楯無たちに見られている事に気付きながらも、一夏は特に気にした様子も無くオータムが破壊していった箇所を眺めていた。
「一夏がこの程度の事で頭を悩ませるなんて、何かあるわけ?」
「ナターシャか……多少は出歩いても構わないとは言ったが、大っぴらに出歩かれるのは都合が悪いんだがな」
「今は授業中でしょ? だから、多少目立っても大丈夫だと思うけどね」
「授業中だが、今日は片づけで一日が潰れるだろうから、どのクラスも授業なんてしていない。だから、お前の姿を見て気にする生徒が出てくる可能性の方が高い」
「もう隠れて住む必要なんて無くなってきてるんだけど、一夏って心配性よね」
「面倒な事になりそうだからだ」
アメリカからの抗議の回数も減ってきているので、ナターシャが表舞台に立っても問題はなくなりつつあるのだが、それでも一夏は完全に問題が解決するまでは大人しくしてもらいたいのだった。
「それで、この穴が何かあるのかしら?」
「別に。穴自体に問題はない――いや、あるにはあるが」
「それで、穴が問題じゃないんだとしたら、何が問題なのよ」
「個人的問題だから、ナターシャが気にする事ではない」
「ますます気になるじゃない。一夏が個人的に気にする事って、いったいどんなことなのかしら?」
ナターシャが一夏に詰め寄ろうとすると、飛縁魔が突如人の姿になり二人の間に立つ。
「あんまり『私の』ダーリンに近寄らないでくれる? 思わず食べちゃいそうになるじゃないの」
「貴女、ISなんでしょ? 一夏とそんなに親しい関係なのかしら?」
「この人は私の所有者でご主人様なんだから、知り合い程度の貴女よりよっぽど親しい関係なのよ。分かったら大人しくここじゃない次元に戻ったらどう?」
「ISが人と結ばれるなんてありえないわよ。幾ら女の姿をしているからといって、貴女に人間の機能が備わっているとは思えないんだけど?」
「……お前ら、生徒が近くにいるところでそういう話をするな。というか、俺の話を俺抜きでしてるんじゃない」
「ダーリンがあんまり異性に興味を示さないから、私たちが勝手に話を進めてるのよ。このままじゃダーリン、本当に一人で生きていくことになるわよ」
一夏の周りには、彼を意識している女子が多くいる事は飛縁魔も理解している。だが一夏がそう言った対象で相手を見ていない事も知っているので、せめて自分だけは最後まで一夏と一緒にいようと決めているのだ。
「そう言った事に時間を割いてる暇がないからな。別に一人でもなんとかなるだろ」
「貴方ほどの優秀な遺伝子を後世に残さないのは損失だと思うけどね。前に冗談として聞いたことがあるけど、篠ノ之束との子が出来れば、これほど恐ろしいものはないって」
「冗談でもそんな事にはならないから安心しろ。俺と束の関係は、未来永劫ただの幼馴染だ」
「ほんとアイツの事が嫌なのね。私に言ってくれれば、誰にも気づかれずに片付ける事が出来るわよ?」
「別に存在を消したいほどアイツの事を嫌ってるわけではない。むしろそうしたいのはお前だろ」
飛縁魔と束との関係が良好ではない事は、ナターシャの知らぬところだったのか、ISの生みの親である束にそんな感情を懐いているなんてと、ナターシャは驚愕した。
「貴女と篠ノ之博士の間に何があったのかは知らないけど、彼女を消すのは世界的損失に繋がるから止めた方が良いわよ。一夏も、彼女の事はなんだかんだで信頼してるみたいだしね」
「使い勝手がいいだけの話よ。ダーリンが本気を出せば、あんな女に頼らなくても大丈夫なんだから」
「さすがに衛星をハッキングしてストーカーするつもりなど無いぞ」
「そんなところを真似しろなんて言わないわよ。ただダーリンが本気になれば、それくらい出来るって言いたいだけだから」
「……一夏、いったいどんなことをすれば、ここまで想われるのかしら?」
「俺が知るか。こいつの性格は、束が面白半分でこうしただけだ」
「その点だけは感謝してるんだけどね。だって、こうしてダーリンといちゃつけるわけだし」
スルリと一夏の腕を取り、自分の胸に押し付ける飛縁魔を、ナターシャは羨ましげに見つめているが、一夏は顔を顰めてすぐさま腕を離した。
「あんまり悪ふざけが過ぎるなら、本気でスクラップにしてやるぞ」
「ダーリンがそんな事するわけ無いじゃないの。ISの事を本気で愛し、信じてくれている貴方がね」
「………」
「貴方は、ISが戦闘に使われる事を快く思っていない。生みの親と言われている篠ノ之束以上にね」
自分の事を知られているのがこれほどやりにくいのかと、一夏は内心舌打ちをして、飛縁魔の言っている事を無視して作業を再開するのだった。一夏が照れていると分かっている飛縁魔は、にやにやと笑みを浮かべながら、ナターシャに勝ち誇った表情を向けたのだった。
結果ISの勝ち……なのか?