一夏が作ってくれた料理を綺麗に平らげた束は、缶ビールを一気呑みして豪快に一息ついた。
「ぷはぁー! やっぱりこの一杯は最高だね~」
「親父臭いぞ……」
「いっくんの前なんだし、細かいことは気にしないのだ~」
「……俺の前って、お前は他の人間の前で呑んだ事があるのか?」
「あるわけないじゃん。というか、他の人間なんて区別出来ないから、あったとしても分からない」
はっきりと言い放つ束に、一夏は苦笑いを浮かべながら一口ビールを呑む。なんだかんだ言って束に付き合うあたり、一夏もお人好しなのだ。
「おもえば私たちも普通にお酒を呑むようになったんだね~」
「今更だな。成人して何年経ったと思ってるんだ」
「束さんは高校を卒業してから歳を数えるのを止めてるから、何年経ったかなんて知らないよ~」
「……今年二十五になるんだから、成人して五年だ。それくらい覚えておけ」
「歳なんて数えたって意味ないじゃないか~。大切なのは、歳を数える事じゃなく、時間を大切にするかどうかだよ」
「お前はその時間すら気にしないだろうが」
「そんなこと無いよ~。早くいっくんと結婚して子供を産まないと、この遺伝子を後世に残せなくなってしまうじゃないか~」
「そんな事は一生ありえないから心配するだけ無駄だ。それに、お前のようなヤツが残らない方が世界の為だと思うぞ」
「酷いよいっくん!」
口では文句を言いながらも、束は実に楽しそうな表情をしている。こうして人と話す事すらない生活を送っているので、たまに一夏と話すのが束の楽しみになってきているのだ。
「いっくんは結婚したいとか思わないの?」
「する必要がないからな」
「まぁ、稼いで家事も出来てだもんね~。やっぱり束さんと結婚して最強の子供を作るしかないんだよ」
「お前と結婚するくらいなら真耶とした方が何千倍もマシだ」
「誰それ?」
「後輩だ」
「いっくん、そいつの事が好きなの?」
「いや?」
あっさりと否定した一夏に安心して、束は残っていたビールを一気に煽った。
「今度は日本酒にしよう!」
「お前も大概だろ」
「偶の息抜きくらい盛大にしたいじゃないか~。いっくんだって、何時も気を張っていたら疲れちゃうでしょ?」
「適度に気を抜いてるから疲れる事はないが」
「いっくんの気を抜いてるは、他の奴らの本気以上だからね~。手を抜いても超一流が一流になるくらいだし」
「褒めたって何も出ないぞ」
「別にいらないよ~。あっ、いっくんの遺伝子は欲しいけど」
「酔っぱらってるのか?」
妙に下発言が多い束に、一夏は呆れているのを隠そうともしない視線を向ける。あまりそう言う話が得意ではない一夏だが、無知というわけではない。
「いっくんの子供を産みたいと思ってるのは束さんだけじゃないと思うんだけどな~。それこそ、ちーちゃんや箒ちゃんだって思ってるだろうし」
「千冬は血のつながった妹だ。そんなアブノーマルな思考を持っているとは思えないんだが」
「いっくんのカッコよさは、血のつながりなんて気にならにくらいだからね~。ちーちゃんがいっくんに対して、実の兄に向けるべきじゃない感情を懐いてるのは、いっくんだって知ってるでしょ?」
「………」
無言で酒を煽る一夏を見て、束はにやにやする。滅多に見られない照れている一夏を見てご満悦なのだが、あまり長時間にやにやしていると手が飛んでくるので、話題を変えることにした。
「いっくんはこんなところで終わるつもりなの? もう一回大会に出ようとは思わないの?」
「とっくに引退したロートルなんて世界中興味ないだろ。ああいう大会は若い世代が活躍してこそ意味がある」
「さっき二十五歳とか言ってた人が言うセリフじゃないよ……」
「とにかく、俺は既に引退した身だ。今更大会に出たいとか、そんなことを考えたりしない」
「そう言えばいっくんが目をかけている小娘がいたよね? アイツ、そんなに強いの?」
「まぁ、普通に戦えば同年代相手に負ける事はないだろう」
「『普通に戦えば』ねぇ……つまり、何か欠点があるって事だよね?」
「お前と似てるかもしれないな」
「私と?」
一夏が何を持って自分と似ていると言ったのか分からない束は、興味津々な瞳を一夏に向ける。
「この天才束さんと似ている人間なんて存在しているのかな~? それで、いっくんはソイツと束さんの何処が似ているっていうのかな~?」
「シスコン」
「はい?」
「お前もソイツも、重度のシスコンだって事だ」
「束さんはそんなに箒ちゃんの事を思ってないけど?」
「お前、今の表情を自分で見てもおんなじことが言えるのか?」
一夏が取り出した手鏡に写っているのは、恥ずかしそうに頬を染めた束の姿。束は慌ててそっぽを向いたが、一夏が楽しそうに笑っているのを見て頬を膨らませて抗議したのだった。
夫婦漫才みたいなやり取りですがね