簪は一夏にアドバイスしてもらったお陰で、だいぶ専用機製造が捗って嬉しそうにしている。もちろん、完成するまでは浮かれるわけにはいかないのだが、ついこの間まではゴールが見えなかったのに、漸くそのゴールが見えてきたのだから、嬉しそうにならないわけないのだ。その事に気付いている本音は、あえてその事を指摘することなく、本人はいつも通り間の抜けた態度を取り続けている。
「ねぇねぇかんちゃん」
「なに?」
「たまには息抜きしたら~? 最近は放課後になったらすぐ整備室に篭っちゃうし、帰ってきてもIS関連の本を読み漁るばっかだしさ~。あんまり根を詰めると周りの人に心配かけちゃうよ~?」
「……本音でもそんな気遣いが出来るんだね」
「ちょっと!? かんちゃんまで私の事を見下してたの~? 私、これでも結構やるんだよ~?」
「それを自分で言っちゃうあたり、やっぱり本音は本音なんだな~って思うけどね」
本音の言葉にクスクスと笑いながら、簪は漸く視線を本音へと向けた。
「眼鏡で誤魔化せてるけど、かんちゃん、目の下の隈酷いんだよ?」
「そこまで根を詰めてるつもりは無かったんだけど……織斑先生にアドバイスを貰ってから、何処をどう弄れば良いのかが分かって、楽しみで仕方なかったのかもしれない」
「何だか新しいおもちゃを買ってもらった子供みたいだね~」
「本音に子供みたいって言われるのはなんだか複雑だけど、確かにそんな心境だったのかもしれない」
「どういう意味さ~」
口では抗議しているが、本音の表情は明るい。簪が本気で自分の事を貶しているわけではないという事が分かる間柄だからこそ、こういった軽口を叩きあえるのだ。
「今日はこのくらいでやめておくよ。ところで、本音がこんな時間に整備室に来るなんて珍しいね。何かあったんでしょ」
「特にこれと言ったことはないけど、どうやらクラス代表戦が延期になるっぽいって噂を仕入れたくらいだよ」
「延期? 何で」
「リンリンが転校してきて、クラス代表になっちゃったから」
「それと代表戦の延期と、何の関係があるの?」
「だって、リンリンが転校して来るまでは、代表候補生はセッシーとかんちゃんの二人だけだったけど、リンリンがそこに加わると、組み合わせとかいろいろと考えなおしになるんじゃないのかな~? まぁ、まだ延期って決まったわけでもないし、実際はどうなるか分からないけどね~」
本音の説明を聞いて、簪は少し落ち込んでいた。確かに自分は代表候補生だが、専用機を持たないという肩書が付く。その点他の二人は既に専用機を持っているのだから、同じ候補生でも自分は一枚落ちると感じてしまったのだ。
「まぁ、そんなわけだから、今日はかんちゃんも一緒に食堂でケーキを食べよう!」
「どんなわけか分からないんだけど……てか、何でケーキ?」
「疲れてる時には甘い物が一番だよ~。かんちゃんは頭も身体も心も疲れてるから、そういうくだらないことで悩んじゃうんだよ」
「っ!? ……やっぱり本音らしくないね」
「どういう意味さ~!」
自分の考えが見透かされていたなんて思っていなかった簪は、驚いたことを隠すために本音の意識を逸らさせた。何時も一緒にいたが、本音がここまで鋭いとは簪も思っていなかったのだ。
「どうして本音が私の付き人だったのか疑問だったけど、なんとなく分かった気がする」
「そう? 本当はおね~ちゃんの方が良かったとか思ってるんじゃないの~?」
「それは当然」
「当然なの!?」
「だって、どう考えても虚さんの方が頼りになるじゃん」
「まぁ、それはそうだけどさ~。ここは嘘でも私の方が良いって言うところじゃないの~」
冗談を交わしながら、簪と本音は食堂に到着する。部活動が盛んなIS学園において、放課後こんなところで寛ぐ人間はそう多くない。二人は空いている席に腰を下ろし、注文したケーキを食べ始める。
「うん、おいし~」
「そう言えばクラス代表戦で優勝したクラスには、デザートパスが与えられるんだっけ」
「そうだよ~。だから、かんちゃんには悪いけど、私はセッシーを応援するから」
「クラスメイトとして正しい事だよ。でも、私だって簡単に負けるつもりは無いから」
「セッシーの訓練相手はおりむ~とシノノンの二人だよ? かんちゃんだって相当強いけど、セッシーだって実力の底上げが出来てると思うよ~」
「……私は訓練の前に専用機を完成させないといけないから」
「訓練ならいつでも付き合えるけど、専用機製造は私じゃ手伝えないからね~。それこそ、おね~ちゃんにお願いするくらいしかないし」
「大丈夫。織斑先生のお陰で、だいぶ捗ってるから」
「なら大丈夫だね~。それにしても、織斑先生っていったい何者なんだろうね~」
「何者って?」
「だって、操縦者としても超一流だし、整備士としてもそこらへんの人よりも優秀なんでしょ~? 弱点とか無いのかな~?」
本音に言われて、簪も確かに一夏に弱点があるのかが気になった。あれだけの実力を持っていて弱点がないというなら、それはあまりにも不公平ではないかと思ってしまったのだった。
実は優秀なのかもしれない