ここ最近一夏の気配が学園にない事が多いのが気になっている千冬は、授業中だというのにぼんやりとしていた。
「(私がこの学園に通うようになって半年、一夏兄が頻繁に学園からいなくなるという事は無かった。この時期は忙しいのかもしれないが、それならそれで私に教えてくれればいいものを……)」
「……さん、織斑さん」
「ん?」
何度も名前を呼んでいたのだろう。いつの間にか千冬の隣には泣きそうな顔をした真耶の姿があった。
「山田先生、どうかしましたか?」
「どうかしたかではなく、ちゃんと授業を聞いてましたか?」
「授業……? あっ、すみません。考え事をして聞いてませんでした」
「素直に言ってくれるのは嬉しいのですが、授業はちゃんと聞いていてくださいね?」
「はい、すみませんでした」
素直に頭を下げ、千冬は授業に集中しようと先ほどまで考えていた事を頭の中から追いやろうとして――
「(まさか、私に隠れておかしな女と付き合っているんじゃないだろうか……それとも、私にも言えない何かが起こっているのかもしれない……)」
――再び考え事に没頭してしまった。
「(もし一夏兄が私の知らないところで変な女に騙されていたとしたら、私に黙っているのも納得が出来るが、一夏兄がそこらへんの女に騙されるはずもないし、そんな事があれば束さんから私に連絡が来るはずだ。そうなると一夏兄はいったい何をしているというんだ?)」
一夏が女に騙されるはずがないと信じていながらも、どこかで一夏は人付き合いが得意な方ではないから、自分が見ていないと騙されてしまうのではないかと考えてしまうのだった。
「では、今日はここまでです。明日までに、さっき言った部分を調べて提出してくださいね」
「ん?」
いつの間にか授業が終わり、宿題が出された事に気が付いた千冬は、いったい何を調べれば良いのかが分からず、授業が終わってすぐに箒に尋ねた。
「山田先生が言っていたのって、いったい何のことなんだ?」
「お前、注意されたのにまた上の空だったな……」
「ちょっと気になることがあってな……それで、何処を調べれば良いんだ?」
「一夏さんに怒られても知らないからな」
「その一夏兄の事で考え込んでいたんだ。それで、さっさと宿題の個所を教えろ」
箒から宿題の部分を教わり、千冬はすぐに宿題を済ませる為に図書室へと向かった。
「あれ? 千冬が図書室なんて珍しいね」
「簪か。お前はイメージ通りだな」
「宿題?」
「あぁ。調べ物をするならここが一番だからな」
「そうだね。ところで、本音を見なかった?」
「本音? さぁ、知らないな」
正直なところ、千冬の頭の中は一夏の事でいっぱいなので、たとえ本音に会っていたも気が付かなかっただろうし、記憶に残らなかっただろう。
「そう……放課後に図書室で待ち合わせって言ったのは本音の方なのに……」
「電話してみたらどうなんだ? さすがに電話には気付くとは思うんだが」
「さっきからかけてるんだけど、呼び出しはするんだけど出る気配が無いんだよね……どこで何をしてるんだろう」
「本音の気配を探ってみるか? 一夏兄程ではないが、知り合いの気配なら分かるかもしれない」
「お願い」
千冬は意識を集中して、本音の気配を探る。
「(教室には気配はないな……食堂でもない……ん? また一夏兄の気配が学園に無いな……って、今は本音の気配を探してるんだったな……)」
本音の事に集中しようとしても、どうしても一夏の気配が学園にない事が気になってしまい、集中出来ずに時間だけが過ぎていく。
「あっ、いた。生徒会室に本音の気配があるな。生徒会長と本音のお姉さんの気配も一緒だから、生徒会の用事なんじゃないか?」
「生徒会室か……でも本音が生徒会の用事で呼び出されるなんて、今までなかったと思うけど」
「あれでも生徒会役員なんだろ? なら忙しくなってきたから駆り出されたとかじゃないのか?」
「それならそれで、一言くらいあってもいいと思うんだけどな……こっちは約束をすっぽかされて待ちぼうけなんだから」
「まぁ、そうぼやくな……そうだ。時間があるなら宿題を手伝ってくれないか? ちょっと分からない箇所があってな」
「それくらいなら良いけど、授業を聞いてれば分かるところだと思うんだけど」
「私は簪のように座学の成績は良くないからな。しかも少し上の空だった所為で、あまり聞いてなかったんだ」
「考え事?」
「まぁ、そんなところだ」
簪の質問に対して、千冬は答えを濁した。何時もははっきりと物事を言う方の千冬がそんな態度を取れば、当然怪しまれるのだが、簪はそこで追及してくるような底意地の悪い事はせずに、千冬に説明するために席に座った。
「千冬も、早く終わらせて別の事を調べたいんでしょ?」
「あ、あぁ……そうだな」
簪に急かされて、千冬はとりあえず宿題を終わらせる為に、簪から今日の授業の範囲を教わり直すのだった。
授業はしっかり聞きましょう