IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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彼女にだってときめく権利はあるはずなのに……


真耶の気持ち

 一夏に怒られた事により、一年一組の中に流れていた弛緩した空気は霧散し、一夏がいないにもかかわらず授業中は緊張感に包まれていた。

 

「(私一人の授業でここまでの緊張感なんて、今まであったでしょうか……)」

 

 

 慣れない緊張感に包まれながら、真耶は淡々と授業を進めていく。何時もなら茶々が入ったりして一向に進まない授業も、今日はすいすい進んでいるので、真耶の方が戸惑いを覚え始めていた。

 

「ここまでで質問はありますか?」

 

 

 沈黙に耐えられず真耶が問い掛けるが、誰一人口を開こうとはしない。質問はないと確認出来た事と共に、どことなく寂しさを覚えた真耶だったが、ここで自分から脱線させるわけにはいかないので、先に進めようとして時計に視線をやり、このくらいがちょうどいいだろうと判断して教科書を閉じる。

 

「少し早いですが、ここまでにしましょう」

 

 

 真耶のその言葉を合図に、教室内に充満していた緊張感は一気に解け、何時も通りの一年一組の空気に戻った。

 

「(こっちで安心するのは、教師としてどうなのかと思わなくはないですけど、やっぱり皆さんにはこっちの方が似合ってますね)」

 

 

 まだ隣のクラスは授業中だというのに騒ぎ出した生徒たちを、真耶は笑顔で見つめていた。これが一夏だったら注意したりするのだろうなと考えながらも、今はこの光景を見ていたいという気持ちが勝ったのだ。

 

「山田先生」

 

「オルコットさん? どうかしましたか?」

 

 

 教室を去ろうとした真耶に話しかけてきたセシリアに、思わず不思議そうな視線を向けてしまう。授業後に生徒から質問を受けるなど、過去に経験した事など無かったので、真耶はどう身構えて良いのかが分からなかったのだ。

 

「イギリス政府から連絡がありまして、亡国機業が盗んだと思われる機体が現れたら、そちらに出動するようにと命令が下りました。授業中であろうと連絡があれば抜けるかもしれませんので、代理のクラス代表を決めておこうと思うのですが、よろしいでしょうか?」

 

「私は構わないと思いますが、織斑先生に尋ねた方が良いんじゃないですか? 私はあくまでこのクラスの副担任ですから」

 

「そう卑屈にならなくてもよろしいのではありませんか? 山田先生は精一杯教師としてやっていると思いますわよ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

 生徒に励まされた形なのだが、真耶は何故か嬉しそうに微笑んでいる。

 

「ところで、亡国機業に盗まれた機体というのは?」

 

「ご存じありませんの?」

 

「私は一介の教師ですから、そう言った情報はあまり入ってきませんので」

 

「確かに、国の威信にかかわるからと大々的なニュースにはなっていませんし、そう言った世界と繋がりが無さそうな山田先生が知らなくても仕方ない話かもしれませんね」

 

「じゃあ詳しい話は聞かないでおきますね。織斑先生に代理のクラス代表の話はしておきますので、後でお伝えします」

 

「お願いしますわ」

 

 

 綺麗な一礼を見せてから、セシリアは真耶の許を去る。真耶も教室から職員室へ移動し、一夏の姿を見つけて急ぎ足で近づく。

 

「織斑先生、少しよろしいでしょうか」

 

「かまいませんよ」

 

 

 職員室で出来る話ではないので、真耶は一夏を廊下に連れ出し、人気が無い事を確認してからさっきのセシリアの話を一夏に伝えた。

 

「――というわけなのですが」

 

「オルコットまで駆り出すとは、イギリス政府も人手不足なんだな」

 

「一夏さんは知ってたんですか?」

 

「まぁ一応報告は受けていたからな。それで、代理のクラス代表だったな」

 

「あっ、はい」

 

「オルコットの一任で構わないと伝えておいてくれ。もちろん、あまりにも酷い人選だったら口を挿むかもしれないが」

 

「オルコットさんの見立てなら、そこまで酷い事にはならないと思いますが」

 

「念の為だ。間違っても織斑や篠ノ之に任せようとはしないようにとも伝えておいてくれ」

 

 

 そう言って一夏は職員室に戻っていってしまった。取り残された形になった真耶だったが、すぐに一夏の背中を追いかけるように職員室に向かった。

 

「山田先生」

 

「はい」

 

「織斑先生と何を話してたんですか?」

 

「特にこれといった話は……ちょっと相談したくて織斑先生を連れだしただけなので」

 

「良いですよね、山田先生は」

 

「はい?」

 

「だって、織斑先生とあんなに親しそうに話せるんですから」

 

「私たちは学園に勤務するようになってからの付き合いですけど、山田先生は候補生だった頃からの付き合いですからね。気楽に話しかけられるのが羨ましいですよ」

 

「それ程気楽にでは無いんですが……それを言うなら、更識さんの方が気楽に話しかけられてるような気もします」

 

 

 自分より楯無の方が一夏に近しいのではないかと思い、真耶は人知れずショックを受けたのだった。同僚たちは真耶のそんな内情を知らないので、急に落ち込んだ真耶にどう声をかければ良いのかが分からず、無言で側を離れていったのだった。




ときめけば千冬と束に訊問されそう……
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