一夏の許からアジトに戻ってきたマドカは、部屋に戻るなり来客を迎えていた。迎えるといっても、彼女が招き入れたわけではなく、勝手に入ってきたのだが。
「何処に行っていたのかしら?」
「別に。お前らには関係ないだろ」
「これでも貴女の上司で、貴女の行動を逐一報告しなければいけない立場なのよ。だから、関係ないわけじゃないのだし、さっさと教えてくれるかしら?」
「家族に会いに行っただけだ。アイツらじゃない、本当の家族にな」
「それって一夏の事でしょ? あの子は貴女の事を家族だと認めてくれてるのかしら? 生まれてすぐ離れ離れになった貴女の事を」
「っ!」
一夏が整備してくれたサイレント・ゼフィルスで攻撃を繰り出したが、相手には簡単に躱されてしまった。だがその威力は出かける前と比べ物にならないくらいの強さで、相手を驚かすくらいには役に立った。
「あらあら、随分と威力が増してるわね……これも一夏の力というわけなのかしら?」
「お前が気安くお兄ちゃんの名前を呼ぶな!」
「別にいいじゃないの。私は一夏が生まれた時から知ってるんだから。もっとも、向こうは私の事なんて知らないでしょうけども」
「……それで、本当の用件は何だ。私はお前と話したくないんだよ――スコール」
「さっき言ったでしょ? 私は貴女の行動を逐一報告しなければいけない立場なのよ。貴女の両親であり、現状亡国機業を牛耳っているあの二人にね」
マドカが所属している隊の長であり指導役でもあるスコールに、マドカは鋭い視線を向ける。彼女の両親が事実上亡国機業のトップであるのは知っているが、自分の行動をあの二人に知られているのは気に食わないのだ。
「だいたい何で私の事を気にしてるのよ、あの二人は。家族の情があるとでも言いたいわけ?」
「そんな物があるなんて思って無いでしょ。一夏を敵対視してる時点で、血縁なんて気にしてない事が分かるわけだし」
「お兄ちゃんに敵対しようなんて、馬鹿丸出しだよ」
両親は一夏を敵対視して、何時か倒してやろうと思っているのだが、そんなこと不可能なのだからとマドカは思っているし、一夏を敵視してる時点で、両親の側にいたいなどと思うはずも無かった。
「とりあえず、一夏と会っていたって事でいいのね?」
「サイレント・ゼフィルスを整備してもらった。お兄ちゃんは一目見ただけでサイレント・ゼフィルスの問題点を見抜き、瞬時に整備してくれた」
「さすがは一夏ね。是非とも味方に欲しい人材だわ」
「無理に決まってるじゃん。幾らお兄ちゃんが世間に興味が無いって言っても、進んで悪の道に落ちるわけないしね。それに、いけ好かない篠ノ之束や織斑千冬といった面子が、お兄ちゃんを手放すとも思えないし」
「そっちが本音でしょ? まぁとにかく、私は貴女の行動を報告するだけだから、一夏と会って何をしたかなんて興味が無いわ。それにあの一夏が、貴女が普段妄想してるような事をするとも思えないしね」
「っ!? 何故それを知っている!?」
「監視されていると分かっているのに、あんなところであんなことをする貴女がいけないのよ」
スコールに自分の奇行を知られていたと知り、マドカは恥ずかしさと怒りから再びサイレント・ゼフィルスを展開して攻撃を繰り出した。
「いくら物が無い部屋だからといって、あんまり派手に攻撃しないでくれるかしら? 避けるのも楽じゃないのよね」
「……さすがはサイボーグという事か。生身の人間なら避けられるわけがない」
「別にサイボーグというわけじゃないわよ。ちょっと人とは違うだけで、ベースは人間なんだから」
「言ってろ。とにかく、私はお兄ちゃんと一緒にいたいがために亡国機業に力を貸しているだけだ。あいつらの部下になったわけでも、お前の部下になったわけでもないからな」
「はいはい。それはもう耳に胼胝ができるくらい聞いたわよ。それじゃあ、私はこれで。あっ、それから勝手に外出した罰で、貴女は今から二日、この部屋から出られないからね。これは決定事項だから、騒いでも無駄よ」
自分が規律違反した事は分かっていたが、部屋に軟禁される程の罪を犯したとは思っていなかったマドカは、スコールに襲いかかろうとしたが、スコールが部屋の扉を閉める方が早かった。
「少しは反省しなさい――M」
「その名で私の事を呼ぶな!」
「コードネームなんだから、我慢しなさい」
Mと呼ばれることを嫌うマドカだが、スコールはまともに相手をせずに部屋から遠ざかっていく。一人取り残されたマドカは、この部屋に唯一ある家具であるベッドに身体を投げ出し、打ちっぱなしの天井を見詰めて気持ちを落ち着かせる。
「お兄ちゃん……」
つい数時間前までは幸せな気持ちだったのにと、マドカは一夏の事を思いだしながら眠りに落ちたのだった。
狂った愛を懐く女が多いな……