生き方疲れないの?」
「もう慣れた。というか、さっきまでとは随分と口調が違うんだな」
「お仕事の話は終わったからね。今は同級生として話してるのよ」
「三年間クラスは一緒だったが、話した事など無かっただろ?」
「だって、織斑君は篠ノ之さんの相手で忙しそうだったから。話しかけようとは思ったけど、何時も席でぐったりしてたから可哀想だなって思って、結局話しかけられなかったのよ」
まさかクラスメイト達に同情されていたとは思っていなかったのか、一夏は碧の言葉に驚いた表情を浮かべ、そして情けないとでも言いたげにため息を吐いた。
「あの阿呆のせいで、俺は同情されていたのか」
「世紀の大天才相手に『阿呆』なんて言えるのは、地球上で織斑君だけだろうね」
「あんなのを天才だと言っていたら、この世界は壊れた方が良いんじゃないかと思えるがな」
「もうとっくにぶっ壊れてるでしょ? 篠ノ之さんと織斑君が壊しちゃったんだし」
「俺にそんなつもりは無かったがな」
「織斑君がISの凄さを宣伝したんでしょ」
碧が言っているのは第二回モンド・グロッソ決勝の事を言っているのだとすぐに理解した一夏は、不本意だと言いたげな表情で腕を組んだ。
「日本政府のクソ加減に呆れただけだ。俺は別に、世界をどうこうしようなんて考えなど無かったからな」
「それが分かってるのは一握りの人間だけで、後はただ単に貴方を怒らせてはいけないとしか感じてないわよ」
「刀奈にも似たような事を言われた事がある。というか、そんなに怒ったつもりは無かったんだがな」
「あれを『怒ってない』なんて言えるのは、貴方くらいなものよ。どう見ても激怒してるようにしか見えなかったし」
「家族に手を出されたら相手を完膚なきまでに叩きのめすのは当然だろ? というか、あの時はISの暴走で俺の意思はあまり表に出てなかったんだが」
「その暴走の原因は、織斑君の感情だったんでしょ? だったら、怒ってたって言えるんじゃない?」
「怒ったというより、憎んだといった方が正しいだろうな。無能な政府の言いなりにならなければならない自分の境遇と、そんな茶番に巻き込まれてしまった千冬を攫った相手を」
「政府の人間を無能なんて言い切れるのが羨ましいわね。私は思ってても言えないもの」
「思ってはいるんだな」
一夏の指摘に、碧は恍けた表情で肩を竦め、コーヒーを啜って誤魔化した。誤魔化される必要は感じなかったが、別に気になることでもないので、一夏もそれ以上は追及しなかった。
「それで、今後は更識家の情報は小鳥遊が知らせてくれるのか?」
「といっても、真新しい情報は出てこないと思うけどね。精々不穏な動きが見られるって教えてあげられるくらいよ。私はさっきも言ったように、下っ端だからね」
「楯無から信頼されてるやつが下っ端とはな……やはり更識家は一度解体した方が良いんじゃないか?」
「簡単に言わないでちょうだいよ……それが出来るならとっくにしてるわ。それこそ、刀奈ちゃんが楯無を継ぐ時にね」
「それで、刀奈の味方はどれくらいいるんだ?」
「……残念ながら、ほとんどが反楯無様一派に取り込まれ、残っているのは布仏家をはじめとする数少ない従者だけ。亡国機業を通じて、表に出せないお金を増やしてるって感じですかね」
碧の報告に、一夏は盛大にため息を吐いた。楯無や虚からある程度は聞かされていたとはいえ、内部を正確に調べてきた碧の情報では、どれだけ誤魔化そうとしても誤魔化せないのだろう。
「こうなってくると、楯無側の小鳥遊はあの屋敷に居辛いんじゃないか?」
「ご安心を。殆どいませんので」
「あぁ、そういえばそうだったな……四六時中IS学園を見張ってれば、屋敷に戻ってる暇など無いわけか」
「今の時代、携帯で報告は出来ますから。もちろん、盗聴などの心配は付き纏いますが」
「お前が見張っている事は、楯無たちは知らない事になっているようだが」
「それは当然ですよ。誰にも言うなという指示ですから」
「それを俺に言っても良いのか?」
「だって、最初からバレてたでしょ? だったら隠す必要もないわよ」
「違いない」
碧の開き直りに、一夏は頷いて同意した。一時間も経っていないが、一夏は碧が信用出来る人物だと思えたのだった。
忙しい人ですから