戦姫絶唱シンフォギアXD ~ギャラルホルンの先で~ 作:白滝
~並行世界~
「どういうこった……」
「まさか、本当に二課がなくなっているなんて……」
困惑するクリスと響が案内されたのは、湾岸に停泊した空母のような外観の次世代型潜水艦であった。S.O.N.Gの本部かと思ったが、ここへ案内した安藤・寺島・板場の三人の言によると、どうやら違うらしい。
「歓迎しますよ、シンフォギア装者の皆さん」
「「な、ナスターシャ教授!?」」
「おや、私を知っているのですか?」
「い、いや、いろいろありまして……」
艦内の職員にS.O.N.Gの者は人は見当たらない。そして、彼らを統率するのも風鳴弦十郎ではなく、F.I.S.に所属しているはずのナスターシャだった。
「さて、道中にて安藤・寺島・板場から報告は受けましたが、それを信用材料とする程に私は無警戒な人間ではありません。とはいえ、あなたたちが正規の適合者であり、貴重な戦力であるのは事実。ここは包み隠さずに我らF.I.S.の内部状況を説明する事で、あなたたちと信頼関係を図る意図がある事を理解して下さい」
「いちいち回りくど……って、ちょっと待て!?今、F.I.S.っつったか!?」
「ええ、そうですが?」
「特異災害機動部二課はどうした?ここは日本だろ!?」
「ルナアタック事変にて、月の破片を迎撃するために装者三人が宇宙空間で死亡。戦力を失った特異災害機動部二課に政治的な交渉カードはありません。国連の圧力により組織を解体。現在はその施設をF.I.S.が引継いで管轄しています」
「な、なんじゃそりゃーっっ!?」
「それって、師匠とか、緒川さんとか、友里さんとかいないって事ですか!?」
「二課のメンバーは例外なく除籍されています。現在、シンフォギアの運用を統括しているのはF.I.S.であり、その長である私、ナスタージャです」
驚きのあまり言葉を失う二人だったが、一方で二人を見守っていた安藤・寺島・板場の三人も落ち着かない様子で、
「そ、それよりビッキーと雪音クリスさんが、どうしてまだ生きてるのか教えてよ!」
「そうですわ!わたしたちがこれまで何のために戦ってきたのか分かりません!」
「アニメじゃないんだから、そんな理不尽な状況をすんなり受け入れられないよ!並行世界って何!?説明してよ!!」
口々に質問を投げかけてくる三人に、響とクリスはしどろもどろになりながらギャラルホルンの説明を行った。二人とも説明下手だったが、ナスターシャの理解力が高かったためか、それほど齟齬なくこちらの事情を伝える事ができた。もしかしたら、切歌や調の扱いに慣れる内に身についたのかもしれない。
「なるほど……聖遺物による並行世界の移動。そして、騒乱の元凶となるカルマノイズという特殊個体……」
「ナスターシャ司令、それってもしかして、こないだオーケストラシステムを乗っ取った、あの黒いノイズなんじゃ……!」
「ええ、間違いないでしょう」
「?」
困惑する響の表情を見て、改めてナスターシャは二人に向き直った。
「先程も言った通り、ここから先は我々F.I.S.の機密に直結します。これを隠さずにあなたたちに伝える事を、信頼の証として受け取ってください」
「だからいちいち回りくどいって!いいからズバっと簡潔に教えてくれよ!」
「そうですね……まずは、『project_Moira』。そこの三人がどのような経緯でシンフォギアを纏ったかを説明致しましょう。あなたたちの歴史との相違点はそこから分岐していると思われるので」
『project_Moira』。
米国連邦聖遺物研究機関、通称F.I.S.が主導で進めてきたプロジェクトである。
米国が密かに保有していた完全聖遺物『モイライクラブ』は、ギリシャ神話において三組で1柱扱いの運命の三女神『クロートー』『ラケシス』『アトロポス』が巨人を殺す際に用いた青銅の棍棒である。この聖遺物をわざと三分割に破壊し、その等分された破片をそれぞれシンフォギア・システムに組み込めば、女神ザババの双刃イガリマ&シュルシャガナのようにユニゾン特性を有するギアを開発できるのではないか、という仮説に基づいて開発されたギア運用計画であった。
実際には、完成したシンフォギアを機械的に励起させ解析を行ったシュミレーション結果では、ユニゾン効果は期待できずむしろ三機で同時運用し聖詠を重ね合わせねばギア自体が励起せず変身も解けてしまうというマイナスの特性を抱える事となった。目論見は失敗し、プロジェクトも頓挫する運びとなっている。
桜井了子が死んだ今となっては新たなシンフォギアの製造も叶わず、過去に失敗してお蔵入りとなったこの失敗作『モイライクラブ』がわざわざ米国から日本へと輸送され、流用される羽目になったという。……シンフォギアの製造を諦めきれない米国政府は、フィーネの『刻印』の遺伝子情報を有する器『レセプターチルドレン』をかき集めて必死に実験を繰り返しているそうだが、ナスタージャは計画から降りたそうだ。
「(……そうなると、多分マリアさんや切歌ちゃんや調ちゃんも、この世界では装者じゃないんだろうね)」
「(だな。そうなると戦力として数えられるのは、あたしとおまえと……こいつらか)」
さすがにクリスも困惑した面持ちだった。安藤も寺島も板場も、元の世界ではシンフォギアとは縁遠い存在だったはずだ。その彼女達が前線で青銅色のシンフォギアを纏っていた。
「……あの日。ビッキーや風鳴翼さんや雪音クリスさんが月の破片を破壊した、あの日。三人が地球に帰ってくることはなかった」
「そして、ノイズへの対抗策を失った日本は、F.I.Sの『モイライクラブ』の適合試験を開始したの」
「……わたしたち、揃いも揃って三人とも適合しちゃったんだよね。本当に運が悪かったよ。アニメみたいだよね……」
表情を見れば察せられる。三人とも、いつもの明るい様子とはかけ離れるほど疲弊していた。望まぬまま戦場に送り込まれて、人命救助という責任感で脅迫され、ずっとずっと戦闘行為を強いられてきたのだろう。
「適合試験を行った眼鏡の博士は『シンフォギアの適合に奇跡など介在しない!愛、ですよ!!宇宙で散った彼女達と心の距離が近かったからこそ、哀しみ慈しむその想いが適合係数を引き上げたのですよッッ!!』ってやけに興奮気味に騒いでたけど、もう、何がなんだか……」
「あの人は昔から変人なので、相手にする必要はありません。これからの建設的な話をしましょう」
ナスターシャがピシャリと断言した。変人博士と言ったら一人しか心当たりのない響とクリスだったが、話題に上げたい人物でもなかったので触れない事にした。
ナスターシャとの『これからの建設的な話』を終えて、『オーケストラシステム』やカルマノイズの情報を整理した後、響とクリスはF.I.S.の傘下で活動する合意を得た。あとは作戦決行時である明日までは一晩の休息となる。
寺島の提案で晩御飯の食事を摂る事になり、五人でお好み焼き屋『ふらわー』に赴く事になった。そういえば、ふらわーに行く時はいつも寺島が提案する事が多かった。
「悪いな、腕を誤射しちまって」
「ううん、大丈夫です。そもそも、ビッキーや雪音さんが駆けつけてくれなかったら、わたしたちはノイズの大群に多分やられちゃってたし……」
赤く腫れた左腕を擦る安藤を見て、寺島はいたたまれないように唇の端を噛みしめた。
「モイライクラブは、三人で一緒に歌わないとまともに稼働しない、三人四脚みたいなシンフォギアなんです。出力も弱くて、巨大なノイズとかには負けちゃうし、そもそも私達は戦闘訓練すら受けてないし……」
「わ、わたしたちだって修行すれば、アニメみたいにぐぐぐーっと強くなれるはずなんだよ!……ただ、LiNKERを服用し続けると体がボロボロになって、その治療に時間を当ててるとなかなか訓練の時間が取れないんだ……」
微笑む三人をよく見ると、元の世界の彼女達よりも少しやつれて見えた。
「わたしたちがいなくなっちゃったせいで、みんなに負担がいってたんだね……」
「そんな!ビッキーが落ち込む話じゃないでしょ!ビッキーは命を懸けて人類を守ったんだからさ!それに、こうしてまたみんなでお好み焼きを食べられるのがわたしは嬉しいよ!」
気遣うはずが何故か逆に励まされている内に、店に到着した。
五人でテーブルを囲み、響の姿を目にして涙を流しながらサービスで多めにお好み焼きを焼いてくれたふらわーのおばちゃんに感謝しつつ、
「「「「「いただきまーす!」」」」」
全員で手を合わせて、食事。
三人がしきりに元の世界の話を聞きたがり、元の世界での話に一喜一憂しながら盛り上がった。
最初は談笑しながら食事を摂っているだけだったが、しばらくすると三人がぽろぽろと涙を流しているのに気付いた。
「ど、どうしたのみんな!?わたし、変なこと言った!?」
「違うよビッキー。わたしたち、なんか嬉しくってさ……」
「ビッキーが死んじゃって、いきなり戦わないと人類が困るとか言われて、いろいろと諦めながら三人で頑張ってきて……」
「立花さんとまたこうして話せる、それがもう奇跡みたいで……」
しくしくと涙を流す三人を前にして、響もクリスも困り果ておろおろするしかなかった。
「し、しみったれた事を言ってんじゃねえよ!こっちにいる間はずっと世話になるんだから、泣くな!」
「そうだよ!みんなに無理させてごめんね!けど、これからは五人で協力して戦えるんだから!頑張ろう!!」
喝を入れるようにジュースをぐびっと飲み干した安藤が、気を奮い立たせるように叫んだ。
「そ、そうだよね!明日は五人で一緒に戦えるんだ。勝てるよ!」
「なんてったって全員集合だよ?アニメだったら勝利フラグに決まってるもん!」
「頑張りましょう!そのために、今晩はゆっくり休息を取らなくちゃ!」
食事を終えた五人は、同じ寮の部屋へと帰宅した。響とクリスは衣服の替えがないため、三人にパジャマを借りて寝床についた。
「おやすみ、みんな」
「うん。おやすみ、ビッキー」
「絶対ぇ、『オーケストラシステム』を奪還しような!」
「そして、人質になっている学校のみんなを救い出しましょう!」
部屋の蛍光灯が落ち、暗闇に包まれた。
オーケストラシステムについては、追々……