碧からの衝撃的な申し出に、虚は――彼女にしては珍しく固まったまま動かなくなってしまった。
「虚ちゃん? どうかしたの?」
「いえ……私が教師など、務まるのでしょうか? お嬢様や簪お嬢様のように、専用機を持っているわけでもなければ、碧さんのように物事を教える事に長けているわけでもない私が……」
「私だって教師としてやっていけるか不安だけど、織斑君が誘ってくれたって事は、それだけ期待してくれてるって事でもあるのよね。もちろん、教員採用試験を受ける必要はあるけど、虚ちゃんなら問題ないだろうって織斑君が言ってたわよ」
「良かったじゃない、虚ちゃん。確かに虚ちゃんなら先生に向いてると思うわよ」
「お姉ちゃんよりかはずっと、先生として尊敬出来ると思う」
「それってどういう意味よっ!?」
簪の冗談に、楯無は大げさに反応してみせる。そんなやりとりをあまりしていなかったので、楯無と簪は同時に笑い出し、場の空気が和んだ。
「今すぐ決める必要は無いし、虚ちゃんがやりたいって思った時に試験をしてくれるらしいから、詳しい話は織斑君に確認してちょうだい。ちなみに、私は来月には試験を受ける事になってます」
「碧さんなら、他のところからも誘いがありそうですけどね」
「今更別の組織で働くのも大変ですし、ここにいればしばらくは楽しそうですからね」
「まぁ、一夏先輩がいなかったら『楽しそう』では済まないでしょうけどね……それで、一夏先輩が実質的な経営権を手にするって事は、轡木さんはいよいよ追い出されるのかしら?」
「名誉学長としてとどまるそうです。織斑君はあくまでも教師としてここに残るようで、学長には別の人間を当てると」
「誰かしら?」
碧なら知っているだろうと思っているので、楯無は本気で気にしてる様子はない。碧が慌てていないという事は、それほど危ない人間ではないと分かっているからだ。
「織斑君が学長に推薦したのは、亡国機業リーダであり、織斑君たちのお母さんでもある織斑千秋氏です」
「……大丈夫なの? あの人って確か、千冬ちゃんやマドカちゃんを殺して、一夏先輩に殺されたいとか願ってた人ですよね?」
「これが、織斑君からお母さんへの罰みたいですよ? 楽に殺してもらえると思うな、とか言ったらしいですし」
「あー、何か一夏先輩っぽいですね」
「ナターシャさんも実技担当として雇う方向で話が進んでるみたいですし、スコールとオータムも刑事罰を済ませたら学園で使うとか言ってたしね」
「刑事罰って、あの二人がしてきた事を考えたら、それこそかなりの時間が必要なんじゃないの?」
「その辺は織斑君と篠ノ之さんが『いろいろ』したみたいで、IS学園に対しての器物破損と不法侵入以外の罪は問われないようです」
「い、いろいろって……暗部組織の私たち以上に黒いわよね、一夏先輩って」
「お嬢様が暗部組織の当主としての自覚が足りなかったから、織斑先生がそういった黒い部分を受け持ってくれていたからではありませんかね? 何度織斑先生に助けてもらったか分かるんですか?」
まさかのところで虚から非難され、楯無は慌てて話題を変える事にした。
「スコールとオータムには何をやらせるつもりなのか、碧さんは聞いているんですよね?」
「してきた事は兎も角、二人のIS操縦技術はかなりのものですから、実技を担当するのだと思います。もちろん、何かあれば織斑君が粛正するから心配する必要は無いとしか聞いてないので、あくまで推測ですが」
「粛正担当として、これ以上適任はいないわよね……」
「それから、篠ノ之さんが監視員としてIS学園に携わるとも聞いています」
「篠ノ之って……篠ノ之博士がっ!?」
「もちろん、整備に手を貸すとか、そういった事はありませんが」
「まぁ、あの人がそういう事をしてくれるだなんて思って無いけど、一ヵ所に留まって平気なの? 世界中の人間が血眼になって探してるんですよね?」
「IS学園は不可侵ですので、何処の国の人間も手を出せませんし、その名目を無視して篠ノ之さんを捕まえようとすれば、織斑君と篠ノ之さんに『イジワル』されるでしょうしね」
それが可能な二人がこの場にいるのだから、そんな心配は無用だと碧は笑って話すが、内容が怖すぎて楯無の表情は引き攣っていた。
「そんなわけで、来年からはより一層監視が厳しくなるので、お嬢様たちへの報復の心配も減りますね」
「まさか、一夏先輩はそれを見越して篠ノ之博士を?」
「そこまでは私にも分かりませんが、これで学業に集中出来る事になるのは間違いないでしょう」
「結局最後まで、一夏先輩には心配をかけちゃってるのね……」
「それに報いる為には、刀奈ちゃんも簪ちゃんも、国家代表として活躍するしかないわよ?」
最後に発破をかけられ、楯無と簪は顔を見合わせて頷きあったのだった。
生徒たちの不安を取り除く、優秀な教師一夏