一夏に呼び出された五人は、職員室前までやってきて、今更ながらに緊張してきていた。
「千冬、ノックしろ」
「私が? 箒がすればいいだろ」
「いや……だってな?」
どことなく入りにくい雰囲気を感じていた五人だったが、内側からドアが開かれた所為で固まり、開かれたドアに視線を向けた。
「職員室前で何を騒いでいるんだ。さっさと入れ」
「は、はい……」
「失礼します……」
千冬と箒が一夏の言葉に応え、鈴、セシリア、簪の三人は無言で頭を下げて職員室に足を踏み入れる。
「何を怯えているのか知らんが、今職員室にいるのは俺と真耶の二人だけだ。他の教師は生徒を落ち着かせるために出払っているからな」
「一夏兄が一番怖いって……」
「それは確かにそうだな。まぁ、テキトーに腰を下ろせ」
五人に着席を命じ、一夏は人数分のお茶を用意した。セシリアは真耶がやるべきではと思ったが、千冬と箒、そして鈴が当然のように一夏の作業を見ているのを見て、一夏がこういう事が得意なのかと納得した。
「まずはご苦労だったな。お前たちのお陰で無人機は停止し、学生に被害はなく、問題があった議員を学園から遠ざける事に成功した」
「問題がある議員、というのは?」
「とある企業から不正献金を受け取っており、その企業に融通を利かせるよう学園に迫って来ていた人間だ。今回の件でこちらから抗議したお陰で、しばらくは大人しくするしかなくなっただろうし」
「不正献金って、立派な犯罪じゃないですか」
「立派な議員様だろ?」
一夏の皮肉に、五人はただただ黙り込むしかなかった。そして驚いたことに、真耶がまったく動じていないのだ。
「山田先生は、知っていたんですか?」
「私も先ほど一夏さんから聞かされました」
「あっ、そういう事でしたか」
てっきり真耶の肝が据わっているのかと思ったが、実際は先に聞いていたのでこの場では驚かなかったというだけだったのだ。
「証拠集めは更識姉に任せてある。いずれ然るべき罰が下されるだろう」
「お姉ちゃんが?」
「正確には『更識家』が、という事になるのだろうな」
「ウチが……でも、そういうのは扱ってなかったと思うんですが……」
「ご当主様の命令だからな。逆らえないんじゃないのか?」
「まぁ、そうでしょうね……」
楯無の議員嫌いを知っている簪としては、こういう問題に姉が介入するのは何となく分かっていたが、まさか実家の力を使うとは思っていなかったようで、少し動揺している。
「一夏兄、更識家の力というのは?」
「それは俺から説明するような事じゃないだろ。更識妹に聞くか、気にしない事だな」
「分かりました」
それで納得して良いのかとセシリアは思ったが、千冬が特に疑問に思っていないので口を挿むことはしなかった。
「それで一夏さん、あのISの出所は分かってるんですか?」
「馬鹿ウサギの仕業だ。実は最初から介入は知っていたのだが、こちらとしても利があったので今回は見逃していたんだ。もちろん、生徒に被害が及ばないよう予め動いていたから何の心配もしていなかったが」
「あたしたちは危ない目に遭い掛けたんですけど?」
「あの程度撃退出来ずに候補生を名乗れると思っているのか? だったら代表など諦めろ」
「………」
一夏の容赦のない一言に、鈴は思わず押し黙ってしまう。確かに勝てないと思わせるような強敵では無かったが、苦戦した事は否めないのだ。
「まぁ、他の生徒には今回の黒幕が馬鹿ウサギであることは伏せて説明するつもりだから、五人も他言無用で頼む。まぁ、更識姉や布仏姉妹は知っているかもしれないがな」
「虚さんは兎も角、本音もですか?」
「アイツはなかなか優秀な人間だと思うぞ。まぁ、普段の雰囲気があんな感じだから、お前が疑問に思うのも仕方がないとは思うがな」
簪が疑わしい視線を自分に向けているので、一夏は苦笑いを浮かべながらそう説明した。
「とにかく、織斑、篠ノ之、オルコット、凰、そして更識妹。今回はご苦労だった。いずれ然るべき報酬を払うので、今日はゆっくり休むように」
「皆さん、大浴場を使えるように用意してありますので、お風呂でゆっくりしてきてください」
「さすが一夏兄! 準備が良い」
「まぁ、思うところはありましたが、一夏さんが言いたい事は分かりました。あたしたちももっと精進します」
「難しい事はとりあえず脇に置くことにして、今は風呂だ!」
今にも駆け出しそうな三人を追いかけるようにセシリアと簪も職員室を辞して、とりあえず着替えを取りに自室に向かう。途中簪は、今回の件で姉と友人の実力を上方修正した方が良いなと考えていたが、部屋の中でだらしなく腹を出して眠りこけている本音を見て、本当に一夏が思ってるほど実力があるのかと疑う視線を本音に向ける。もちろん、そんな視線を受けたからといって本音が起きる事は無く、だらしなく寝返りをうって涎を垂らすのだった。
千冬は風呂好きですから