ダンジョンでも心を燃やせ!   作:TouA(とーあ)

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第壱話

 

 

 

 男は吼える。鬼は咆える。

 

 男は、若き芽を摘ませぬ為に颶風(ぐふう)を纏う煉獄の刀を奮った。

 鬼は、男の命を惜しみつつ術式で底上げされた体術で拳を奮った。

 

 衝撃が大地を伝い、地表が波打つ。

 少し遅れて音が空気の壁となって周囲の木々を揺さぶる。

 其れはおよそこの世で起こりうる破壊の規模を超えていた。隕石の衝突に等しい衝撃が地表に放射状の亀裂を走らせていた。

 

 潰れた左眼、砕けた肋骨、傷付いた内蔵。

 男は満身創痍だった。其れでも滾った闘気が、耳朶を駆け抜ける気迫が、命を燃やした精神力が、ただ“柱”としての責務を全うさせる為に収斂され、男を大地へ立たせていた。

 

 鬼は其の男が放つ剣風が吹き(すさ)ぶ必殺の一撃を幾度と喰らい、血や肉を地表へぶち撒けようとも、瞬きの一刹那の間に全て完治していた。鬼として人の姿を捨て至高の領域に至ったが故に武の道を極めたのだ。

 

 

 轟いていた音が止み、立ちこめる土煙が晴れた時、亀裂の中心には鬼に鳩尾を穿たれていた男の姿が在った。

 

 

 男は吼えた。鬼は咆えた。

 

 

 鬼の弱点は陽光と首頸(くび)である。黎明まで寸刻。

 男は燃え猛る命の灯火を無情にも己で吹き消しながら零距離から鬼の首頸に刀を振り斬った。

 鬼は命の炎が煌めく男の決死の一閃になす術もなく首頸の半ばまで斬られた。意識を置いて刀の進行を(ふせ)ぎ、男の最後の灯火を握り潰そうと空を裂く左拳を男に放った。

 男は鬼の拳を腕刀を握ることで(ふせ)いだ。刀を握る五指に死力を振り絞り、夜霧を貫き、天を衝くが如くに咆哮した。

 

 

 男は。そして男は────勝負を制した。

 己に克ち、幾百を超える無辜の民を護り、後進の若い芽を護り、“炎柱”としての責務を果たした。誰が何と云おうとも其れは男の勝利であった。

 

 

────こっちにおいで。最後に少し話をしよう

 

 

 護り抜いた後進の少年達に男は告げた。

 弟には、自分の心のまま正しいと思う道を進むように、と。

 父には、体を大切にしてほしい、と。

 少年達には、己の弱さや不甲斐なさにどれだけ打ちのめされようと心を燃やせ、胸を張って生きろ、俺は信じている、と。

 

 多くは(のこ)さなかった。

 然し、少年達の多くに遺った。男が男である為の在り方を。

 

 

────母上

 

 

 母は男が男で在る事を、男が弱き者を助く為に強く産まれた者の責務を説いた、強く優しく在った女性だ。

 母は眩い陽光を背に男を真っ直ぐ見つめていた。男は最後に問うた。

 

 

────俺はちゃんとやれただろうか

 

 

────俺はやるべきこと、果たすべきこと、全う出来ましたか?

 

 

────立派に出来ましたよ

 

 

 

 男“煉獄 杏寿郎”は、満ち足りた笑みを浮かべ、黎明に散った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほわぁぁぁぁぁぁぁああああ!!」

 

 

 涙腺を決壊させる深紅(ルベライト)の瞳にホコリまみれの白髪、容姿からして兎を連想させる。

 少年“ベル・クラネル”は現在進行系で死にかけていた。理由は簡単でベルの太刀では傷一つ付けられない格上のモンスター“ミノタウロス”に追いかけられているからだ。

 

 

「でえっ!」

 

 

 ミノタウロスの蹄が土の地を砕き割り、衝撃波を生んだ。

 その衝撃波が起こした猛風に巻き込まれたベルは足を取られ、ゴロゴロとダンジョンの床を転がった。

 

 

「あは、はははははは」

 

 

 笑みと呼ぶにはあまりにも引き攣った口の歪みから乾いた笑いが漏れた。

 臀部(でんぶ)を地につけ、ベルより一回りもニ回りも大きい筋骨隆々のミノタウロスを見上げる。本能的に後ずさるが冷たい壁が背に当たり絶望的な状況であることを態々(わざわざ)再認識させた。

 

 次の瞬間、(あか)き紅蓮の炎虎がミノタウロスを呑み込んだ。

 

 刹那の一瞬で命を刈り取られたミノタウロスは魔石ごと斬られたからか、血を撒き散らすこともなく、啼き散らすこともなく静かに消えていった。

 

 

「大丈夫か少年」

 

「………は、はい」

 

 

 ベルの前に現れた練り上げられた闘気を纏う男は黒い詰襟(つめえり)に白地に炎を象った羽織、炎の様な鍔に燃え立つ焔の刃紋が入った赫い刀を握っていた。

 

 

「大きな怪我は無さそうだが…鬼の血は浴びてないな?」

 

「お、鬼?浴びてませんけど」

 

 

 ミノタウロスを“鬼”と表現したことには疑問を覚えたベルだが心の底から心配しているという事が男が向ける優しい眼差しで理解出来た。

 

 

「た、助けてくれてありがとう御座います!!」

 

「弱き者を助けるのは強き者の責務だからな!!」

 

 

 男は腕を組み豪快に言い放った。

 その言葉を聞き、ミノタウロスを一撃で屠った手腕を眼前で見て、練り上げられた闘気を肌で感じ取ったベルは無意識にその男に頭を垂れてこう言っていた。

 

 

「僕はベル・クラネルといいます!弟子にしてください!」

 

「うむ!いい目をしてるな!いいとも!」

 

「ありがとうございます!師匠の名前は!?」

 

「煉獄 杏寿郎だ!」

 

「これから宜しくお願いします!煉獄の兄貴ッ!!」

 

「してクラネル少年よ」

 

「は、はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここはどこなのだ?」

 

 

「へあっ!?」

 

 

 

 

 

 

 






これは亡きアニキに捧げる英雄譚。

ジャンプ本誌でボロクソに泣いてコンビニの店員にポケットティッシュを渡され、単行本でもボロクソに泣いて目を腫らして友達に心配され、登場回こそ少なかったものの心に深く刻まれたアニキの生き様。

ハーメルンで鬼滅の刃の小説少ないなぁってことで書きました。楽しんでいただけたなら幸いです。

感想や評価をお待ちしてます。煉獄アニキだけでなくかまぼこ隊のこととか感想欄で語れたら嬉しいです。
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