戦姫絶唱シンフォギアXD ~ギャラルホルンの先で~   作:白滝

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※今回の並行世界ではウェル博士によってLiNKER開発法が確立されていない、という設定になっています。ご了承ください。

※ずっとナスター「ジャ」かと思っていましたすみませんマム!!訂正しました!



③ 天秤

 ~元の世界~

 

 

「なんデスか、あのカルマノイズ……めちゃくちゃ強いデスよ……」

「切ちゃんと二人がかりなのに、全然攻撃が効いてない……」

 女神ザババの双刃、イガリマとシュルシャガナのシンフォギアを纏う二人は、同時運用する事で出力が高まるユニゾン特性を有する。その上昇率は決戦級とも称される程に高く、適合係数では他の装者に劣る二人だが瞬間的な出力では他の追随を許さないスペックを誇る最大の要因となっている。

 なのに、

「ギ、キィィィィイイイイイイイイイイイ!!」

 眼前のカルマノイズはビクともしない。

 地を蹴り、壁を蹴り、遂には天さえ蹴ったのかと錯覚する程の急降下に辛うじてアームドギアを合わせて防御するのがやっと。

 切歌のアームドギアに亀裂が走り、いつ壊れても不思議ではなかった。

「ただでさえイグナイトが使えないのに、こんなに強いなんて……あとどれだけ時間を稼げば自然消滅するの……?」

 思わず弱音が漏れる。

 打開策のない消耗戦。立ち上がろうとするその意志が挫けた時点でゲームオーバーだ。そして、殺人兵器であるノイズには人間のような同情心や慈悲など欠片もない。

 疲弊し切った二人を排除するための切り札を使用する。

「な、なんか体がモコモコって膨らんで――――」

『あたしのMEGA DEATH PARTYだ!前進しろ!!』

「!?」

 突如入ったクリスの通信に返答する余裕はない。疑問を抱きながらもその指示を信じ、二人は防御姿勢を棄てて身を屈め前へ突っ込んだ。

 直後、カルマノイズの体から生えた触手から無数のミサイルが発射された。

 もし警戒したまま後ろに下がっていたら、広範囲・長距離をキルレンジへと誘うその攻撃に呑み込まれただろう。

 逆に前進して間合いを詰めた事で、近すぎるが故の死角に潜り込む事に成功する。

「デーーース!!」

 切歌の両肩のショルダーアーマーからワイヤーアンカーが発射され、カルマノイズをぐるぐる巻きに縛り上げる。

 自己再生能力を持つカルマノイズに半端なダメージを与えても致命傷には至らない。

 けれど、拘束さえできれば時間稼ぎという目的は達せられるのだ。

 カルマノイズの現在判明している特徴として、『① 人の多い場所(=フォニックゲインの集まる場所)に出現する』『② 人がいなくなる(=フォニックゲインが霧散する)と消失する』という事が分かっている。

 S.O.N.G.のエージェントが市民の避難誘導を完了させれば、試合には負けても勝負には勝てる。戦略的遅延行為だ。

『よくやった、お前ら!さすがあたしの後輩だ!』

「クリス先輩!こっちに帰ってきてたデスか!?」

「ありがとうございます。でも、どうしてカルマノイズの攻撃が読めたんですか?」

『あたしとあの馬鹿も並行世界でそいつと戦ったんだが、信じらんねえ事が分かったんだ……そいつ、ガングニールと天羽々斬とイチイバルの破片を吸収し、シンフォギアの力を利用しやがるんだ!!』

「デ、デデデ…ッ!?」

『詳しく説明してる時間はねえが、そいつはエクスドライブを起動させるレベルのフォニックゲインを吸収し、それをエネルギー源として体内に取り込んだ聖遺物の破片を励起・使用してるんだよ!!』

「だ、だからクリス先輩の技を……」

 市民の避難が完了したのか、カルマノイズが空気に溶けるように消失していった。並行世界へ逃走したのだろう。

 果たして、助かったのはカルマノイズ側なのか、自分たち装者側なのか。

「と、トンデモすぎてよく分かんないデスよ!!やっぱりちゃんと説明が欲しいデス!」

『本部に帰って来い。おっさんとも作戦会議をしてる。そこで説明もしてやる』

 タクシーに乗ったのに領収書を貰い忘れて経費で負担できずに「大失敗デース!!」と青ざめながら二人が湾岸区画に到着。発令室に入室した。

 最近は激務に追われており、久し振りに四時間も睡眠を取れたエルフナインの顔色はいつもよりは幾分か優れている。

 皆が揃ったのを確認し、響がポケットからUSBを取り出した。

「これが、並行世界のシンフォギア『モイライクラブ』とあのカルマノイズのスペックデータですか」

「うん。向こうにいる司令官と相談した結果、技術レベルの進んでるこっちの世界で解析した方が打開策が見つかるんじゃないか、って話になって。あのカルマノイズをやっつける方法、何か見つけられないかな?」

「……自信はありませんけど、頑張ってみます!」

 とたとたと個室に駆けていくエルフナインを見送った。どうやらまた眠れぬ生活を強いる事になりそうだった。

 響とクリスの帰還目的は、あのカルマノイズの打開策の模索。エルフナインの解析が終わるまでは待機となる。

「四人とも今日はご苦労だった。無傷ではあるまい、ゆっくり休養してくれ」

「師匠!それよりも会いたい人がいます。目的地まで送ってもらえませんか?」

「未来君か?」

「未来もそうだけど、弓美たちにも」

「並行世界の、そのモイライクラブってシンフォギアの装者が、そいつらなんだよ……」

「なん、だと……!?」

 

 

 

 

 ~並行世界~

 

 

 二課改めF.I.S.本部にて警戒アラートが鳴り響いた。

「ナスターシャ司令!ノイズが発生しました!!カルマノイズではありませんが、市内を徘徊しています!」

「くっ……連戦続きでまだ装者達の体内洗浄が終わっていないというのに。三人の薬害の除染率は?」

「12%を下回っています。このままでは連続投与でもないのにオーバードースが引き起こされる可能性も」

「……ですが、前回の投与から既に3日。LiNKERを使用しなければ適合係数が基準値に到達できません。LiNKERの残存数は?」

「……mogel_Kが残り1本です……これまで騙し騙し何とか急場凌ぎでやってきましたが、もう、限界かもしれません。我々の備蓄も、装者の心も……」

「……もし。……もし今回のノイズ侵攻を見過ごした場合の被害予測は?」

「概算で死者30名。2時間程度で避難完了しノイズは消失すると予測できます」

 その被害を、多いと見るのか少ないと見るのか。

 究極の選択。人の命を秤に乗せた天秤だ。

 短期的な目線に立てば、30名は見過ごせない。最後のLiNKERを使ってでもノイズを排除すべきだ。

 一方で長期的な目線に立つなら、現在の最優先ターゲットはカルマノイズに定めるべきだ。奴を倒す算段がつくまではLiNKERは温存し、それまでにどんなに市民が死んでも見捨ててぐっと辛抱しなければならない。

 その上、カルマノイズはカ・ディンギル址地を根城とし、地下の『オーケストラシステム』を制圧しリディアン生徒約720人を人質に取っている。カルマノイズは人間の破壊衝動を操る呪いを放つ。地下のリディアン生徒はカルマノイズの洗脳にも似た呪いにより、『オーケストラシステム』の歯車にされているのだ。

 地下施設は非常時に備えてシェルター化されており、数週間分の水や食料が確保されているものの、だからと言って長引かせる訳にもいかない。衛生環境まで保証はできない。

 結論から言えば、犠牲者という数字に注目すれば30対720。30名は見捨てるのが最善手であった。

 そして、ナスターシャという人間は大いなる目標のためには小を切り捨てる覚悟を持つ人間だった。

 正義のリスクヘッジ。

 発令室の誰もがそれは理解していたので、皆、胸の内で静かに無辜の命へ黙祷を捧げようとしていた。

 けれど、

「……諦める訳にはいきません。並行世界の使者達が打開策を持ち帰ってくる事を期待しましょう。最後のLiNKERの投与を許可します」

 思わず発令室がざわめいた。

 ナスターシャらしからぬ、大局を無視した場当たり的な対応だ。思わずオペレーターが反論してしまう。

「ほ、本当にいいんですか!?」

 返答はナスターシャではなかった。発令室のドアが開き、よろよろと体を引き摺るようにして部屋に入ってきた安藤・寺島・板場の三人が、ナスターシャの言葉を引き継いだ。

「わたしたちの体なら、大丈夫です…!」

「30人でも720人でも、人の命です……立花さんたちが命懸けで守ってくれた人たちなんです!」

「絶対に打開策を見つけてくれます!だから、ビッキーたちを信じて、最後のLiNKERを使わせてください!」

「もちろんです。生きたいと願う者がいる前で、それを諦めさせる訳にはいきませんから」

 きっとナスターシャも変わったのだ。それが、安藤達の必死な姿に胸を打たれたのかは定かでないが。

「行きなさい。死んでいい人間などいないのです」

「「「はい!!」」」

 

 

 

 

 ~元の世界~

 

 

 寝不足で半開きの瞼をごしごし擦りながら、皆を発令室に集めたエルフナインが解析結果を報告していた。

「……驚きました。まさか、エクスドライブを完全再現する量産奇跡機構『オーケストラシステム』なんてものが存在するなんて。さすがは機械的な励起・稼働に秀でるF.I.S.研究部開発班です」

「お褒めの言葉を聞きに来たんじゃない。解析が終わったんなら、さっさと打開策を教えてくれよ!!」

「残念ですが、あのカルマノイズに弱点は存在しません。ただでさえ強力なカルマノイズが、エクスドライブ級のフォニックゲインを駆使する事で規格外の出力を発揮しています。加えて、響さんの『ガングニール』・翼さんの『天羽々斬』・クリスさんの『イチイバル』のアームドギアの欠片を吸収し、シンフォギア・システムまで利用してくる始末……このレベルの相手を前に、小手先の戦術でどうにかするのは不可能です」

「じゃあ、わたしたちはどうする事もできないんですか……!?苦しむみんなや、向こうで必死に戦うみんなを助ける事はできないんですか?」

「……響さんとクリスさんには、無理かもしれません……」

「おい、ふざけんな!!このまま泣いて帰れってのか!!」

「そうは言ってません。響さんとクリスさんには無理かもしれないと言っただけで、他の人ならできる可能性があるんです」

「……それって、まさか、」

「そうです、『モイライクラブ』です。安藤さん・寺島さん・板場さんの三人ならカルマノイズを倒せるかもしれません」

 予想外の提案だった。まさか彼女達にスポットが当たるとは、向こうの世界でのナスターシャも想定してはいなかっただろう。

「でも、モイライクラブはカルマノイズに負けちゃったんじゃないんデスか?」

「当然、正攻法では手も足もでないでしょう。けれど、シンフォギアには諸刃の決戦機能が搭載されているのをお忘れですか?」

「……絶唱……」

「そうです。確かに『モイライクラブ』は失敗作のシンフォギアであり、当初期待されたユニゾン特性は有していませんでした。けれど元々『モイライクラブ』は運命の三女神の共用の武器であって、完全聖遺物を三分割したギアです。三人のアームドギアも、分割されてはいても本質的には共用。絶唱によるエネルギーも共有されます。……この現象を、皆さんはこれまで何度も目にしてきたはずです」

「……まさか、響さんのS2CA……ッッ!?」

「その通りです。確かに『モイライクラブ』は女神ザババの双刃イガリマ&シュルシャガナのようなユニゾン特性は有していませんでした。しかし、絶唱とはアームドギアを介して放つ決戦機能。三人がアームドギアを共有する『共用アームドギア』という仕様は、そのまま生まれもっての資質、先天性S2CAを可能とするんです!」

 響のような『誰かと手を繋ぐ』という稀有な絶唱特性を介さずとも行使可能な、三人だけの自己完結型S2CA。

 『project_Moira』の目論見は破綻していたが、思わぬ副産物が生まれていたのだ。

「三人の絶唱を束ねたエネルギーなら、カルマノイズをやっつけられるかもしれません!」

 しかし、クリスは渋い表情のまま顔を横に振った。

「けど、敵はエクスドライブ級のフォニックゲインを利用してるんだぜ?いくらS2CAだって、倒し切れるとは限らないんじゃねえか?」

「ただのエネルギーソースを転用した攻撃なら、確かにそうかもしれません……ここから先はぼくの推測になるのですが、『モイライクラブ』の絶唱特性なら反則の一手が可能ではないかと考えています」

「絶唱特性、デスか?」

「はい。『モイライクラブ』は運命の三女神の共用武器。ならば、その絶唱特性も運命に干渉する可能性は高いと思います。因果の断絶、時間跳躍、不確定性原理の歪曲……等々、聖遺物由来の絶唱特性が考えられます」

「運命に干渉する絶唱特性で、カルマノイズを消失させるってことデスか!?」

「……もちろん、希望的観測で塗り固めた仮説にすぎません。ですが、あの規格外のカルマノイズに対抗するには、それこそ響さん達がエクスドライブモードにでもなれない限りはこの反則技しか……」

「……やろう」

 真っ先に決断したのは響だった。

「今もリディアン生みんなが苦しんでます。他に方法がないんなら、迷ってるのは時間の無駄です。やるだけやってみます!」

「しゃあねえ、か……わーったよ。ったく、馬鹿の癖に思い切りだけはいいんだから困る」

「褒められたら困っちゃうよー、クリスちゃん!」

「褒めてねーよ!!」

 バシンと拳を掌に叩きつけ、弦十郎が気合を入れた。

「……方針は決まったな。では早急で悪いが、早速君達にはギャラルホルンでもう一度並行世界に旅立ってもらいたい」

「了解。二日も間を空けちまったしな。あいつら、先にくたばってねえといいけどな」

 

 

 

 

 ~並行世界~

 

 

「ナスターシャさん、戻りました!立花響と雪音クリスです!」

「お帰りなさい。待っていました。早速、報告を聞かせて頂いても?」

「ああ。カルマノイズの弱点は見つかんなかったが、『モイライクラブ』について新情報がある。絶唱だ!あいつらの絶唱ならどうにかできるかもしれねえんだ!!」

「……絶、唱……?」

「そうなんです。あの三人はアームドギアが共用なので、絶唱のエネルギーが自動的に一つへと集約されるんです!そうすれば、運命に干渉する絶唱特性が発動するかもしれません!!」

「………………」

 語気の強まる響達とは裏腹に、何故かナスターシャの表情は醒めていった。

「それは、できません」

「なっ!?どうしてだよ!!悪い話じゃないだろう?やってみる価値はあるはずだ!」

「勝算の話ではありません。論点はそこではないのです」

「じ、じゃあ、何が問題なんでしょうか?」

「……あの子たちは、第二種適合者です。LiNKERにより後天的にシンフォギアへの適合が見込まれた者たち。ご存知の通り、絶唱によるバックファイアに耐えうる程の適合係数はありません」

「で、でも、LiNKERをたくさん使えば絶唱そのものの負荷は減らせるだろ!?」

「……最後のLiNKERは、二日前に使用しました。もう在庫はありません。効果持続時間ももう長くはないため、今絶唱を使ってしまったらあの子たちは確実に即死します」

「そ、そんな……」

「……LiNKERの使用を許可したのは私です。私の意志で死地へと追いやっておいて、あの子達に『死にに行け』などという命令を、私は下す事はできません。人類のために死ね、とあなたなら言えますか?」

 正義のリスクヘッジ。

 人類70億人とたった3人の命。大のために小を切り捨てられない指揮官は無能である。この世界における立花響・風鳴翼・雪音クリスも、結局は人類を救うために同じ決断をして殉職したのだから。

 ナスターシャが司令官を務めるのであれば、『死にに行け』と命じる胆力こそが必要だ。

 それでも、

「……例えどんな非難を受けようと、私はあの子たちを見捨てる事はしません。許可できない。それが現司令官、ナスターシャ・セルゲイヴナ・トルスタヤの答えです」

 彼女の瞳に宿る決意は揺らがない。

「……そうは言ってもよ、他に方法がないし……」

 さすがに自殺しろとは言えない。響もクリスもそれ以上は何も言えなくなってしまった。

 元の世界のLiNKERも数が限られており、並行世界への輸出の許可が出るのは難しいだろう。並行世界を救っても元の世界を救えなくては元の子もない。ある種、そういう天秤でもあった。

 手詰まりだ。誰の責任とも問えない。何が悪かったかと言えば、タイミングが悪かった。

 もう少し早く二人が帰還していれば。カルマノイズの進攻がもう少し少なければ。そういう結果論の反省を噛み締める。

「この件については箝口令を敷きます。あの子たちは今、連日の疲労を取るために仮眠をしながら体内洗浄の最中です。三人には絶唱の件を一切伝えない事。この情報統制を破った者には厳しい処罰があるものと考えてください」

「はい……」

 致し方ない。何よりも、響達だって死なせる事など望んでいない。残念だがこの方法は諦めるしかない。

 そして、現実は残酷だった。

「ナスターシャ司令官!ノイズの出現が確認されました。例のシンフォギアノイズです!!」

「くっ……こんな時に……装者の状況は?」

「除染率8%。オーバードースから快復しておりません!」

「わたしたちがなんとかします!!」

 そう言って、ナスターシャの指示も待たずに響が発令室を飛び出していった。慌ててクリスがその背を追いかける。

「お、おい!勝算もないのにどうするんだよ!!」

「勝算なんてない。下手したら死ぬかもしれない。ここで戦力を温存するのが正しくて、わたしの選択は間違っているのかもしれない」

 響は一度瞼を閉じた。

 頭に思い浮かべたのは、「もう一度合えて良かった」と涙を流す三人の笑顔。

「……だとしても!だとしても!!それは誰かを見捨てていい理由にはならないッッ!!」

「……お前……へっ。そりゃそうだな。あたしも寝ボケてたぜ!そうだ、そうに決まってやがる!!この世界で、誰かを救う行為が間違ってる訳がねえんだ!それを間違いだって騒ぐんなら、騒ぎ立てる世界の方が間違ってる!!」

「行こう、クリスちゃん!!」

「ああ。シャカリキにぶん回すぜ!!」

 

 

 

 

 

 

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