戦姫絶唱シンフォギアXD ~ギャラルホルンの先で~   作:白滝

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※前章にて響の絶唱のバックファイアについて修正しています。
 前話を確認してからお読みください。


エピローグ

 ~並行世界~

 

 

 安藤創世。

 寺島詩織。

 板場弓美。

 モイライクラブの装者3人がアームドギアを重ね合わせると、接点から青銅色の輝きが照り始めた。

 ミシン針、分度器、鋏、という三人の心象を反映したそれぞれの形態は溶け落ち、その聖遺物の由来となった本来の姿を取り戻していく。

 ギガントマキア。

 ギリシャ神話において、宇宙の支配権を懸けて『巨人族』と『オリュンポスの神々』が抗争を繰り広げた大戦だ。

 この神話において、運命の三女神であるクロートー、ラケシス、アトロポスは青銅の棍棒(モイライクラブ)で二人の巨人族を殴殺したと伝えられている。

 すなわち、モイライクラブの原初の姿とは、

「で、でけえ……!?」

 クリスの眼前に広がるのは、カ・ディンギルに匹敵するのではないかと見紛う程の巨大な塔……いや、末端にいくつれて先細りした逆三角形。それを柄のようにして安藤達3人が握りしめている。

 遅れて気付いた。

 棍棒だ。

 ビルかなにかと勘違いする程に、首を上に傾けなければ全貌を収められない程に巨大な青銅色の棍棒だったのだ。彼女達の纏うギアと同色の武具。

 まるで巨人を殴殺するために設計されたかのようなスケールの、対人兵器ならぬ対巨人兵器。

「……これが、モイライクラブのアームドギアの本来の姿……」

「綺麗……」

 絶唱のエネルギーを滲ませるその棍棒は、揺らめくように虹色のオーラを漂わせてもいる。

 S2CA。それも、ギア特性による先天性自己完結型。

 共用アームドギアという仕様によって自動的に集約された絶唱の三重唱なら、いくら出力の低いモイライクラブと言えどシンフォギアノイズに対して有効打となり得る……可能性が、ある。

「……う、ぐ…!?体が、痛い……時間はないですわ!」

「絶対に当てよう!」

 彼女達は適合係数が及第点未満の第二種適合者であり、制御薬LiNKERの補助なしでは絶唱のバックファイアに耐えられない。

 絶唱なんて文字通りの捨て身であって、一度切りの大技。自殺行為とも表現できる。

 それでも、必死に戦う響とクリスを見捨てられなかった。

 安藤達の想いは一つ。ゆえに、もう迷わない。

「チェーーーストォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!」

 巨大な棍棒と化したアームドギアのリーチは絶大だ。振り下ろそうが薙ぎ払おうが、どう工夫しようが工夫しまいが周囲を必死圏へと変えて蹂躙する。もはや敵に当てないように振るう事の方が難しい。

 安藤達に武芸の心得はないが、そんな事を気にする段階は越えていた。

「う、わああ!?」

「危ねえ!?」

 三人の近くにいた響とクリスは慌てて飛び抜く事で、辛うじて三人の背の影に隠れる事ができた。けれど、間合いが遠いシンフォギアノイズは間に合わない。

 天より振り下ろされた棍棒から、逃げ切る時間はなかった。

 シンフォギアノイズは地面から突き上げるように剣を巨大化させた。天羽々斬による『天の逆鱗』。

 しかし、モイライクラブの棍棒は巨大化した剣よりも遥かに巨大である。粉々に砕いてシンフォギアノイズにそのまま叩きつけられた。

「ギ、ィィィィイイイイイイイイイ!!」

 シンフォギアノイズは、両腕をガングニールのようなガントレットに変形して迎え撃った。

 モイライクラブの棍棒とガングニールの拳が真っ向から衝突する。

 世界を断絶させるような鍔迫り合いが起きた。

「ぐ、ァーーーーーーーーー!!」

「く、ううううううう!!」

 衝突地点から反動が爆風となって辺り一帯を舐める。呼吸するのが難しいほどの突風だった。

「ぐ、ゥ、ぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 安藤達の悲鳴に似た絶叫が雄叫びとなって風に乗った。

 臨界点が超えたのかモイライクラブのアームドギアが爆散して一際強烈な爆圧が生じ、風に押されて響とクリスは後ろへ転がった。

「や、やったか!?」

 砂埃が晴れていく。

 二人の眼前に佇んでいたのは、

「……な、そんな……!?」

「……倒せな、かった……!?」

 両腕が損壊したシンフォギアノイズが立っていた。

 でも、それだけだ。モイライクラブのS2CAは、有効打にはなり得たが致命打にはなり得なかったのだ。

 忘れてはならない。あのカルマノイズは、量産奇跡機構『オーケストラシステム』を乗っ取り、エクスドライブを起動させる相当のフォニックゲインを有している事実を。

「で、でも、出力差は分かってたじゃねえか!?それでも、エルフナインは『運命に干渉する』絶唱特性とやらでなんとかできるって……」

「……絶唱特性が、発揮されなかった……?」

 エルフナインの専門は錬金術だが、聖遺物に関しても知見は広い。彼女の見立てが間違っているとも考えづらい。

 であるなら、

「……単純に、絶唱特性を起こせるほどギアのロックが解除されていないのかも……」

「ま、マジかよ……三人が絶唱しても、まだ足りてねえってのか……!?もうそんなの、どうしようもねえじゃねえか!?」

 シンフォギア・システムには総数3億165万5722種類のロックが施されており、装者の技量やバトルスタイルに応じて系統的、段階的に限定解除される構造となっている。エルフナインの推察通り、きっと『運命に干渉する』機能は備え付けられているのだろう。

 けれど、今の彼女達がそれを解除できる域にまで至れるかは別問題だ。

 例え、必死に頑張って命を懸けたとしても。

「ごぼっ……」

「が、ぁ……」

「ぅ、ううううう……」

 響とクリスの目の前で安藤達が崩れ落ちた。血涙を流し、鼻から血が滴り、吐血のせいで気道が塞がりそうになっている。全身が不気味に蠕動し、出血に伴って急速に体温が低下していった。

「お、おい!しっかりしろ!!目を開けろ!!」

「クリスちゃん、病院!早く病院に連れていかないと!!」

 第二種適合者にとって、絶唱は死のリスクが伴う。全身が塵のように脆く崩れ去っていないのがせめてもの救いとさえ思える。

 けれど、シンフォギアノイズには人間のような憐憫はない。

 粉々に砕け散ったモイライクラブのアームドギアの欠片を、あろう事か吸い取った。

「な、なに……!?」

「ま、まずいよ、クリスちゃん!?あのカルマノイズはギアの運用ができる!だから、多分……」

 シンフォギアノイズの体表面に四つ目のギア『モイライクラブ』が張り付いた。それぞれのギアの欠片が七色に輝き始める。

「このエネルギー……さっきのやつだ……ッッ!?」

「ふ、ふざけやがれ!!もうS2CAなんてできねえぞ!?」

 アームドギアを形成させずにそのエネルギーを転用して射出する、フォニックゲイン砲。ガングニール・天羽々斬・イチイバルを併用した三連唱なら、S2CA・ツインブレイクで相殺できた。

 けれど今度はモイライクラブを加えた四重唱。その上、バックファイアでボロボロとなっている響とクリスにはもう一度S2CAを行使する余力はない。

 絶体絶命。

 勝てない。

 その事実に、思わず瞼を閉じて現実から目を逸らしかけた。

 

 ――――Gatrandis babel ziggurat edenal

 ――――Emustolronzen fine el baral zizzl

 

 とても綺麗な、澄んだ歌が聞こえた。

 絶唱の聖詠だ。

 けれど、一体誰が?

 響とクリスはもう歌えないはずなのに。

 

  ――――Gatrandis babel ziggurat edenal

  ――――Emustolronzen fine el zizzl

 

 その音源を辿って、響とクリスは絶句した。

 安藤達3人の唇の間から、絶唱が奏でられている。

「ば、馬鹿!?お前ら何やってんだ!?死ぬぞ!?」

 体を揺すって制するが、彼女達の唇は動きを止めない。

 LiNKER無しの絶唱後、全身を襲うバックファイアで出血が激しい最中での、さらなる絶唱。さらなるS2CA。

 正気の沙汰ではない。

 狂気の沙汰とさえ言える。どうせ死ぬからとヤキが回ったのか。

 しかし動揺する響とクリスとは裏腹に、三人は血塗れな凄惨な姿でも懸命に笑顔を浮かべて絶唱を奏で続けていた。

 瞳には強い意志の火が灯っている。決して、生きる事を諦めていない。

 狂ってなどいない。

 確固たる狙いがあって、彼女達は絶唱を行使している。まるで初めからそれが計画だったかのように。

「ギ、ィ……?」

 最初に異変に気付いたのは、響やクリスではなく敵であるシンフォギアノイズだった。

 体内のエネルギーが減衰していく。フォニックゲインを砲撃として射出するに至らない。一体何が起きているのか分からない。

 次に異変に気付いたのは響だった。

 その現象を彼女を知っていた。自分自身、かつて切歌や調の絶唱を前にして同じ事をしたのだから。S2CAによる敵のフォニックゲインの強奪。

 遅れながらも異変を完全に把握したのはクリスだった。

 響のような『誰かと手を繋ぐ』絶唱特性がなければ実現しえないフォニックゲインの強奪を、なぜ三人だけの自己完結型S2CAしかできない安藤達が実現しているのか。

「……シンフォギアノイズは、砕けたアームドギアの欠片を取り込んじまったから、四人目の装者扱いになってんのか……ッッ!?」

 モイライクラブのアームドギアは、各々の装者が機能を共有する共用アームドギアだ。絶唱使用時は各々のフォニックゲインも自動的に集約される仕様となっている。

 そして、量産奇跡機構『オーケストラシステム』を乗っ取ったシンフォギアノイズは、そもそもエクスドライブ相当のフォニックゲインを有していた。

 シンフォギアノイズが四人目扱いの装者になってしまったのなら、奴の体内のフォニックゲインまで三人は共有する事ができるのだ。

 つまり、

「リディアンのみんなの歌は、あなたなんかのものじゃありませんわ……!!」

「アニメらしく、ここらで一発、起死回生といこう!」

「中途半端でも、失敗作でも……わたしたちが纏うものだって、ビッキーたちと同じ――――シンフォギアだァぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 叫びは一つに重なり合う。

 

「「「ジェネレーターッッ、エクスドラァーーーーーーーーーイブッッ!!」」」

 

 三人が空を舞った。

 その背には、いつの間にか淡い光を放つ翼があった。

 エクスドライブモード。

 奇跡の再臨。

 S2CA・ヘキサコンバージョンを利用した響達とは全く異なるアプローチだった。自らの血肉を削いで敵の体に潜り込ませ、内から喰い破り蛆湧くような、比喩表現ではない獅子身中の虫。

 これもまた、彼女達のジェネレーターエクスドライブ。

 天女の羽衣のようなギアが本当に天へと召されるかのように浮遊していく。

 全身を纏う虹色の発光は地上に届くにつれてプリズムの如く散乱し、後光のように地を照らし出している。

 巨大な棍棒を携えた三人が、眼下のシンフォギアノイズを見据えて睥睨する。

「す、すげえ……やりやがった……!?」

 上空へ飛翔する安藤達の体に、もう出血は見られない。それどころか傷ついた体組織まで再生している。

「てらしーの言った通り、やっぱり傷が治ってるよ!」

「死んでない!わたしたち、死んでないよ!!」

 三人はルナアタック事変の決戦を見届けていた。その際、深手を負った翼とクリスがエクスドライブモードの起動と同時に傷が治癒され回復していたのを知っていた。

 だから、最終的にエクスドライブモードになれれば絶唱を使っても死なずに済むだろう。

 これが安藤達がナスターシャに提案した作戦だった。

 もちろん、ギアが粉砕して欠片をカルマノイズに()()()吸収させる、なんてプランは本当に博打じみておりナスターシャも成功の見込みは薄いと考えていたが。

 そして、安藤達のこの作戦はここからが本番だった。

「「「――――いっけええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」」」

 三人が力を合わせて巨大な棍棒にフォニックゲインを収束させる。

 エクスドライブモードには飛翔機能を含めて様々な機能が備わっているが、その中には『聖遺物の機能を拡張する』という特性も持つ。元の世界で、かつてクリスがソロモンの杖を機能拡張し、バビロニアの宝物庫の扉そのものを開閉したように。

 安藤達の狙いは、言うなれば自身のシンフォギアの機能拡張。

 絶唱の三重唱では至らなかった。けれど、エクスドライブでなら限定解除は可能だ。

 モイライクラブの有する『運命に干渉する』機能が発揮されるよう、総数3億165万5722種類のロックが解除されていく。

 運命への干渉。因果の改竄。時間遡行。

 その全てを総括する運命の三女神がこの場で願うのは、ただ一つ。

 事前の打ち合わせはなかった。けれど三人とも、答えは同じだった。

「「「――――あの日、月を穿ったあの日に、あの三人が死なない運命へと――――」」

 棍棒が叩き付けたのはこの世界ではなった。

 人間の、いや実存生物の知覚領域外にある虚数……人間の言語で言うところの『因果』の糸を殴りつけて撓ませる。

 瞬間、景色がぼやけた。

 カ・ディンギル址地だけではなくこの世界そのものが水彩画のようにじんわりと滲んで輪郭を失っていく。因果の流れから遊離したのだ。事象が確定するまでは、この不確定性世界はどの時間軸にも属さない。

 そして、三人が願ったのはルナアタック事変の再編。立花響・風鳴翼・雪音クリスが殉職しなかった世界線。

 意識したと同時に、揺らぐ世界が急速に硬質化していった。不確定な事象が確定し、虚数因子が世界から排除されていく。

「うっ……き、気持ち悪ぃ……」

 クリスは眩暈にも似た吐き気を催した。乗り物酔いのような症状に似ている。隣の響も同じように呻いており、辛そうだった。

 カメラのピントを合わせるように景色の輪郭が定まると、一連の歪みも収まった。

「何も……変わって、ない?」

「いや、クリスちゃん!あれを見て!!」

 眼前のシンフォギアノイズに異変があった。

 体表面にカサブタのように張り付いていたはずのギアの欠片が消失している。ただのカルマノイズに戻っている。

 ルナアタック事変での月の衝突時に装者が死ななかった世界。すなわち、ギアの残滓が宇宙空間に放逐されず、カルマノイズにも取り込まれなかった世界という事だ。

 動揺したかのようにカルマノイズが通常のノイズを召喚した。

 けれど、安直だ。

「エクスドライブを前にして、小細工なんて通用するかああああああああああああ!!」

 三人がそれぞれ滑空すると、その軌跡をなぞるようにノイズが破壊されていく。圧倒的だった。

 逃げ惑うようにして退避していたカルマノイズにも一瞬で追いついた。

「逃がさない!!」

「リディアンの皆を人質にしたこと!」

「そして、立花さんたちの力を悪用したこと!!」

「ケジメは、つけてもらうッ!!」

 三人が振りかぶったアームドギアが、カルマノイズの体躯に直撃した。

 跡形もない。

 一撃でその巨躯が吹き飛び、炭素の塵へと霧散していく。

「す、すごい……!!三人だけで、倒しちゃった……!!」

 失敗作と言われ続けてきたモイライクラブが、凶悪なカルマノイズを打倒した瞬間だった。

 

 

 

 

 ~元の世界~

 

 

「病院から連絡がありました!私立リディアン音楽院高等科の生徒、約720人の容態が回復したとの事です!」

「よし!!ありがとう、ご苦労だった、響君、クリス君!」

「まぁ、本当に頑張ってくれたのはわたしたちってよりも、あの三人だったんですけどね」

 並行世界から二人が帰還して数時間も経たずに生徒全員の意識は回復した。後遺症もないようで、リハビリも必要なくすぐに日常生活に復帰できるようだ。

「結局、カ・ディンギル址地の地下施設に幽閉されていたリディアン生徒を、カルマノイズは自身の呪いで洗脳しており、その負の影響がこちらの世界にも表れていたという経緯になるのか」

「カルマノイズをぶっ倒した後に、向こうの生徒も無事に保護されたから安心していいと思うぞ。向こうの生徒はけっこーな重体だったが、F.I.S.の病院ですぐに治療するっつってたから問題ないだろ」

 人命は無事に守られた。

 しかし弦十郎は安堵と共に複雑な表情を浮かべた。

「しかし、向こうの世界ではLiNKERを失い、ノイズへの対抗手段を失ったのだろう?カルマノイズを排除した以上は我々の務めは果たせてはいるが、果たしてこれが救済と言えるのか……心残りがないと言えば嘘になってしまうぞ……」

「安心してください、師匠!」

 響の声は自信に満ちていた。

 まるで全てを見てきたかのように。

「あの世界には、生きるのを諦めない人たちがたくさんいましたから!」

 

 

 

 

 ~並行世界~

 

 

 立花響と雪音クリスが世界を去る数時間前。

 安藤達も含めた五人だけでなく、F.I.S.所属のエージェント達も現場に急行していた。カ・ディンギル址地の地下に建設された録音ブースはシェルター化されており、災害時に備えた非常食や水が多く備蓄されている。しかしF.I.S.のエージェントが救助に駆けつけた際にはほとんど残っておらず、生徒達の多くが栄養失調や脱水症状に陥っていた。

 あと二日遅ければ死人が出ていた、と予測される。なんにしても間一髪だった。

「いた!未来!大丈夫?意識ある!?」

「……ひ、びき……?」

 生徒を担架に乗せて救助員が救急車へと搬送する作業の最中、響は未来を見つけて駆け寄った。かろうじて意識はある。どっと安堵の息が漏れた。

「あまり刺激を与えないでください。カルマノイズの呪いを長時間浴び続け、大脳に覚醒剤服用に相当する負荷がかかっている懸念があります」

「す、すみません!どうか治療、お願い致します!!」

 響に専門知識はないので、ここは専門家である大人達に任せるしかない。

 何もできる事はなく、カルマノイズの排除に成功した以上、ギャラルホルンのゲートが閉じる前に速やかに並行世界を去るべきだ。

「快復を見届けたいけど、そっから先はあいつらの役目だ。名残惜しいけど、あたしたちは去ろうぜ」

「うん、そうだね……」

 一抹の寂しさはあるが、頓着してはいられない。

 後ろを振り返り、安藤達と握手を交わす。

「わたしたちはいなくなっちゃうけど、頑張ってね!」

「うん、ビッキーたちも元気で!」

「立花さんと会えて、一緒にまたふらわーにも行けて、本当に嬉しかったです!」

「またアニメみたいな体験ができてよかったよ!」

 なんとはなく、三人の目尻には涙が溜まっているように思えた。

 なんだかクリスまで涙腺が緩んだようで、気持ちを切り替えるようにずびびーっっと鼻をかんだ。

 

 直後、無線機から場違いな叫びが響いた。

 

『――――現場の装者たち、今すぐ逃げなさい!!』

 

 疑問を処理する時間はなかった。

 カ・ディンギル址地のフェンスを押しのけて、軍人達が銃器を構えながら辺りを牽制し始めた。

「え、な、なにこれ……」

 Hold Up!という警告が聞こえる。米国人だ。

 搬送中の救急隊員にまで威嚇射撃を行い、その場に制止させる。

 部隊を指揮するような大柄なグラサン男が五人の前に進み出でて、柔和な笑みを浮かべながら挨拶をしてきた。表情とは裏腹に、響とクリスには拳銃の銃口を突き付けながら。

「私は米国政府から派遣されたエージェントです。あなた方が、ミス安藤、ミス寺島、ミス板場で間違いありませんか?」

「……そう、だけど……一体、何の用ですか?」

「あなたたちを日本政府の拘束より解放するために、救助に参りました」

「……救助?」

「ええ、そうです。今回の事件をきっかけに、LiNKERを失ったあなた方は間もなくシンフォギア装者としての力を失います。しかし、日本の防衛基地に在籍していてはそのまま兵役を強いられる可能性があります。F.I.S.には以前から再三の通告をしていたのですが、全てナスターシャ司令に拒否されていましてね……多少強引な形になりますが、こうして米国政府自らがあなた方を保護しに参った次第です」

『……嘘ばかり。この子たちを本国に連れ帰り、聖遺物研究に使おうという下種な本音が透けて見えます』

「ナスターシャ司令、F.I.S.は日本防衛から手を引く事が決定しました。もはやあなたにこの子たちを守る権限はない。……レセプターチルドレンの時もそうでしたが、あなたは手ぬるいんですよ」

『……下種共め……!!』

「どうぞご勝手に」

 元々、F.I.S.……というよりそれを管轄する米国政府は、モイライクラブのまだ見ぬ適合者さえ調達できれば他はどうでもよかったのだ。シンフォギアの適正候補生たるリディアン生徒と接触する機会が欲しかった。

 だからこそ都合がよかった。ルナアタック事変により装者を失った特異災害機動部二課は外交カードを失い、米国が安保を建前にした圧力によりリディアン音楽院に接触し『人体実験』を行い、無事に安藤達3人をゲットした。

 これが経緯。

 日本の防衛そのものに人材を割くのは無駄だ。安保条約の建前上、ある程度の統治をF.I.S.に押し付けたが、そこそこの業績を出したら見切りをつけて装者を米国に招集し、シンフォギアの研究に参加させようという魂胆だったのだ。

「そんな事させると思ってんのかよ!」

「おや、いいのですか?私に手を出せば国際問題に発展しますが」

 クリスがイラついたまま押し黙った。ペンダントを握りしめる手に力が籠るが、変身はしない。

 シンフォギアは人を傷つけるための兵器ではないのだ。

「理解できましたか?さあ、我々とご同行願います」

「い、嫌だ!そんなのわたしたちは聞いてない!」

「どうしてアメリカに行かなきゃいけないの!?学校は!?お母さんたちはどうなるの!?」

「機密に関する事項が多分に絡むため、本件は後日改めて皆様の関係者にご説明致します。今は急の要件ですので」

「や、やだ!離して!」

 軍人達は安藤達3人を無理矢理に連行して行こうとしていく。

 反抗したいのは山々だが、響やクリスにはその権限はない。F.I.S.の者ももう既に権限は凍結されている。

 助け、られない。

「ちょっと待てえええええええええええええええええいッッ!!」

 しかしその直前に、辺り一帯に地響きが炸裂した。

 腰が抜けるかと思われるほどの衝撃に、米国軍人達が静まり返って銃器を構え直す。カ・ディンギル址地のフェンスに寄りかかるようにして出口を塞ぐ男がいた。

 音源の主はそいつだった。

 その男が地面を思い切り踏みしめたせいで、突風が吹き荒れたのだ。

 その男は、銃を構える軍人相手に、挑みかかるように睨みつけた。

「日本政府の思惑も米国政府の思惑も知ったこっちゃないが、子供たちの願いを手助けできない大人は見過ごせないな」

「お、お前は……元特異災害機動部二課司令官、風鳴弦十郎……!?」

「俺だけじゃあないぞ」

 弦十郎の後ろから、ぞろぞろと特異災害機動部二課から除籍されたはずの元エージェント達が顔を出した。側近たる緒川慎次の他にも、藤尭朔也や友里あおいを始めとしたオペレーター達まで出揃う。

「どうしてお前たちがここに……お前らがここに出張ったところで、我々の任務を妨害すれば国際問題に発展するぞ!!」

「悪いが、その政治事情は俺の兄貴、風鳴八紘にぶっ潰してもらった」

「ど、どうやって!?そんな事はありえない!!シンフォギア装者を失った日本政府に、我々と取引するような外交カードはないはず!!」

「だから用意したんだよ。……これまで瀕死の重傷で一年以上ずっと意識不明だったが、ついさっき意識が回復した」

「な、にを……」

 風鳴弦十郎が一歩横にズレた。その背に隠れるように立っていたのは、三人の少女達だった。

 顔を青ざめさせる米国軍人達とは対称的に、安藤達の表情がぱぁっと明るくなった。

「彼女たちが復活した。……外交カードは揃えたぞ。さぁ、お偉いさんたちの堅苦しい論争は後でやってもらおうか。お前たちは今すぐ……出ていけ」

 弦十郎に気圧された軍人達が苦虫を噛み潰したように撤退していく。

 残された安藤たちが、ぼろぼろと泣きながら『その少女たち』に駆け寄った。

 

 

 

 

「会いたかった……ずっと、ずっと、会いたかったよ……ビッキー」

 

「うん。わたしたちも、生きるのを諦めなかったよ」

 

 

 

 

 

 

     ~完~

 

 

 

 




という訳で、運命の裁定者編、完結です。


次回は新章としてステファン君主役編を書こうと妄想しているのですが、その前におがつば短編を軽く投稿しようかと考えています。
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