IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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いざという時にヘタレる楯無


楯無の逡巡

 一夏たちが亡国機業に備えているのと同じように、楯無たちは更識を裏切った人間に対して備えていた。備えるといっても、碧と虚と情報を共有して、何時攻めてきてもいいように覚悟しているだけなのだが。

 

「やはり簪お嬢様や本音にも話しておいた方が良いのではありませんか?」

 

「本音には良いけど、簪ちゃんにはあんまり聞かせたくない話なのよ」

 

「ですが、このメンバーで考えるなら、敵が狙うのに一番適しているのは簪お嬢様だと思いますが」

 

「私もそう思うわね。もし私がこの中の誰かを狙わなければならないとなれば、簪ちゃんを狙うわ。本音ちゃんは意外と鋭いし、刀奈ちゃんや虚ちゃんは実力も備わっている。となれば、実力があってもそれを完全に発揮できていない簪ちゃんを狙うのが、一番無難ですから」

 

 

 虚と碧に進言されて、楯無は盛大にため息を吐く。二人が言っている事は楯無も理解しているし、簪にも情報を与えておいた方がいざという時に時間稼ぎを出来るだろうという事も理解している。だが彼女の心情としては、妹を家のごたごたに巻き込みたくないのだった。

 

「簪ちゃんには、こんな後ろ暗い事に参加して欲しくないのよね……あの子は、暗部とは関係なく学生生活を送ってほしいし」

 

「暗部更識家の娘として生まれた以上、避けては通れない道だと思います」

 

「分かってる。分かってるんだけど……そんな宿命を背負うのは私だけで十分だって思っちゃうのよ……簪ちゃんには、こんな思いして欲しくないって……」

 

「刀奈ちゃんが簪ちゃんの事を思っているのは分かるけど、その所為で簪ちゃんが危険な目に遭うかもしれないんですよ? 忠告だけでもしておいた方が良いと思うのだけど。今回は、織斑君の手助けも期待出来ない可能性があるんですから」

 

 

 現在一夏は亡国機業に対する備えと、定期試験の準備で忙しいのだ。もし更識を裏切った連中が攻め込んできても、一夏が対応出来ないかもしれないと言われ、楯無はもう一度ため息を吐いた。

 

「一夏先輩にはいろいろと助けてもらってきたし、これからも助けてもらう事が多そうだけど、先輩が忙しそうな時くらい、自分たちだけで片付けなきゃいけないわよね……分かりました。碧さんと虚ちゃんの進言を受け容れます。虚ちゃん、本音を通じて、簪ちゃんにそれとなく伝えておいて」

 

「それでよろしいのでしょうか? わざわざ本音を介さなくても、お嬢様が直接簪お嬢様にお伝えすればよろしいと思いますが」

 

「それが出来れば苦労しないわよ……いったいどんな顔をして簪ちゃんに話せばいいのか分からないのよ……お父さんの件だって、簪ちゃんには受け入れがたい事だったのに……」

 

「簪ちゃんも暗部の人間として、覚悟はしていると思いますし、こういう時こそ姉妹で力を合わせるべきだと思いますよ? 敵がISを持っている可能性は低いとはいえ、刀奈ちゃん一人で対応しきれるかどうか分からないんですから」

 

「……分かってます。分かってますけど――」

 

「何時までもうじうじ悩んでいる暇は無いのですから、お嬢様が直接簪お嬢様にお伝えしてください。その間に、私はこの書類の山を片付けておきますので」

 

 

 言い訳を続けようとした楯無の言葉をバッサリと斬り捨て、虚は楯無の背中を押して生徒会室の外へ追いやろうとする。

 

「お、押さなくても行くわよ! というか虚ちゃん、どさくさに紛れてくすぐるの止めて」

 

「別にくすぐっていませんよ。私の力では、お嬢様を押し切るのは難しいので、お嬢様の抵抗力を削いでいるだけです」

 

「くすぐってるじゃないの! あはは、分かった! 大人しく簪ちゃんのところに行くから! だからくすぐるの止めてってば」

 

「では、お願いします」

 

 

 楯無から言質を取った虚は、あえて恭しく一礼して楯無を生徒会室から追い出した。従者としてどうなのかと思われる行動だったが、一緒にいた碧は虚を責める事はしなかった。

 

「大変ね、皆のお姉ちゃんは」

 

「そう思ってくださっているのなら、少しは手伝ってください」

 

「私の立場じゃ、ご当主様やその親族に進言するなんて出来ませんから」

 

「さっきしてたじゃないですか」

 

「あれは、虚ちゃんの援護射撃程度よ。私一人だったら進言も忠告も出来なかったでしょうね」

 

「こういう時だけ弱い立場に逃げるの、やめてくれませんか……碧さんは、私たちの中でも十分トップを狙える実力者なんですから……」

 

「さてと、それじゃあ私は周辺の警戒に戻るので、後はよろしくね」

 

「はぁ……」

 

 

 元々学園関係者ではない碧に、生徒会の仕事を頼むわけにもいかないし、碧が本気で逃げようとすれば虚では捉まえる事が出来ないので、素直に碧の事を見送るしかなかった。虚は誰もいなくなった生徒会室で、ため息を吐いてから書類の山を片付け始めたのだった。




都合よく身分を使って逃げる碧と、逃げられない虚
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