訓練を終えた八人は、シャワーで軽く汗を流してから食堂に向かう。それほど動いたわけではないが、このまま解散するのも何だかもったいないので、お茶をする事にしたのだ。
「あたしからすれば、千冬と箒にちゃんと友達が出来てる事に驚きよ」
「随分と失礼な奴だな。私たちにだって友達はいただろ」
「あたしと弾と数馬以外にいたかしら?」
「それだけいれば十分だろうが」
つまりそれ以外いなかったという事かと、鈴は苦笑いを浮かべながら他のメンバーに視線を向けた。
「三人しか友達がいなかったアンタたちが、今は倍以上の友達がいるわけだからね……なんだか感慨深いわ」
「何で鈴が保護者目線なのか気になるが、確かにIS学園に入学してから友達が増えたな」
「おりむ~とシノノンはとっかかりが難しかったんだと思うよ~? 織斑先生と篠ノ之博士の関係者だって事で、下手に話しかけられないとか思われてたのかもしれないし」
「一夏兄や束さんとは関係ないとあれだけ言ってきたのに、それが原因だったとはな……」
「まぁ、その二人と切り離して二人を見るのは、ちょっと難しいとボクも思うよ」
それだけ一夏と束の名前が持つ威力が大きいのだが、シャルロットやラウラも気にせず何とか付き合えている。一度話せばこの二人と一夏や束との関係が理解出来るのだ。
「一夏教官や篠ノ之博士と千冬と箒は、仲は悪くないがそれほどべったりという感じではなかったからな。一夏教官はしっかりと千冬の事も一生徒として見ているし」
「一夏兄が特別扱いなどするわけないだろうが。あの人は公私混同するような人ではないからな」
「姉さんだったらありえるだろうがな……いや、そもそも私と千冬以外を認識するかどうかわからんか」
「そういえば、篠ノ之博士って二人と織斑先生以外認識できないんだっけ?」
「あぁ、簪は会った事があるのか」
「ゴールデンウィークの時にちょっとだけね……その所為で危ない目に遭い掛けたけど」
「だがそのお陰で一夏兄に抱っこしてもらえたんだろ? 羨まけしからん展開だな」
簪に同情しながらも嫉妬するという、器用な感情を向ける千冬に、箒が呆れたようにツッコミを入れる。
「簪の意思は関係ないんだから、いい加減嫉妬するのは止めたらどうだ? ただでさえお前はブラコンだって言われてるんだから」
「だから私はブラコンではないと何度言えば分かるんだ!」
「お前のその態度を『ブラコン』以外で表現するとすれば『変態』になるが、どっちが良い?」
「私は普通に『兄思い』なだけだ!」
「そう思ってるのはアンタだけよ……」
箒を援護するように鈴が呟くと、シャルロットや簪も頷いて同意する。ラウラはよく分かっていない様子だが、本音は簪の後ろで苦笑いを浮かべるだけに留めていた。
「とにかく今は、甘い物でも食べて落ち着こうよ~。人数分のケーキ、注文しておいたから」
「何時の間に……というか、本当にケーキ好きだね」
「ケーキが嫌いな女子はいないと思うよ~」
「ケーキというのはどういう食べ物なんだ?」
「ほぇっ!? ラウラウ、ケーキ食べた事無いの?」
「ここに来るまで、食事は殆どレーションだったし、贅沢品を食べたことなど無かったからな。食堂でも必要最低限しか食べなかったから、クラスメイトが『でざーと食べ放題』で喜んでるのも良く分からない」
「ラウラウ、かなり損してるよ~。たぶん一度食べれば気にいると思うよ~」
ラウラのたどたどしさから「デザート」が変換されていないと感じ取った本音は、かなり本気でラウラの人生を可哀想なものだと感じている。
「まぁ、私は殆ど訓練に時間を費やしてきたからな。損してると思われても仕方ないだろう」
「そういう問題じゃないんだけどね~。まぁ、持ってくるからちょっと待っててね~」
本音がケーキを取りに行くのを見送り、シャルロットもラウラと似たような環境だったと語りだす。
「ボクも色々あってケーキなんて滅多に食べれなかったから、本音の言葉が結構身に染みるよ……」
「そんなにケーキというのは美味しいものなのか?」
「食べれば分かると思うけど、本当に損してきたと思えるよ」
「そんなにか。それはますます楽しみになってきたな」
「お待たせ~」
人数分のケーキをトレイに載せた本音が戻ってきて、ラウラの目が輝きだす。
「これがケーキというものか……ふわふわしててとても美味しそうだ!」
「ここの学食のケーキはレベルが高いよな」
「確かに美味しいわよね。昔食べた一夏さんが作ってくれたケーキの次くらいに」
「あら、織斑先生は料理がお上手なんですの?」
「基本的に何でも出来るからな、あの人は」
「おーい、ラウラ?」
一口ケーキを食べたラウラが固まっているのを気にしたシャルロットだったが、ラウラは彼女の声に反応することなく、無心でケーキを食べ続けたのだった。
夢の世界に旅立ったラウラ……