五人そろって大浴場にやってきたのは良いが、簪は千冬、箒、セシリアの胸囲を見て愕然とした。
「大丈夫よ、簪……あたしたちが小さいんじゃなくって、アイツらが異常に育ってるだけだから」
「でも、お姉ちゃんや本音も結構大きいし……」
「アンタのお姉さんはあった事がないから分からないけど、本音は脳に行くはずの栄養も胸に行ってるからよ」
「さっきから何を話してるんだ?」
「アンタたちには関係ない話よ」
千冬が首を傾げながら二人から視線をずらし、箒とセシリアを見て納得したように一度頷いて浴室に向かう。
「それにしても、私や箒も大きいと思っていたが、山田先生のアレは凶器だな」
「あれで一夏さんに迫ってるのかもしれないぞ?」
「よし、ちょっと山田先生と話をしてくるか」
「ブラコンも大概にしろよな」
「だから私はブラコンではない!」
「五月蠅いですわよ! お風呂はゆっくりとするものですわよ」
「まぁ、セシリアの言う通りか……おい! 先に身体を洗ってから湯船に浸かれ!」
セシリアが真っ先に湯船に浸かろうとして、箒がその肩を掴んだ。その後ろでは千冬も頷いており、鈴と簪も非難するような目を向けていた。
「個室の風呂じゃないんだ。まず身体の汚れを落としてから入るのがマナーだろ」
「わ、分かりましたから離してくださいませ! 痛いですわ」
「あ、あぁ……すまない。だが、風呂好きとしてはどうしても許せなくてな」
「私も申し訳ありませんでしたわ」
セシリアも素直に頭を下げたので、箒も漸くセシリアの肩を離し洗い場に向かう。
「箒の髪は本当に羨ましいくらい綺麗よね」
「そうか? 長くて鬱陶しいから切ろうかと思ってるんだが」
「そうなんですの? 美しい黒髪は私から見ても羨ましいですわよ?」
「私も羨ましいと思う……癖っ毛だし」
「そうなのか? 私としては、簪くらい癖っ毛でも良いと思うんだが」
自分の髪を洗いながら答える箒に、千冬が笑いを堪えながら話しかける。
「無いものねだりだから仕方ないのかもしれないが、癖っ毛は大変だと聞くぞ?」
「うん……朝起きた時大変」
「私だってきちんと手入れしないと大変なんだぞ?」
「まぁ、髪のお手入れは大切ですからね」
「そう考えると、千冬や鈴のように短いと楽なのか?」
「この長さでもちゃんと手入れしてるわよ」
「一夏兄にテキトーに手入れしてると怒られるからな……私もきちんと手入れしている」
そういう事にも厳しい一夏にしつけられているからか、千冬はそういう事はしっかりとしているのだ。
「さて、しっかりと洗った事だし、ゆっくりと湯船に浸かるとするか」
「大きな風呂はそれだけくつろげるからな。夏休みに温泉にでも行くか?」
「そんな暇ないわよ……一応あたしたちは代表候補生だし、合宿とかいろいろあるのよ」
「なら、私たちだけでいくか」
「一夏さんも誘ってみるか? あの人も風呂好きだし」
「だが一夏兄にそんな暇があると思えないが……それに、一夏兄が来るとなると、束さんもやってきそうだしな」
「姉さんはそこまで風呂にこだわりはないぞ?」
「あの人は一夏兄がいるところに必ず現れるからな」
ここ最近も学園に現れているのだが、実際に会ったわけではないので千冬も箒も束の姿を思い浮かべて苦笑いを浮かべた。
「篠ノ之博士にお会いできるのでしたら、私も行ってみたいですわ」
「止めておいた方が良いぞ。姉さんは私と千冬、後は一夏さんしか認識できないから、セシリアが話しかけても相手にしてくれないからな」
「まぁ、篠ノ之博士の変人っぷりはあたしも聞いてるけど、そこまで酷いの?」
「私たち以外が話しかけたとしても、路傍の石を見るような感じだろうな。最悪、ゴミを見るような目を向けられるかもしれない」
「それは……」
自分がそんな目を向けられたらと思い、セシリアは恐怖した。ここまで来るのにかなりの苦労をしてきた自分を、そんな風に見てくる人間などありえないと思ったのかもしれない。
「まぁ、一夏さんがいれば姉さんが現れても何とかなるだろうが、出来る事なら話しかけない方が良いぞ。自分の為でもあるが、一夏さんの機嫌が悪くなるからな」
「一夏兄、束さんの相手をするの嫌がってるからな……それでも付き合うあたり、一夏兄も人が良いんだろうな」
「というかさっきから簪が静かなんだけど……逆上せたの?」
「いや、話に割って入る勇気がないだけ……」
「まぁ、登場人物が凄いものね……一夏さんと篠ノ之博士の事を普通に話す女子高生なんて、千冬と箒くらいだしね」
「凄い人というなら、簪さんのお姉様も凄いではありませんか」
「うん、そうだね……」
確かに楯無も凄いが、その二人と並べると霞むのではないかと簪は思っていた。全世界が血眼になって探す天才と、全世界から尊敬される最強、その二人と比べれば楯無はまだ実績がないので仕方がないのかもしれない。
髪なんて普通に洗ってお仕舞ですね。ドライヤーも使いません