千冬たちが学園にいないため、簪は本音と二人で過ごしていた。さっきまで専用機製造に勤しんでいたのだが、さすがに息抜きが必要ではないかと本音が提案したためだ。
「こんなのんびりしてる暇ないのに……」
「最悪訓練機で参加すればいいじゃん。かんちゃんの実力なら、訓練機でもそうそう負けるとは思えないって」
「でも、セシリアだけじゃなくて鈴も専用機持ちだし、私のせいで対抗戦は延期になっちゃうし……」
「かんちゃんの所為じゃないって」
延期が発表されてからというもの、簪は全て自分の所為だと思い込んで、ますます専用機製造を急ぐようになっている。本音としては何とかして簪の心を落ち着かせたいのだが、どうにも出来ずにいる。
「織斑先生も言ってたように、延期になったのは政府の人の都合だって」
「あれは他の人には分からないけど、本当は鈴が転校してきて専用機持ち同士の闘いが見せられるから、より多くの政府要人を招き入れるって事だと思う」
「そうかな~? 織斑先生って政府の人嫌いで有名だって楯無様が言ってた気がするから、そんなこと無いと思うんだけど」
「お姉ちゃんが?」
「まぁ、織斑先生の気持ちも分からなくはないけどね~」
簪が何に興味を持ったのかに気付きながらも、何時も通りに振る舞う本音。これで少しは姉妹仲が進展すればいいと考えたのと同時に、これ以上は疲れるから自発的に動いてもらおうと考えたのだ。
「それで、午後も整備室に篭るの~?」
「いや、用事が出来たから、午後は少し動く」
「そっか~。それじゃあ、私は部屋で待機してるから、何かあったら連絡してね~」
「……本音って一応私の護衛だよね?」
「そうだけど、かんちゃんだって四六時中私にくっつかれたら困るでしょ~? 例えば、ベッドの下に隠してある本を――」
「何処で知ったの!?」
「まぁまぁ、年頃の女の子だし、興味あるのは分かるけどね~。学校に持ち込むなんてすごいな~って思った」
「………」
間が抜けているようで実は優秀だと知っていたはずなのに油断したと、簪は恨みがましい目で本音を睨む。睨まれた本音は、何時ものようにニコニコと笑みを浮かべながらデザートを食べていた。
「とりあえず隠し場所は変えた方が良いよ~」
「……見たの?」
「私には理解出来ない世界だと理解するくらいにはね~」
「~~~~~」
「ほえっ!? かんちゃん、痛いよ~」
ポカポカと肩を叩く簪の顔は真っ赤に染まっており、本音はやり過ぎたかもと心の中で反省するのだった。
授業が無かろうが、生徒会業務は日に日に新たな案件が生まれる。逃げ出そうにも虚が絶対に逃がさないというオーラをまき散らしている為、楯無は仕方なく会長の椅子に座りながら作業していた。
「せっかくの休みなのに、何でこんな忙しい思いをしなきゃいけないのよ~」
「仕方ないじゃありませんか。今年の新入生は注目度が高いんですから。政府要人も見ておきたいと思うのは当然です」
「でもさ~、専用機持ちはイギリスと中国の子なのよ? 日本の政府要人が見たところで何にもならないと思うんだけど~」
「……そんなこと私だって分かってます。恐らく織斑先生もお嬢様と同じ考えなのでしょうが、学長が決めたことだから仕方ないと言っていました」
「一夏さんの力でどうにか出来ないものかしらね……そうだ! ちょっと相談に――」
「逃がしませんよ?」
生徒会室を抜け出そうとした楯無だったが、虚が満面の笑みで両肩を抑えた所為で立ち上がれなかった。逃げ出したい気持ちと、逃げ出したら虚が本気で怒るという気持ちが混ざり、楯無は仕方なく作業に戻った。
「あら?」
「誰でしょうね」
そんなタイミングで生徒会室の扉がノックされ、楯無と虚は顔を見合わせた。今日来客の予定は無いし、本音が来るはずもない。そう思いながら虚が扉を開けると、そこには簪が立っていた。
「簪お嬢様、如何なさいました?」
「ちょっと聞きたい事があって」
「何でしょうか?」
「……お姉ちゃんに直接聞くので、虚さんは少し下がっててもらえませんか?」
「かしこまりました」
恭しく一礼してから、虚は簪を生徒会室の中に通し、自分は廊下に出た。別にここまでしなくてもいいのだろうが、なんとなくこうしなければいけない気持ちになり、虚は生徒会室が見える範囲にとどまりながらも、生徒会室から離れた。
「織斑先生の仕業でしょうか?」
「俺は何もしていない。刀奈と簪、アイツらは誤解さえ解ければ上手くいくだろ。それはお前が一番分かってるはずだ」
「簪お嬢様が歩み寄ろうとしているのであれば、お嬢様も余計な事は言わないでしょう」
「そもそも、アイツのシスコンが原因なんだろ?」
「ノーコメントでお願いします」
答えているのと同じ事だが、虚はそう言って回答を拒否した。一夏も必要以上にこの場に留まることはせず、音もなくこの場を去っていったのだった。
一夏の一言に尽きるな、この姉妹が拗れてる原因は……