簡単な救済劇ですか?   作:moti-

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未来白紙世界

「ーーーさぁ、血殲だ」

 

 

 ◇

 

 

 一日経ち。

 

 村の遠くを眺めれば濃密な龍気が見えた。

 

 それは恐らくあと少ししたらこの場に辿り着くだろう。少女は今死んだように眠っている。友人は楽しむようにこちらを観ていた。

 

 そして俺は。

 

 地面に突き刺した漆黒の大剣に目を向けた。

 

 

 ◇

 

 

 地面が爆発した。同時に地面から観測されたことがないほど巨大なイビルジョーが出現する。

 

 そいつはこちらに目を向け、病んだ瞳が光を放った。

 

 それももうーーー恐怖に値しない。

 

「それじゃ、殺すか」

 

 大剣を右腕一本で持ち上げる。

 

 衝突するまでもない。

 

 

 龍と化した存在には、竜は敵わない。

 

 

 ◇

 

 

 漆黒の大剣に左手で触れる。拒絶された。

 

 触れる。拒絶。

 

 触れる。拒絶。

 

 触れる。拒絶。

 

「ーーー嘗めてんのか?」

 

 拒絶を殺し無理矢理大剣に触れ、そこから力を込め引き抜いていく。

 

「ーーー泣いてるやつがいるんだ。苦しんでるやつがいるんだ。それだけならどうでもいい。ああ、俺にとってはどうでもいい。けど関わったんだ。関わったんだぞ。それは、どうでもいいで片付けられないーーー泣いてるヤツがいる。苦しんでるヤツがいる。だからよ、」

 

 力を寄越せ、クソ魔剣。

 

 

 ◇

 

 

 振り回される尻尾を大剣で受け流しつつ鱗を削ぐ。眼前に迫った牙を屈むようにして回避し、全力で大剣を振り上げる。

 

 死なない。

 

「足りない」

 

 呼応するように大剣から力が送られた。受け皿は未だ空いている、故にまだ力を要求する。

 

「もっと」

 

 同時にイビルジョーが足を地面に叩き付ける。それを尻尾の側面に着地する事で回避、直後に訪れる衝撃は空中に体を晒し避けた。そのまま回転し、足先で空気を蹴るようにし、その反動で上半身を前方へ倒す。頭上に構えた大剣は尻尾を叩き斬る形で半分切断し、その痛みか、或いは衝撃によってイビルジョーが悲鳴をあげた。

 

「足りてない」

 

 送られてくる力は先程の十倍。着地し、地面を蹴る衝撃で吹き飛ばしつつ今回はどうなのかを試すように動き、切りつけ、力の籠り方を理解する。

 

 三百メートル約一秒。音に近い速度。膂力は軽い一撃でイビルジョーの肉を破壊した。

 

「ーーー足りない」

 

 足りてない。まだ要る。音なんか置いていけ。光すらも置いていけ。一撃で古龍すら討ち滅ぼせ。

 

 それが出来るのが英雄体質だ。

 

 それが出来るのが絶対的主人公体質だ。

 

 全て、総て定めた敵を殺せるのが主人公体質だ。

 

 世界総てに対する切り札ーーーそれが俺だ。

 

 

 一歩踏み込む。

 

 その衝撃で地面が割れる。イビルジョーの肉体が此方の殺気により引き裂かれていく。

 

「いい」

 

 呟き。

 

「これならーーー殺せる」

 

 大剣をーーー縦に。

 

 振り下ろした。

 

 

 ◇

 

 

「物語の展開に必要な役者はジャンルによる」

 

 語る。

 

「だがーーーこういった部類の脚本にはよ」

 

 殺意を以て。

 

「ラスボスーーー或いは黒幕が存在してるもんだよなぁ」

 

 怯えた瞳が此方を捉える。

 

 声に似合わぬ幼い女子の顔。

 

「よお、殺しにきたぜ、偽神様ちゃん?」

 

「ぁ、う……」

 

 何のことはない。次元を切り裂き高みから見物をしている奴の存在している場所まで渡ってきただけ。

 

「や、やだなぁ。視聴者に手をあげようだなんて」

 

「残念だったな、彼女に干渉してからお前は既に登場人物。故にそこにある。故に殺す」

 

 と言うか、作品にヒロインを作ろうとした作者の姿。

 

「脚本を超越した暴走に恐怖したか? だがな、ひとつ言うなら脚本自体ガバなんだよ」

 

 何故スラング科学分野時代にそぐわぬ固有名詞メタ発言が飛び出した?

 

 何故理不尽な存在にしようと言う考えで別次元と言う概念を設定した?

 

 『主人公最強』と言う像を作ろうと要素を確定しようとし、ヒロインキャラクターを作成した。しかしキャラクターの性格を考慮に入れていなかった。

 

「操り人形かと思ったか? 残念、人型理不尽筆頭の俺ちゃんでした」

 

 一歩近づく。

 

「だからーーー俺の人生にお前の脚本は必要ない」

 

 地を蹴る。

 

 

「駄作者。お前のシナリオ、白紙にさせてもらう」

 

 右腕でーーー自称神の存在を握り潰した。

 

 

 ◇

 

 

「ああーーーずいぶん疲れたな」

 

 次元を越え、家へと帰るため足を動かす。シナリオを砕いたところで未来が白紙になるだけ。過去に起きたこと、世界の基盤は変わらない。

 

 彼女の人格は戻らないし、親友のメタ発言は直らない。俺のメタ発言だって、寧ろ明確に知覚したせいで前より酷くなったかもしれない。

 

 家の中で複雑に絡み付いた呪いを握り殺す。存在的に超越者となってしまったためこの程度は容易で行える。

 

 人としての生き方を辞め、龍としての生き方を強制される。

 

 俺は決戦前に寿命を使い果たし一度死に、そして剣の呪いにより生き返った。俺に普通の生き方は出来ない。主人公としてのレールを歩んでいくことになる。

 

「まあ、いいか」

 

 家の扉を開く。そうして、家の中で体の調子を確かめている彼女とそわそわした様子の親友が此方を向いた。

 

「お帰り、親友」

 

「お帰りなさい!」

 

「ーーーああ、ただいま」

 

 未来は白紙。騒動は終わり。本日晴天。

 

 それでいい。それでいいじゃないか。

 

 俺の人生の価値は、自分で決めるのだから。

 




完結です。改行場面転換の魔神と化した作者があとがきを最終話として投稿しようと考えています
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