修学旅行に向けて、一年一組でも班決めが行われた。
「クラスが違うから、鈴や簪とはあまり一緒に行動出来そうにないな」
「班行動の時は仕方ないが、ホテルや自由時間には一緒にいられるだろ」
「そうだけどさ～……」
千冬と箒が本音を慰めているのは、彼女が簪の護衛だと知っているからだ。さらに最近はずっと一緒にいるところを見ているので、簪と離れるのが不安に感じるという事を理解出来たからである。
「織斑せんせ～にお願いして、かんちゃんと同じ部屋になれないか聞いてみよう」
「無理だと思うぞ」
「いくら一夏兄だからと言って、学校側が特例を許してくれるとは思えないしな……」
「本音さん。いい加減諦めてどっちの班に入るか決めてくださいませ。本音さんが決めてくだされば、私もどちらかに入って班決めは終わるんですから」
本音以外は既に班決めが終了しており、後は本音がラウラ班に入るか千冬班に入るかだけである。セシリアはどちらでも大丈夫という事で、本音が選ばなかった班に入る事になっているので、本音が覚悟を決めればこの時間は終了になるのだ。
「おりむ～たちの班に入れば、私がいなくても大丈夫かな？」
「気配でお前の事を見つけられるだろうから、単独行動しようとしてもすぐに見つけ出してやるからな」
「じゃあラウラウの班なら……」
「私ならお前の首にひもをつけて逃がさないようにするな。もちろん、私だってお前の気配を探すくらいは出来るんだがな」
「困ったなぁ……これじゃあかんちゃんの護衛としての務めを果たせないよ……」
「旅行先くらい仕事の事を忘れたら如何ですの？ 学校行事なのですから、先生方も簪さんだけでなく私たちの安全に気を配ってくださるでしょうし」
「それは分かってるんだけどさ～……」
いくら怠けているように見えても、本音は常に簪の身の安全を第一に考えて生活しているので、それを忘れろと言われても難しいのだ。
「何だ、まだ終わってないのか？」
「一夏兄！？ あっ、いや……織斑先生」
「布仏妹はどちらの班にも入りたくないのか」
「そういうわけでは無いんですけど……」
「更識の事が気になって仕方ないという顔だな」
「だって、織斑せんせ～はこの気持ちの理由を知ってますよね？」
「気にし過ぎだと言いたいが、何かが起こる確率の方が高いからな。ましてや更識姉や布仏姉がいない状況を、奴らが見逃すとも思えんし」
「じゃあ――」
「だが、クラス行動を無視する事は許さん。常に更識に気を配ってるお前の事は認めるが、これは学校行事だ。規律を乱す奴には罰を与える」
容赦のない宣告に、本音は全身の力が抜けたようにその場にへたり込んだ。そんな本音を見ていた周りの人間が、一夏から放たれるプレッシャーに全身を震わせていた。
「い、一夏教官のあのプレッシャー……初めて会った時と同じかそれ以上だ」
「今の一夏兄は本気だ。本気で罰を与えるつもりなんだ……」
「あの感じは、姉さんが一夏さんが入っている風呂に特攻を仕掛けた時と同じ……あの惨劇を繰り返すというのか」
「み、みんな何を驚いてるの？ ボクにも分かるように説明して」
一夏の怒気に触れたことがなく、過去に周りでそんな事も起った事がないシャルロットが、震えだした三人に問いかけるが、答えは無かった。
「わ、分かりました。それじゃあ、おりむ～たちの班で」
「では私がラウラさんの班ですわね。これで千冬さんたちの班が、千冬さん、箒さん、相川さん、布仏さんの四人で、ラウラさんの班が、ラウラさん、シャルロットさん、鷹月さん、私で決定ですわね」
「ボケが三人って、私結構大変な班に入っちゃったかもしれないわね……」
千冬班の最後の一人、相川清香が、改めてメンバーを見直してそう呟く。基本的に箒は千冬専用のツッコミで、彼女自体はボケ側の人間なのだ。そこに本音を加えたところで、戦力的には無意味である――それどころか、ボケの比重が高まっただけだ。
「それではこのメンバーでお願いしますわ」
「確かに受け取った。では次の授業の準備をしろ」
そう言って一夏はセシリアから提出されたメンバー表を持って教室から出ていく。次は実習なので、教室が更衣室と化すのを理解しての行動だ。
「もう少し一夏兄と話していたかった」
「遅刻して一夏さんの出席簿アタックを喰らいたいなら構わないが、一夏さんが私たちの着替えを見るとも思えないから、諦めて着替えろ」
「まぁ一夏兄なら、私たちの裸を見たくらいで何とも思わないだろうがな」
一夏に見られるという想像をした女生徒たちが恥ずかしそうに視線を彷徨わせたが、幸いな事に千冬たちにその光景を見られることはなく、彼女たちに追いかけまわされることはなかった。
「はぁ……かんちゃんが心配だよ」
そんな中でも本音は、ただただ簪の事を心配していたのだった。
本音がしっかりしてるように見えるとは……