掃除も買い出しも終わり、千冬が淹れたお茶で一休みしていると、来客を告げるチャイムが鳴り響いた。確認するまでもないと立ち上がり、千冬が玄関を開け友人二人を招き入れた。
「よう、久しぶりだな」
「そんな経ってないだろ? 卒業式の後も遊んでたんだし、精々一ヶ月弱ってところじゃないか?」
「そうだけどよ。こういうのはふいんきが大事だろ」
「雰囲気な。相変わらず馬鹿だな、弾は」
「何だと!? 成績はお前たちと大して変わらなかっただろうが」
友人、五反田弾と御手洗数馬をリビングまで案内し、箒と鈴も会話に加わってきた。
「いや、あたしたちはあんたほどおバカじゃなかったから」
「補習になってたのは弾だけだったからな」
「数馬は何回か危なかったらしいけど、実際に補習になってたのは弾一人だけだった」
「……お前ら、久しぶりでも容赦ねぇな」
「てか、女子と話すの自体久しぶりじゃね?」
共学ではあるが、弾も数馬もモテるタイプではない。挨拶程度は交わしてきたかもしれないが、本格的に話すとなると、三人以外相手がいない事は二人とも自覚している。だからではないが、数馬は二次元に夢中になってしまっているのだ。
「まぁ、三次元の女と話すつもりもないがな」
「コイツは頭がイカレちゃってるの?」
「お前たち以外に話す相手がいないって、現実に絶望したんだと」
「まぁ、それが現実なんだから受け容れなさいって言いたいけど、コイツの人生だもんね」
鈴が同情的に呟き、千冬と箒も頷いて同意する。この三人と仲良くしていたから現実に絶望したのではないかと弾は思っているのだが、それを口に出す程命知らずでもないので、何も言わずに視線を逸らした。
「そう言えば鈴、お前本当に日本に戻って来てたんだな」
「今更ね。さっきから話してるじゃないのよ」
「千冬から連絡貰った時は驚いたぞ。てか、何で俺たちには連絡してくれなかったんだよ」
「別に良いじゃない。こうして再会してるんだからさ、それよりも、先にゲームする? それともご飯作る?」
「時間的にも飯で良いんじゃねぇか? 数馬もそれでいいよな?」
「あぁ、俺はどっちでも構わないぞ」
「だってよ。……ところで、誰が作るんだ?」
「あたしか千冬か箒の誰かでしょうね。あんたたち二人に任せたら食材が可哀想だもの」
反論しようとしたが、それで調理を任されるのは面倒だと感じ、弾は反論の言葉を呑み込んだ。数馬は最初から料理をするつもりがないようで、ポータブルのゲーム機で遊び始めている。
「じゃあ初日はあたしが腕を振るうわね。久しぶりの中華、覚悟してもらうわよ」
「覚悟が必要な飯は勘弁してもらいたいんだが?」
「美味しすぎて他の中華が食べられなくなるかもしれないって意味よ」
「安心しろ。鈴の料理じゃそんなことにはならないだろうから」
「あんですって!? いい度胸じゃないの箒。後で絶対土下座させてやるんだから!」
箒の言葉に気合いが入った鈴は、効果音が付きそうなくらいの勢いでキッチンへと向かう。それを見送った三人は、完成するまで近況報告をすることにした。
「弾と数馬は普通の公立校だったよな? どうだ、勉強の方は」
「入学早々ついていくのがやっとだな。間違っても成績上位なんてありえん」
「まぁ、滑り込みで入学したようなものだしな。お前たちが成績上位者なら、他の奴らは死にたくなるだろう」
「酷い言い草だな……そう言うお前たちは、ISについて全然知らないとか言ってたわけだし、やっぱり落ちこぼれなのか?」
「一夏兄の補習のお陰で、普通に授業内容は理解出来るくらいの知識は手に入れた」
「へー、一夏さんIS学園にいるのか」
何度か顔を合わせたことがあるので、弾も一夏の事は知っている。その一夏が本気で補習したのなら、千冬と箒が授業に困らなくなっていても不思議ではないと思えた。
「友達は? お前ら、近づくなオーラが強すぎるからな」
「一応いる。だがまぁ、普通のと言えるかは微妙だがな」
「どういう事だ?」
「二人は私たち同じように、姉が優秀過ぎて比較されてきたやつだから。友人なのか同族なのかちょっと判断しづらい部分がある」
「比較は辛いよな……俺も蘭と比べられて肩身が狭いったらねぇよ」
「お前はバカだからな。蘭はかなり優秀なのに」
「噂では生徒会長なんだろ? その兄が落ちこぼれじゃ、蓮さんも比べたくなるだろ」
「うるせぇよ! ……まぁ、とにかく友達と呼べる相手が出来ただけでも良かったんじゃねぇか? お前たちはすぐに悪い方向に考える癖があるから、相談できる相手がいるだけでも違うだろ」
「俺や弾じゃあまり相談相手になれなかったけどな。愚痴くらいは聞いてやれたが」
「数馬……お前、会話に参加してたんだな」
「驚くのはそこかよ!」
弾と数馬の会話に呆れた千冬と箒は、それでも楽しそうに笑ったのだった。
おバカ五人組……