千秋はマドカに十時からと伝えたが、本日そのような会議は予定されていない。午後九時に千秋に呼び出されたスコールとオータムは、いったい何の用で呼び出されたのかと首をひねっていた。
「あの女、また訳の分からない事を企ててるんじゃねぇだろうな?」
「私に聞かれても分からないわよ。まぁ、今の状況でトップに逆らってもいい事はないし、話を聞くだけなら問題ないでしょ」
千秋の部屋の前に到着し、オータムは苛立ちを隠せない感じでノックをした。何故オータムがノックをしたのかというと、単純にオータムの方が扉に近かったからだ。
『開いてるわよ』
「ケッ」
千秋の返事にそう応えたオータムは、嫌々扉を開いて中に入る。そんなオータムの姿を、スコールは楽しそうに見ていた。
「悪いわね、二人きりの時間に」
「分かってて呼び出したんだろ。それで、何の用だ」
「まぁまぁ、そうイライラしないの。せっかく貴女向きの任務なんだから」
「オレ向きの任務? なんだそれは」
興味もなさそうだったオータムが、千秋の言葉に興味を示す。あまり付き合いのない二人だが、やはりトップだけあってオータムの扱いには慣れたものなのだろうと、スコールは冷静に分析していた。
「裏切者の始末よ」
「裏切者? この時期にそんな奴が出たのか」
「えぇ。組織の金を盗み出して、アジトから抜け出そうとしてる愚か者がね」
「始末って事は、何をしても良いんだな?」
「えぇ。殺しちゃっても構わないわよ」
千秋の言葉に、オータムは獰猛な笑みを浮かべるが、スコールは首を傾げた。
「(彼女がそんな事を言う相手なんて、かなり限られているはず……ましてこんなタイミングで組織を裏切るメンバーなんて……私が思ってる通りのターゲットなら、これは仕組まれた脱走劇?)」
「それで、そんなバカの名前は?」
「慌てないの。脱走者はこのルートを使って抜け出そうとするはずよ。発見は普通の監視者にさせて、最後の最後で貴女がそのネズミを始末して頂戴」
「随分と楽しそうな計画だな。というか、何処でそんな計画を知ったんだ?」
「トップには色々な情報が入ってくるのよ。それで、やるの? やらないの?」
「お前の都合に付き合わされるのは癪だが、やってやるぜ。なぁ、スコール」
「答える前に、ターゲットの名前を教えてくれないかしら?」
「スコール?」
オータムとしては、スコールも二つ返事で引き受けると思っていたので、彼女の対応に疑念を懐く。だが千秋の方は、スコールの反応を楽しそうに見ていた。
「貴女にしては随分と慎重ね。そんなにネズミが気になるのかしら?」
「別にそうじゃないわよ。そのネズミが誰かによっては、今後の編成に関わってくるから、早めに知っておきたいだけよ。これでも部隊長としてそれなりに忙しいんだから」
「そう……そういう事で納得しておいてあげるわ」
「そうしておいてちょうだい」
「何なんだ、いったい」
千秋とスコールとのやり取りの意味がよく分かっていないオータムは、今の攻防をどう見れば良いのか分からずに首をひねる。
「おい、いい加減ターゲットの名前を教えろよ。何なら今すぐ乗り込んでも良いんだぜ?」
「今の段階で乗り込んでも、白を切られるだけよ。だから、ネズミを捕まえるのは脱走を始めてから」
「そうかよ。それで、ネズミの名前は?」
「コードネームM、本名織斑マドカ」
「Mだぁ? 何でアイツが脱走を企てるんだ?」
「前回の戦いで自分の目標を達成出来なかったのが気に食わないんじゃない? それで自分一人でやってやろうとか思ったんじゃないかしらね。まぁ、組織の金に手を付けた時点で、目標なんて達成出来るわけないのに」
「(やっぱり……)」
千秋の言葉とその態度から、スコールはこれは仕組まれた脱走劇だと理解した。千秋の目的は、千冬とマドカの殺害及び、一夏に自分を殺させる事。その事を知っているスコールからしてみれば、この捕縛劇は千秋が仕組んだマドカ暗殺計画なのだろうとすぐに分かった。
「ネズミが動き出すのは十時以降、それまでしっかりと準備しておいてね」
「まぁMの事は前々から気に食わなかったし、この手で始末して良いならオレに文句はねぇぜ」
「分かったわ……」
やる気満々の返事をしたオータムとは対照的に、スコールは歯切れの悪い返事をする。千秋はスコールの反応に笑みを浮かべたが、それ以上何もせずに二人に退室を命じた。
「おいおいスコール、なんだかやる気無さそうだな。裏切者の始末は元々スコールの仕事だっただろ?」
「そうね……」
「……何か気になる事でもあるのか?」
「その事は部屋で話しましょう。私の考え過ぎという可能性もあるわけだし」
「お、おぅ……」
スコールの雰囲気に圧され、オータムはそう返事をするしかなかったのだった。
計画の裏まで読み切るスコールさん……