他の生徒たちと一緒に避難していた簪は、遠目だが襲ってきた一人が前に自分を襲ってきた相手と一緒だという事に気付いた。
「やっぱりあの人もいるよね……」
「かんちゃん、どうしたの?」
急に震えだした簪を、本音が不思議そうに眺める。
「文化祭の時に学園を襲った相手が、今もいたから……」
「やっぱりその相手には恐怖心があるんだね。今回は下がれって言われた時はもしかしてとは思ったけど、やっぱり織斑せんせ~はかんちゃんの事をよく見てるんだね」
「専用機持ちで、警戒にも当たってないのは私だけだもんね……」
千冬と箒のように勝手な行動を取らなかっただけ遥かにマシなのだが、簪は自分が専用機持ちでありながら警戒にも参加出来なかった事を恥じていた。だが実際にオータムを遠目で見ただけでこの有様なのだから、警戒チームに参加してたら周りにもっと迷惑を掛けていただろうと、一夏の判断を漸く受け入れられた気分になっていた。
「かんちゃんは言い付けを守ったんだから、安心して旅行に戻れるよ。その代わり、周辺の警戒を任されたはずのおりむ~としののんは、織斑せんせ~に怒られるだろうけど」
「でもあれは、二人が狙われたから遠ざかる為に離れたんだと思うよ?」
「狙われた? やっぱり篠ノ之博士が一から造ったISを狙ったのかな?」
「どうだろう、そんな感じじゃなかったけど……」
簪には相手が、明らかな殺意を持って千冬を襲っていたように見えたのだが、本音はその事に気付いていないようだった。
「碧さんはどう思いました?」
「あら、気付かれてたのね」
誰もいなかったはずの空間に気配が生じ、碧が姿を現わす。
「織斑君から口止めされてるわけでもないし教えますが、恐らく千冬ちゃんを狙ったのはもう一人の妹でしょうね」
「もう一人の妹? それが織斑せんせ~が言ってた『家庭の事情』ってやつなの~?」
「いろいろと複雑みたいですからね、織斑君の家も」
「碧さんは何でその事を知ってるんですか?」
「前に学園に現れたのよ、その妹が。織斑君が敵と密会してるんじゃないかって疑ってみたら、あっさりと教えてくれたんです」
一夏としては話すつもりは無かったのだろうが、碧が疑ったから教えてくれたんだろうなと、簪にはそう思えた。だが本音は見たことも無い千冬の妹に興味が惹かれたようだった。
「おりむ~の妹さんって事は、やっぱり美人さんなのかな~?」
「そこが気になるの? あれが千冬の妹なら、サイレント・ゼフィルスを動かしてる状況は最悪だと思うけど」
「実力は今この場にいる候補生全員で挑んでも勝てるかどうか……連携訓練を積んでない分、より不利でしょうね。相手は偏向射撃もマスターしていますし、千冬さんをどうしても消し去りたいようですから、その邪魔をする他のメンバーにも、一切の容赦はしないでしょうから」
「何でおりむ~の妹さんはおりむ~を恨んでるんですか~? 過去に因縁でもあるんでしょうか?」
姉妹で殺し合うなんて考えられない本音は、その事を碧に尋ねた。
「あの家の女性は、織斑君の側にいられないとストレスを感じるらしいんですよ。だから、自分が側にいられなかったのに千冬ちゃんは――って感じだと思うと、織斑君は言ってました」
「なるほど~。おりむ~の妹さんもブラコン全開娘なんだね~」
「その表現はどうなの?」
「でも、そういう理由ならおりむ~が狙われるのにも納得だよ~。ちょっとでも私たちが織斑せんせ~と話してるだけで不機嫌になるおりむ~の妹さんだから、ずっと側で生活してたおりむ~に殺意を懐いちゃうのも仕方がないと思うけど~?」
「確かに……」
身に覚えがあったからか、簪もすぐに本音の言葉に頷く。最近ではそんな事も少なくなってきてはいるのだが、未だに一夏と話すと千冬から鋭い視線を向けられることがあるのだ。
「一番の安全策は、おりむ~たちと別行動する事かな」
「京都ではそれでいいかもしれないけど、学校では難しいんじゃないの? 別行動って言っても、結局は同じ敷地内なわけだし」
「その辺りは織斑君が何とかすると思いますし、刀奈ちゃんや虚ちゃんもいますから。もちろん、私や、そこで隠れて聞いているナターシャさんも助けますから。ね?」
「べ、別に盗み聞きしてたわけじゃないわよ? 出るタイミングを逸しただけで」
「まぁかんちゃんの護衛として雇われてるわけですし、いてもおかしくなかったですけど」
「すっかり忘れてた……さすが元軍人」
「別にそういうわけじゃないんだけどな……」
何故か二人に褒められる展開になったので、ナターシャは困ったように頬を掻き碧に助けを求めたが、碧はあえてその事に気付かないフリをして、音も無くその場からいなくなってしまったのだった。
本音の表現は的を射てるなぁ……