大晦日に衝撃的な事を聞かされ、千冬は残りの冬休みをただただぼんやりと過ごした。彼女たちに罰を与えるのは当然だが、その罰がIS学園の学長として、一夏の指示に従う事だったり、生徒として入学し、卒業後学園で働く事だとは知らなかったのだ。
「おい、何時までボケっとしているんだ? もう新学期も始まるというのに」
「仕方ないだろ……まさかこの学園に織斑姓が二人も増えるとは思って無かったんだから」
「一夏さんが実質的な経営権を有し、ウチの姉が監視として学園に住み込む。ある意味で世界一安全で危険な場所の出来上がりだ」
「中にいる人間にとっては安全であり、外から攻め込もうものなら、一瞬で片づけられるだろうからな……というか、今でも十分に安全な場所ではあると思うが」
「一夏さん一人で、あれだけの人数を三十分かからずに片付けたわけだからな……一夏さんを本気で怒らせたらどうなるか、知っている私たちですら戦慄したというのに」
「というか、一夏兄と敵対しようと思うとは……滑稽を通り越して同情すらしたくなる」
ISを使ってあの結果なら、まだ衝撃は少なかったかもしれないが、一夏は生身で銃火器の相手をし、その後亡国機業のIS操縦者と戦ったのだ。もちろん、一夏に傷一つなく、学園の施設もゲート以外は無傷で敵を制圧したのだから、それを聞かされた人が受ける衝撃はかなりのものだった。
「兎に角、四月からは後輩も出来るわけだし、何時までもボケっとしていたら蘭の同級生になってしまうぞ」
「まだ合格も何も分からないんだから、アイツの同級生になるかどうかは分からんだろ」
「じゃあ、鈴の事を先輩と呼ばなければならなくなるぞ」
「それは……嫌だな」
箒の脅し文句に、千冬は本気で嫌そうな表情を浮かべ、そして少し現実に復帰した。
「妹の方は兎も角として、母親までもが学園に関わってくるとは思って無かったから、少し引き摺っていたのかもしれないな。心配をかけた、もう大丈夫だ」
「そもそも一夏さんが監視しやすいからそうしたんじゃないのか? 一夏さんだって、そろそろ落ち着いてもいい頃だろうし」
「三十前の人に言う言葉ではないが、一夏兄はもう少し落ち着いた時間を過ごすべきだからな」
「入試の後には教員採用試験があって、その後は卒業式、三学期はあまりイベントが無いな」
「というか、二学期までが騒がし過ぎただけだろ。普通の高校は、もっと落ち着いた一年を過ごしていると思うが」
「まぁ、学園行事の殆どが襲われるなんて、IS学園じゃなきゃ体験出来なかっただろうな」
「したくも無いと思うがな」
「違いない」
顔を見合わせて苦笑いを浮かべ、高校生活を振り返ってため息を吐いた。
「あんまり目立ってなかったが、私たちもそれなりに大変な目に遭ってたんだな……」
「一夏兄が大変過ぎて目立ってないが、普通に考えれば大変だったんだな……」
「というか、事件の大半がお前の身内が原因だという事実を、お前はどう思ってるんだ?」
「発端はお前の姉だろうが」
事件を起こしてきたのは千秋とマドカだが、そもそも束がISを造らなければ、ここまでの騒ぎにはなっていなかった。互いにその事を指摘し、そして沈鬱な思いが押し寄せてくる。
「一夏兄に、なんて謝ればいいんだろうか……」
「姉さんが原因で、一夏さんの人生を大幅に変えてしまったからな……謝っても許してもらえることではないだろう……」
「と、とにかく今は、無事に二年に進級できるよう、残りの授業をしっかり聞いて、学年末試験に備えるとするか」
「まだ始まっても無いが、三学期はちゃんと授業を聞いて、そしてテスト前に誰かに泣きつかなくても大丈夫なようにしよう!」
なんとも情けない目標ではあるが、千冬と箒はそう心に決めて顔を上げた。
「よくよく考えれば、山田先生にも迷惑を掛けていたんだよな、私たち……」
「前向きになった途端にそういう事を言うなよな……確かにあの人には迷惑を掛けたかもしれないが、最終的には何の問題も無かっただろ? ボーナスカットも無かったし、補習で休みを潰す事も無かったんだから」
「そもそも私たちがもっとちゃんとしていれば、あの人の教師人生ももう少しマシだったのかもしれないな」
「い、一夏兄に甘えられたんだから、それでチャラって事にならないか?」
「私たちは何もしてないじゃないか……結局一夏さんに助けてもらったわけだし、それだと」
「私たちって、何でこの学園にいるんだろうな……」
「そこから考え直さなければいけないのか……」
自分たちが入学しなければ、しなくてもいい苦労が沢山あったんだろうなと、二人は今更ながらにIS学園に入学した事を反省し、これからは迷惑を掛けない生徒になろうと心に決めたのだった。
もっと言えば、入学前に考えておけなければいけない事案