修学旅行の残りは平和に進み、帰りの新幹線では襲われた事など話題に上がらず、ただただ京都の思い出を語り合うだけの生徒が多かった。だが千冬たちは、実際に襲われたのでそうはいかなかった。
「あの後一夏兄にこっ酷く怒られたな……」
「だから言いましたのに。持ち場を離れるのは得策ではないと」
「だが、あのままあそこに留まれば、他の奴らにも被害が及んだかもしれないだろ。明らかに千冬を誘ってるような動きだったし、千冬一人で突撃させるとろくな結果にならないから私もついていったんだ」
「その結果、織斑先生に二人とも怒られたんでしょ?」
シャルロットの容赦のない一言に、二人は言葉を失い、ただただ口をパクパクするだけだった。
「それにしても、まさか千冬に妹がいたなんてね……驚きだわ」
「私だって知らなかったんだ。私にあんな可愛げのない妹がいたとは……仮にも妹なら、姉である私にあのような態度はとらないはずだろうが」
「まぁ、千冬さんと同じ病気だという話ですし、それでしたら仕方がないと思えなくも無いのですよ」
「しかし千冬の妹という事は、一夏教官の妹でもあるんだろ? 私にとっては戦いにくい相手であることには変わりはない」
「そう言えば、姉さんの世話をしている人だが、どことなくラウラに似ていたような気も……」
「そうか? 全然似てなかっただろ」
「確かに見た目は似てなかったが、雰囲気というか、纏っている空気というか……あぁ、上手く表現出来ない」
自分の不甲斐なさを恥て、箒は頭を掻きむしる。急に乱心した箒をシャルロットが宥めながら、ラウラに問いかける。
「ラウラは何か感じなかったの?」
「私は特に何も……だが、そんな事はあり得ないはずだしな」
「何か心当たりがおありですの?」
「確証はないし、そんな事は絶対にあり得ないからな……悪い、やはり何も分からない」
「アンタが何を考えてたのかは、あたしたちには分からないけど、一人で抱え込まないで相談くらいしなさいよね」
「あぁ、すまない……」
鈴に頭を下げながら、ラウラは自分の考えを否定したくてたまらない衝動に駆られていた。
「(私と同じ試験官ベビーの誰かが、篠ノ之束の手に渡ったという事なのか? だがドイツ政府がそんなヘマをするとは思えないし、篠ノ之束がその誰かを保護する確率など、殆どゼロのはずだ。箒たちの話を聞く限り、篠ノ之束は他人を認識出来ない病気のはずだから『私たち』の内の誰かを見つけたとしても、人と認識しないだろうしな)」
「ラウラ?」
「いや、何でもない。ところでシャルロット、あの飴はもうないのか?」
「鞄の中にあるけど……何か誤魔化してない?」
「そんな事はないぞ。ところで千冬、お前の妹だが――」
あからさまに話題を変えたラウラの事を、シャルロットは不審に思ったが、ラウラを素直にさせる手段がシャルロットには無かったので、とりあえずは追及を諦めた。
「妹ではない。あいつはただの敵だ」
「名前とか分からないのか?」
「何でそんな事を気にするんだ?」
「呼びにくいからだ」
ラウラの分かり易い返事に、千冬はため息を吐きながら彼女の名前を教えた。
「ヤツの名は織斑マドカ。私と一夏兄の妹に当たるらしいが、そんな事は関係ない。私と一夏兄との仲を引き裂こうとするヤツは、全力で叩き潰す!」
「また厄介なスイッチが入っちゃったみたいね……箒、後は任せるわ」
「おい、逃げるな」
「そろそろ一夏さんが見回りに来る頃でしょ? 二組のあたしがここにいたら怒られるもの」
そういって鈴は、厄介ごとから逃げるように隣の車両へと戻っていった。
「アイツ、千冬の相手が面倒になって逃げたな」
「ラウラもそう思うか?」
「だって、さっきから一夏教官はこちらを見ているが、鈴の事を注意する様子は全く無かった。それが今更になって一夏教官を理由に二組に戻るとは考えにくい」
「というか、行きの新幹線でも鈴はボクたちと一緒だったんだし、それで怒られるとは思えないもんね」
「というか鈴さん、クラスにお友達がいないのでしょうか?」
「「「………」」」
「な、なんですの?」
箒、シャルロット、ラウラから冷たい視線を向けられ、セシリアは慌てふためく。自分が何かおかしなことを言ったのだろうかと考えるが、セシリアには分からない。
「それは考えちゃいけない事なのに」
「そもそも鈴が私たちと一緒にいる時点で、答えは分かってるだろうが」
「アイツが二組で浮いている事は、私たちが触れて良い事ではないんだ」
「そ、そうだったんですの……それは失礼しましたわ」
「お前ら、鈴に対して辛辣だな」
漸く現実に復帰した千冬が、四人に対してツッコミを入れるが、言葉自体を否定する事ははしなかった。要するに千冬も同じ事を思っているのかと、セシリアは今後鈴が二組で浮いている事を考えるのは止そうと決めたのだった。
セシリアは悪くない……と思う