学園に戻ってすぐ、簪と本音は楯無から呼び出されて生徒会室へと向かった。呼び出された理由は、聞くまでもなく分かっていたので、簪の足取りはいつも以上に重いものになっている。
「かんちゃん、ゆっくり歩いても何も変わらないから早く行こうよ~」
「本音は良いわね、気楽で……」
「だって、楯無様がかんちゃんの事を心配してるなんて、何時もの事だからね~」
「織斑先生から報告は受けてるだろうし、ナターシャさんからも報告はあるはずでしょ? 私がわざわざ行って説明する必要なんてないじゃん」
「必要がある、無いなんて関係ないんじゃないかな~? 楯無様はただ、かんちゃんの顔を見て安心したいだけなんだろうし」
本音の言葉に、簪はますます憂鬱な思いを懐く。簪も楯無の事は嫌いではないのだが、あそこまで執着されると鬱陶しいと思ってしまうのだ。
「お姉ちゃんが私の事を心配してくれてるのは、素直に嬉しいんだけど、あそこまで暑苦しいとね……」
「楯無様の愛情表現はちょっと過激だもんね~」
「あれを過激の一言で片づけて良いのかどうか疑問だけど……一歩間違えればただの変態だよ?」
「まぁ、かんちゃんが入ってるって分かってるトイレに特攻をかけようとした時は、さすがに私とおね~ちゃんで止めたけどね」
「何それっ!?」
「まだ子供だった時だよ? かんちゃんが初めて一人でトイレに行った時の話だし」
「私、そんな話知らない……」
自分の知らないところで楯無の奇行が止められていたと知り、簪はガックリと肩を落とす。子供の時だったからといって、楯無の奇行を許せるわけではないのだ。
「兎に角、早く報告して部屋でゆっくりしようよ~。たまには大浴場でゆったりするのも良いし」
「本音がそうしたいなら、してくれば良いよ。私はシャワーで済ませるから」
「ほんとかんちゃんは人と一緒にお風呂に入るのが嫌なんだね~。別に発育不良じゃないんだし、気にしなくてもいいんじゃないかな」
「それは私に喧嘩を売ってるの?」
「そんなつもりは、全く無いよ~? おね~ちゃんにも言える事だけど、気にし過ぎなんだよ~」
そう言いながら胸を張る本音。胸を張った拍子に、本音の胸が上下に揺れ、簪の心中はますます穏やかではなくなる。
「喧嘩を売ってるようにしか見えないんだけど?」
「まぁまぁかんちゃん。織斑せんせ~は大きさなんて気にしてないみたいだし、かんちゃんにもチャンスは十分あると思うよ」
「な、何でそこで織斑先生の名前が出るのよ!?」
「だって、かんちゃんが意識してる相手って織斑せんせ~じゃないの? それとも、夏休みに会ったおりむ~とシノノンの友達のどっちか?」
「……本音には関係ないでしょ」
「関係あるよ~。かんちゃんの恋は応援したいから」
ただでさえ簪は異性に対して苦手意識を持っているのだから、という本音を聞いた気がして、簪はニコニコと笑う本音の顔から視線を逸らした。
「というか、報告に行くんでしょ? 早く行こうよ」
「あっ、誤魔化した」
あからさまな誤魔化しに対して、本音はあえて誤魔化されることにした。
「(おね~ちゃんや楯無様もだけど、随分と分かり易いんだよね~。あれで隠せてると思ってるんだから、私も随分となめられてるんだろうな)」
「なに?」
「なんでもな~い。それよりも早く行こうよ」
「そうだね」
漸く覚悟を決めたのか、簪の歩くスピードが何時も通りに戻る。本音はこれで漸く生徒会室に行けると思ったが、何故か簪の足は生徒会室とは逆の方向に進んでいる。
「かんちゃん、何処に行くつもりなの~?」
「な、何となく嫌な予感がして……ちょっと時間をおいてからにしない? 食堂でケーキでも奢るから」
「かんちゃんがそういうなら仕方ないね~。それじゃあ、甘いものを食べながら時間を潰そうか~」
簪が何を感じ取ったのかは本音には分からないが、ケーキを奢ってくれるという言葉だけで、本音が簪に逆らうはずもなかった。
「さ~て、どのケーキを食べようかな~」
「ほんと、本音は甘いものが好きだよね……まさか、それが原因!?」
「ほえ~? かんちゃん、何処を見てるのかな~?」
自分の胸に視線が来ているのに気が付いているが、あえて簪に自覚させる為に問いかけた本音だったが、簪の視線が鋭いものに変わりそうになったのを察知して、慌てて身をよじって簪の視線を胸から外させた。
「こうなったら、私もケーキをいっぱい食べる!」
「自棄食いは太るだけだと思うけど?」
「……じゃあどうすればいいの」
「かんちゃんは今のままで十分魅力的なんだから、気にしないのが一番だと思うよ」
ここで間延びすれば説得力に欠けると考え、本音は真面目な口調で答えた。それが功を奏したのかは分からないが、簪は幾分か落ち着いた雰囲気に変わったのだった。
ブラコンもだが、シスコンもだいぶ拗らせてる模様……