戦姫絶唱シンフォギアXD ~ギャラルホルンの先で~   作:白滝

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② 逼迫

 ~並行世界~

 

 

「――――Balwisyall Nescell gungnir tron」

「――――Killiter Ichaival tron」

 胸に浮かぶ旋律に歌を乗せ、響き渡る聖詠がシンフォギアを励起させる。首から提げたペンダント型のコンバーターを中心に眩い光が発せられ、少女を覆う繭のように膨れ上がったかと思った次の瞬間には、煌めく装甲が柔肌を包んでいた。

 立花響の適合した『ガングニール』。

 雪音クリスの適合した『イチイバル』。

 黄と赤のフォルムのシンフォギアがカ・ディンギル址地のフェンス前に並び立つ。

 しかし、それだけじゃない。二人を追うように重なり合う三つの聖詠が後ろから響いた。

 

「「「――――Paravil Pepromes Moira zizzl」」」

 

 安藤創世。

 寺島詩織。

 板場弓美。

 三人が全く同じ聖詠を放った直後、彼女達のコンバーターから青銅色の光が波紋のように広がった。

 適合者の体躯を覆う不純物――――すなわち、衣服――――を収納し、その肌にコアとなる聖遺物の欠片から発せられるエネルギーを固着させ、プロテクターとして一体化する。

 その意匠は、装甲というよりも天女の羽衣と表現した方が適切かもしれない。三人の両腕にぐるぐると巻き付く青銅色の羽衣がきわどいマイクロビキニの如く少女達の肌を覆っていた。

 純粋に、美しい。しかし、機能性というシビアな現実へと目を向ければ、装甲の少ないその防御力の低さは対ノイズ兵器としては不適切であろう。

「へえ、すっごい…!?本当に適合者なんだね!」

「まだまだ半人前だけどね。アームドギアも最近出せるようになったばっかだし……えい!」

 安藤達が気合を入れて両手を前にかざす。青銅色のくすんだ光が瞬くと、彼女達の手には各々が異なる武器を手にしていた。

 聖遺物『モイライクラブ』はギリシャ神話における運命の三女神の共用の武器だが、そもそもそれぞれの装者が対応する女神は各々で異なる。ゆえに、聖遺物の特性や装者の心象を反映し可変・可動するギミックを有するアームドギアが異なる形態を取っても不思議ではない。

 例えば、安藤創世は運命の三女神の中でも長女『クロートー』に対応していた。その名は『紡ぐ者』を意味する。その特性を反映したのか、彼女の手には槍のように長大なミシン針が握られていた。

 例えば、寺島詩織は運命の三女神の中でも次女『ラケシス』に対応していた。その名は『運命の図柄を描く者』を意味する。その特性を反映したのか、彼女の手にはブーメランのように尖る分度器が握られていた。

 例えば、板場弓美は運命の三女神の中でも三女『アトロポス』に対応していた。その名は『不可避のもの』を意味し運命の糸を切る役割を担う。その特性を反映したのか、彼女の手には処刑具のように巨大なハサミが握られていた。

「わたしたちは、お互いの歌声を集音マイクで拾えない距離まで離れちゃうと、出力が低下して自動的にギアが解除されちゃうんだ。だから、常に三人で近くにいないといけないって制約がある。連携には気を付けて!」

「大丈夫!いざとなったらわたしとクリスちゃんの必殺技があるから!」

「おいおい、あれは禁止されてただろうが。ったく、浮かれてトチるんじゃねえぞ」

「一気に仕留めよう。アニメだったらアバンで終わっちゃうくらいの速さで!」

 五人がフェンスを飛び越え、カ・ディンギル址地に侵入していく。

 崩壊したカ・ディンギルの前に、真っ黒なノイズが佇んでいた。

「カルマノイズ……!!」

 並行世界を侵食する特殊個体。通常のノイズを凌ぐパワーやスピードを持つだけに留まらず、人と接触しても『相手だけ炭素転換する』という凶悪な特性を有する。また、人を狂わせる呪いを放つため、シンフォギアの暴走を人為誘発させるイグナイトモジュールが不安定化してしまうという難点まである。

「ギ、ィィィィィイイイイイイイイイイッッ!!」

 背中から翼を生やした巨人のカルマノイズが雄叫びを上げた。途端に、周囲の地面から湧き出るようにノイズの大群が出現し始めた。

 カエル型のクロールノイズ、人型のヒューマノイドノイズ、鳥型のフライトノイズなどの通常タイプの他に、粘液を吐いてこちらを拘束してくるダチョウ型の特殊ノイズまで。

「ま、また!?」

「大丈夫だよ、てらしー。今日はビッキーや雪音さんも付いている!」

「攻撃がぶつからないように、訓練でやったように頑張ろう!」

 緊張した面持ちの三人に見せつけるように、響とクリスが真っ先にスタートを切った。

「ちょせえッッ!!」

 クリスの両手のボウガンが2門の三連装ガトリング砲へと変形する。

 

 ――――BILLION MAIDEN

 

 両手を合わせて、計4門。一発だけでも巨大な風穴を開けるガトリング砲を斉射していく。ただそれだけで辺りのノイズが引き裂かれ炭素の塵へと消えていった。

 それでもやはり数が多い。死線をかいくぐりこちらの懐へ飛び込んで来るノイズが捨て身の特攻を仕掛けて来る。ノイズは殺人兵器であって意志を持たない。自殺特攻ほど恐ろしい戦術はない。

 けれど、

「わたしは歌で、ぶん殴るッッ!!」

 背部のバーニアからまるでロケットのようにエネルギーを噴射して急加速する響が、腕を振りかぶり、正拳を一閃。迫り来るノイズをぶち抜き、さらに後方へ控えていたノイズまでまとめて粉砕して殴り抜く。

 アームドギアがないのにこの威力。いや、ないからこその爆発力なのか。ギアの加速や掌打のインパクトに合わせて、本来ならばアームドギアの形成のためのエネルギーを転用し噴射しているのだ。

「す、すごい……!?」

 寺島は思わず驚きの声を上げていた。

 戦況は味方とノイズが入り乱れる乱戦であり、一見するとクリスは銃を乱射しているように見える。けれど、辺りを縦横無尽に駆け回る響には一発も誤射しない。むしろ互いの死角を潰し合うように攻撃を展開し、数に物を言わせたノイズの波状攻撃に突破口を作っている。

「……きっと、何度も戦いながら連携を身に付けていったんだろうね……」

 数の差を微塵も感じさせない圧倒的な力。

 これが立花響。これが雪音クリス。

「わ、わたしたちだって!!」

 三人の連携も、素人なりに彼女達が必死に積み上げてきたものだった。

 まず、牽制が寺島。彼女が手にしたアームドギアをクリスビーのように思い切り投げる。空を裂く円盤と化したそれは、横一閃に物体を破断する円月輪(チャクラム)のようであった。

 そして、追撃が安藤。牽制で仕留め切れなかったノイズがこちらに突撃し接近戦を仕掛けてくる。彼女が手にした槍のように長大なミシン針を構え、一直線に突き込んだ。三人の中で唯一の接近戦を得意とするギアだ。

「くっ、でっかいのだ……!任せた!!」

「おっけー!!」

 『モイライクラブ』は出力の低いギアであり、安藤も寺島も通常サイズのノイズを仕留めるのがやっと。怪獣型と呼ばれる巨大なノイズには対抗できない。

 だからこそ、トドメが板場。

「うりゃあああああああああああああああ!!」

 巨大なハサミがノイズを覆い、ザックンッッ!!という身の竦むような重低音と共に頭が撥ね飛ばされる。

 三人の中で最も巨大なアームドギアを持つがゆえに最も鈍間だが、その巨大なハサミはどんなサイズのノイズでも一撃で真っ二つに引き裂く威力を誇る。安藤と寺島の役目は言わば攪乱であり、動きの遅い板場が活躍できるフィールドを整える連携こそが彼女達『モイライクラブ』の装者のバトルスタイルである。

 とはいえ、いつもならこの連携で捌けるノイズ数はせいぜい30匹前後。響とクリスはたった二人で三人以上の戦果を叩き出している。二人の加勢は大きい。

「すごい!すごいよ!!アニメの主人公みたい!!これなら勝てるよ!!」

 

 思わず三人が歓喜した、次の瞬間だった。

 

「ギィッッ!!」

 

 視界に漆黒があった。

「カルマノイ――――が、ぁ!?」

 衝撃波で地面がひび割れた。

 板場の反応は間に合わない。巨大な体躯でタックルを仕掛けたカルマノイズの攻撃をまともに食らい、彼女の体が宙を舞った。受け身も取れずに地面を何度もバウンドし、慣性に曳き回されるように地面を抉りつつブレーキがかかる。

 たった一撃で板場の意識を刈り取った。彼女の歌が止まった瞬間に、引き摺られるようにして安藤や寺島の変身も解けてしまう。『モイライクラブ』の弱点。三人で歌を重ねなければまともに稼働すらしない失敗作のシンフォギア・システム。

 まともなノイズでない事をクリスは一瞬で把握した。

 このノイズはいつものカルマノイズとも異なる。こんな威力の攻撃、かつて絶唱級のパンチを放った響の一撃にも匹敵しているのではないか。たかがノイズに、これほどの威力を出せるとは思えない。

(くそったれ!さすがは『オーケストラシステム』を乗っ取っただけはありやがる!!ノイズの癖にフォニックゲインを利用しやがるのか!?)

「ゆ、弓美!?くっそおおおおおおおおおおお!!」

 脚部のパワージャッキで地面を噛み、慣性Gを捻じ伏せるような急制動で響が方向転換した。背部のバーニアだけでなく腕部のガントレットを拡張しブースターも点火する。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」

 一点突破の全速力。装者随一と言わしめる爆発力を収束したガングニールの拳がカルマノイズに突き刺さる

 

 ――――かに、見えた。

 

「――――え?」

 

 カルマノイズがゆらりと躱した。

 迫り来る響の拳を防御するような事はせず、真下に潜って二の腕を下から突き上げるように弾いて攻撃の軌道を逸らす。

 パリィ。

 そのあまりに人間的な所作に、刹那の時間の中で思わず響は困惑した。ノイズは意思無き殺人兵器。例え特殊なカルマノイズと言えど、このような戦術的な思考回路は存在しないはずだった。

 その油断を真っ向から切り捨てるように、カルマノイズの拳が響に飛ぶ。拳の輪郭が揺らぎ、ガングニールの腕部ユニットのように変形した。

(な――――――――ッッ!?)

 クロスカウンター。

 響の顔面に叩き込まれたカルマノイズのガントレットが、まるでガングニールと同じように後部からブースターを点火させて響を殴り飛ばした。

 板場に続いて響までも、地面を跳ねながら後方へ吹き飛ばされた。

「チッ――――しゃらくせえ!!」

 クリスがカルマノイズに向き直る。このカルマノイズは特殊個体で、高機動な上に高い耐久力を有する。弾幕を張るのは得策ではない。

 

 ――――RED HOT BLAZE

 

 アームドギアが変形してスナイパーライフルとなり、反動を抑えるための三脚架が地面に固定される。ヘッドギアからディプレイがスライドし、視界の映像に重ね合わせるように照準マーカーがカルマノイズをロックする。

 エネルギーを弾丸にしたホーミング狙撃。

 誘導式なら躱せない。引き金を引いて発射されたピンク色の弾丸がカルマノイズ目がけて一直線に飛翔する。

 しかし、

「なん、だと――――!?」

 カルマノイズの体から黒い塵が鱗粉のように辺り舞うと、それがまるで盾のようにクリスの攻撃を弾いた。いや、正確には、()()()()()()

 見覚えがあった。

「わ、わたしのエネルギーリフレクターじゃねえか!?ど、どうして……ッッ!?」

 動揺するクリスを標的に定めたのか、カルマノイズがクリスの元へ駆ける。慌ててボウガンを手に迎撃するクリスだったが、その矢もカルマノイズの刀に弾かれてしまう。

「――――って、オイ!?刀ぁッッ!?」

 いつの間にか、カルマノイズの手にはまるで天羽々斬のアームドギアのような刀が握られていた。カルマノイズが刀を上空に投げた途端、その刀はみるみる巨大化して天からクリスを強襲する。

「な、なにがどうなって――――ぐああああああああああああああああ!!」

 巨大な剣を叩き込まれてクリスも吹き飛ばされた。

 この場のシンフォギア装者五名が、たった一体のノイズに制圧される。

「あ、あれ……ビッキー達のギアの技を、使ってる……!?」

 生身の三人を庇うようにボロボロの響とクリスが立ちはだかるが、重心を保てずふらついていて頼りない。

 対するカルマノイズは悠々とその攻撃の手を止める事はない。

 その漆黒の体躯からいくつもの触手が突き出たかと思うと、触手にタコの吸盤のような穴が開き、そこから無数のミサイルが飛び出してきた。

「な、なんでノイズなのに質量兵器を使ってんだよ!!」

「あ、あれってクリスちゃんの技じゃない!!」

「くそっ、撤退だ!!退くぞ!!」

 三人を腕に抱えて、響とクリスはカ・ディンギル址地のフェンスを乗り越えて逃走する。

 ふと後ろを振り返った響の視界に、そのカルマノイズの漆黒の体躯が映った。その表面に、ノイズとは思えない無機物が付着しているのに気付いた。

「あ、あれってまさか――――――――――――!?」

 

 

 

 

 ~元の世界~

 

 

 私立リディアン音楽院高等課の生徒が倒れてから一夜が明けた。今も容態に変化はなく、病院でも対処療法しか取られていない。

「やはり並行世界の問題を解決しなければ、どうにもならんか……」

 忌々し気に呟く弦十郎だったが、発令室に友里の声が響き渡った。

「ノイズが発生しました!通常のエネルギー量とは異なる個体です!!画像、出ます!」

 民間の監視カメラのアクセス権限を乗っ取って確保された映像には、漆黒の巨大な人型ノイズが映っていた。

「カルマノイズ、だと……ッッ!?」

 予想以上に、こちらの世界への進行が早い。並行世界へ調査に向かった響とクリスと連絡が取れない以上、現状の戦力で対処に当たるしかない。

「直ちに市民の避難誘導を開始!切歌君と調君にも通信し、現場へ急行させるんだ!!」

 インカムを耳に装着して現場の管制を取る弦十郎だったが、五分も経たずに発令室に飛び込んで来る者がいた。

「師匠、只今戻りました!」

「おい、おっさん、どういう状況だ!まさかこっちのあのカルマノイズが来てやがんのか!?」

「響君とクリス君!?無事だったか!!ついさっきカルマノイズがこちらの世界にも出現した。切歌君と調君を派遣させている」

「駄目だ!駄目なんだよ、そんな程度じゃ!!急いで撤退させろ!」

「ど、どういう事だ!?」

「向こうの世界でもわたしたちはあのノイズと戦いました。でも、刃が立たなかった……量産奇跡計画『オーケストラシステム』を乗っ取ったあの『シンフォギアノイズ』には、手も足も出なかったんです!!」

()()()()()()()()()、だと……ッッ!?」

 

 

 

 

 そもそも『オーケストラシステム』とは。

 シンフォギア装者がいなくなった並行世界において、ノイズ鎮圧を担うF.I.S.は仕方なく失敗作のシンフォギア『モイライクラブ』を日本での治安維持に流用した。

 適合者を発見し無事に戦線へ投入できたものの、しかし、対ノイズ用兵器としてはあまりに出力が低く、その役目を全うするには至らなかった。有り体に言えば、『弱すぎた』。

 それでもノイズの鎮圧はシンフォギアに依存しなければならない。F.I.S.は必死に『モイライクラブ』の強化案を模索した。

 シンフォギアの決戦機能である『絶唱』は、LiNKER頼りの安藤達には危険すぎる。あまりに適合係数の低い彼女達は、使用と同時に即死するとのシミュレーション結果が判明。

 ならば、もう一つの決戦機能を稼働させるしかない。

 エクスドライブモード。

 奇跡の実現である。

 かつてフィーネを打倒した立花響・風鳴翼・雪音クリスが顕現させた奇跡を、人為的に、恒常的に、必然性を持って実現する計画である。

 言うなれば、『いつでもどこでもエクスドライブになれる装置』。それがオーケストラシステムだった。

 ルナアタック事変での戦況と全く同じ環境をセッティングし、リディアンの全生徒をF.I.S.が徴兵。カ・ディンギル址地の地下に建設された録音ブースにて、全校生徒によるリディアン校歌の大合唱。収束されたフォニックゲインをエネルギーケーブルに接続しシンフォギアへ同期。強制的にエクスドライブモードを起動させる、という原理になっている。

 元々、リディアン生はシンフォギアの適合が見込まれた候補生であり、その歌には高いフォニックゲインの誘発性を期待できる。

 加えて、櫻井了子の米国通謀をきっかけとして発足したF.I.S.は、日本政府のような『個人の才に左右される歌による起動』ではなく、『より合理に則った機械的安定起動方法』の開発に時間と予算の多くを割いてきた。

 フォニックゲインの収束機器の開発には長けていた。

 それが『オーケストラシステム』の全貌。

 これならモイライクラブでもノイズに勝てる。ナスタージャはそう確信していた。

 

 ―――――――初めての稼働実験の日に、空からカルマノイズが落ちてくるまでは。

 

 

「なるほど……つまり、並行世界ではエクスドライブモードを人為発現させる機構が完成していたのか」

「そうだ。けど、起動実験の日に空からカルマノイズが降って来て施設を襲っちまったらしくてよ。エネルギーケーブルと勝手に接続して、ノイズでありながらエクスドライブ級のフォニックゲインを吸収し操る特殊能力を身に付けちしまったらしい」

「実際に、わたしたちよりも遥かにすごいパワーとスピードでした。それに、あのカルマノイズの能力は出力だけじゃなかったんです!!」

「なに?」

「さっき向こうのF.I.S.の分析結果が出まして、それが『シンフォギアノイズ』と命名された理由なんです!」

 

 




モイライクラブの聖詠は適当です。
いつか法則とかが判明したらいいなぁ……




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