千冬たちのお祝いが終わり自室に戻る途中、一夏は部屋から感じる気配にため息を吐きたくなった。
「あの部屋は関係者以外立ち入り禁止だったはずだがな……ここ最近、気軽に客が来過ぎな気がする」
もう一度ため息を吐いてから、一夏は扉を開け部屋の中に入る。予想に反して、今度はクラッカー攻撃は無かったので、少し拍子抜けな気分も味わったが、表情には一切出さなかった。
「一夏先輩、お誕生日おめでとうございます」
「おめでと~ございます~」
「本音、その態度は失礼だよ」
「ほえ~?」
「布仏妹は既に気持ちが食事に向いているようだな」
キッチンに隠れている虚に向けての言葉だったので、楯無は盛大にため息を吐いて虚をこちらに呼び寄せた。
「だから言ったんですよ。織斑先生相手に隠れ通せるわけがないって」
「私たちの気で虚ちゃんの気を隠せば何とかなると思ったんだけど、まさか本音の視線でバレるとは……」
「最初からバレてるってば……」
「お前もさっさと姿を見せたらどうだ?」
「あら? 虚ちゃんも囮だったんだけど、私もバレてたのね」
一夏に声をかけられ、隠れていた碧も姿を現わした。現れた碧に、何故か彼女が隠れている事を知っているはずの本音が驚いた。
「いきなり現れないでくださいよ~」
「本音ちゃんは私がいた場所分かってたのに、何で驚くのよ」
「だって、碧さんの気配って本当につかみにくいんだもん~。こんなの織斑せんせ~レベルじゃないと気づけないって」
「まぁ私たちでも掴みにくいものね、碧さんの気配は」
「これでも隠密の世界で生きてきたので、そう簡単に気づかれたら生きていけない世界なのよ。まぁ、織斑君にはすぐに気づかれてたけどね」
「人の部屋に勝手に忍び込むウサギのお陰で、気配には敏いんだ」
「篠ノ之博士と比べられるなんて、私も捨てたものじゃないわね」
碧も十分な実力者ではあるが、一夏や束と比べれば一枚以上落ちると思い込んでいる。だが楯無たちから見れば、碧も十分な人外であり尊敬に値する大人なのだ。
「碧さんも一夏先輩同様、自己評価低いですよね」
「慢心しない事は良い事だと思いますけど、低すぎるのも問題ですよね」
「そんなこと無いと思うんだけどね。まぁ、比べる相手が悪すぎるって分かってるんだけど、上を目指すとなるとやっぱり織斑君レベルじゃないと駄目なのよ」
「お嬢様もこれくらい上昇志向があれば、今のような事にはなってなかったのかもしれませんね」
「碧さんを褒めるのと同時に私を貶すの止めてくれない!?」
楯無の反応に、一夏と碧が笑みを浮かべる。微笑ましいと思える余裕がある二人とは対照的に、楯無は二人に向かって抗議する。
「一夏先輩も碧さんも、虚ちゃんの味方なんですか!」
「別にそういうわけじゃないが、お前がもう少ししっかりした方が良いのは確かだろうな」
「刀奈ちゃんも頑張ってるんだけどね。当主に求められる期待値が高過ぎるのかもしれないのよね」
「まぁ、暗部当主だからな。並大抵の実力じゃ駄目なんだろう」
「フォローするのかトドメを刺すのかどっちかにしてくれません!?」
「別にトドメを刺すつもりは無いが、もう少し頑張った方が良いというだけだ。何時までも俺が手伝えるわけではないからな」
一夏が自分を心配してくれているというのは分かっているので、楯無は複雑な表情でうなだれる。
「分かってるんですよ、私だって……一夏先輩に頼りすぎてるって……でも、私だってまだ高校生なんですから、少しくらい大目に見てくださいよ」
「それを言うなら、私だって高校生です。お嬢様だけが特別なわけでは無いんですよ」
「裏切りによって中枢部が殆ど若者に代わってしまったから仕方ないのかもしれないな。落ち着くまでは手伝ってやる」
「そのまま一夏先輩が当主になってくれても良いんですよ? 私でも簪ちゃんでも、どっちと結婚しても本流の血筋ですから」
「お姉ちゃんっ!?」
急に自分に話題が向いて、簪はいつも以上に驚いてしまった。
「簪ちゃんだって、少なからず一夏先輩の事を意識してるわけだし、簪ちゃんの性格上、他の男子と仲良くなるのは難しいんじゃない? ましてやIS界は女しかいないわけだし」
「IS企業の中には男性だっているし、頑張れば私だって……」
「かんちゃんには無理だと思うよ~? 小学校の時だって、男子から逃げてたんだし」
「あれはだって……」
「まぁ確かにあれは男子が悪かったけど、その所為でかんちゃんは男性恐怖症になりかけてるし、同年代の友達も出来なかったしね~」
「それは本音だって原因でしょ! 貴女がおかしな行動ばっかりしてたから」
「ほえ~!?」
急に怒られて、本音は慌てて部屋の中を駆け出す。それを追いかけるように簪も駆け出し、部屋の中には微笑ましい空気が流れたのだった。
主に騒がしいのは楯無だけだったな……