ダンジョンでも心を燃やせ!   作:TouA(とーあ)

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お久しぶりでさぁ!

感想が想像以上に来て感涙してます。みんな、煉獄のアニキ好きなんだね(確信)。

久方振りの一話、お楽しみ下さい。




第弐話

 

【迷宮都市・オラリオ】

 

 この世界で唯一の『ダンジョン』と通称される地下迷宮を保有する大都市だ。迷宮の上に築き上げられたこの街に、夢を持って足を踏み入れる人間は多い。

 地位や名誉の獲得を夢見る者、一攫千金を夢見る者、運命の出会いを夢見る者、その姿は人によって様々だ。

 それぞれがそれぞれの大望をもって神の家族(ファミリア)となり、冒険者になる。

 

 僕────ベル・クラネルもその一人だ。動機こそ女の子と出会いたいという不純なものではあるけれど。

 

 

「あの〜煉獄さん」

 

「うまい!うまい!うまいっ!」

 

 

 今、僕の目の前には快活な笑みを浮かべながらご飯を口に運ぶ御人…僕の命の恩人であり、僕を弟子にしてくれた“煉獄さん”がいる。このオラリオという都市と僕の“冒険者”という肩書の由来を今しがた煉獄さんに説明したのだけど…。

 

 

「うまいっ!」

 

「いやもうそれは凄くわかりました」

 

 

 今僕達が居る場所は酒場の『豊穣の女主人』と呼ばれるお店だ。

 店主のミアさんを初め、このお店はダンジョンから帰って来た冒険者達に豪快な調理を見せ付け、鼻の奥まで刺激する芳醇な香りと値段に似合わない山の様に積み上げられた料理で(もてな)している。又聞きでこのお店にハマる人が多いという話を聞いたことがあるけれど何となく理由が判る気がする。美味しい料理に可愛い制服のウェイトレスさん。事実、今日初めて来た僕も胃袋を掴まれ、視線を奪われることが多い。

 煉獄さんは胃袋を掴まれているようだ。僕はひと皿で満腹になる量なのに煉獄さんの前には既に4皿積み上がっている………今思ったけど手持ちのお金で足りるかな?

 

 

「クラネル少年」

 

「は、はいっ!」

 

「あの“牛頭(ごず)”は“鬼”ではないのか?」

 

「“おに”?あ、えっとここでは“モンスター”と言ってあのモンスターは“ミノタウロス”と言います!」

 

「“みのたうろす”……ふむ、成程。相判った!」

 

「な、何が判ったんですか!?」

 

「判らない事が判った!これは大きな進歩だ!ハッハッハッ!」

 

 

 ハハハ…と乾いた笑いがでる。なぜだろう、物凄く自由奔放なのに煉獄さんの言葉一つ一つに惹き付けられる。煉獄さんが持つ独特な雰囲気がそう言わせるのかもしれない。

 

 

「クラネル少年、その“もんすたー”とやらの血を傷口に浴びると“もんすたー”になる、という話を聞いた事はないか?」

 

「えっ?な、無いですけど…」

 

 

 その問い掛けは僕にとってかなり驚くものだった。

 勿論、煉獄さんに言ったように聞いた事は一度も無い。それに聞いた事が無くてもその様になるのなら、細心の注意を払う様にダンジョンを管理する“ギルド”から言われる筈だ。

 煉獄さんは目を閉じ、僕の答えを自分の中で吟味しているようだった。僕が言った事はこのオラリオの中では当たり前の常識なんだけど、煉獄さんは初聞きとそう言わんばかりに思考の海に沈んでいる。

 暫くしてカッッと目を見開いた煉獄さんは僕を見て口を開いた。

 

 

「よしっ!おかわりを貰おう!!」

 

 

 その言葉を受けてガンッとテーブルに伏せてしまった僕はきっと悪くないと思う。

 

 

 

 

 

 × × × × × × ×

 

 

 

 

 

 

 それからベルは煉獄にこの都市についての常識を教えた。

 この“オラリオ”という都市は“ダンジョン”という迷宮を中心に成り立っているということ。

 約1000年前、何も変化が無い天界に飽きた“神”がこの下界に降り立ち、ヒューマンをはじめとする冒険者達に“恩恵(ファルナ)”を与え、様々な事象から経験値(エクセリア)を得て能力を引き上げ、新たなる能力を発現させその成長を娯楽として楽しんでいるということ。ベルも“神”の“眷属”だが何百年と前から降り立っている“神”が率いる大規模なファミリアとは違い、“ヘスティア”という最近降り立った“神”の眷属であること。まだその【ヘスティア・ファミリア】にはベルしか居ないこと。

 冒険者とダンジョンはギルドが管轄していること、オラリオの通貨が“ヴァリス”であることまで仔細を話した。

 

 

「あの……」

 

 

 二人が会話を交わしているその最中(さなか)に。

 “豊穣の女主人”で“宴”を開いていた、とあるファミリアから一人の美少女が二人の傍に寄り、声を掛けてきた。

 二人はその人物に目を向ける。純粋無垢な少年は一瞬で顔を真っ赤に染め上げ、男はおっ!と目を輝かせる。()()、ダンジョンで出逢った女性であったからだ。

 

 

────アイズ・ヴァレンシュタイン。

 

 

 オラリオの2大ファミリアの一つ【ロキ・ファミリア】に在籍する【Lv.5】の第一級冒険者である。神が定めた二つ名は【剣姫】。

 砂金の如き輝きを帯びた金の髪、触れれば壊れてしまいそうな細い輪郭は精緻かつ美しく、良くできた人形というよりも、それこそお伽噺なんかに出てくる精霊や妖精と言ったほうがしっくりくるものだ。

 アイズの大きく際立つ金色の瞳は、無意味に喉を鳴らしてしまうくらいに透明に澄んでいる。その瞳に見つめられれば少年の様な反応をしてしまうのは無理も無い。

 

 

「あ、ああ、ああああアイジュッヴァヴァレ」

 

「よもや再び相見(あいまみ)えるとは思わなんだ!して要件はなんだ!」

 

 

 目を回しながら意味不明な言葉を羅列するベル。反対に溌剌(はつらつ)に返事をする煉獄。

 アイズは正反対な二人を見て少しオロオロするが、ふぅと一息吐くと落ち着きを払いながら口を開く。

 

 

「あの時はごめんなさい……私達の所為(せい)で迷惑をかけて」

 

 

 アイズの言う“あの時”とは、ベルがダンジョンの上層でミノタウロスに襲われ、煉獄が見事な剣術で仕留めた後のことである。

 そもそも“ミノタウロス”というモンスターはダンジョンの【15階層】以下の迷宮に出現するというのが一般の見解だ。ベルがいたのは【5階層】。『ダンジョンは何が起こるか判らない』というのが共通認識だが明らかにこの状況はおかしいのである。

 その理由、原因として【ロキ・ファミリア】の存在がある。【ロキ・ファミリア】は深層への遠征の帰りで【17階層】から【16階層】に差し掛かる手前で“ミノタウロス”の集団と遭遇(エンカウント)したのだ。第一級冒険者(ア イ ズ た ち)にとって取るに足らない相手。だが“ミノタウロス”の行動は他のモンスターと異なり、一匹仕留めると上層に向かって逃走したのである。

 道が入り組んだダンジョンで一度見失えば、再び見つける事は困難だ。判っていたのだがアイズはミノタウロスの最後の一匹を見失ったのである。

 団員仲間の狼人(ウェアウルフ)の嗅覚のサポートもあり、追い付いた時には既に【5階層】。そしてそのミノタウロスを視界に捉えた時には、男が放った“剣術”による“炎虎”がミノタウロスの全身を呑み込んでいた。その男が煉獄である。

 

 

「なに、気にするな!」

 

「ごめ…いえ、有難うございます」

 

「うむ!いい表情(かお)だ!」

 

「き、君も…大じょ────」

 

「おーいアイズ!何して……テメェは」

 

 

 アイズがベルに声を掛けようとした、その時。

 ジョッキを片手に狼人(ウェアウルフ)の青年が、アイズの言葉を遮るように詰め寄ってきた。その青年は二人の顔、というより煉獄の顔を見て怪訝な表情を浮かべた。

 

 

「アイズ、雑魚との会話はやめとけ」

 

「────っ」

 

 

 怪訝な表情を浮かべたのは煉獄を見て、だったが“雑魚”と表現した時の視線の先にはベルがいた。

 ベルは全身が発火した様に熱くなる。体で火照っていない場所が見付からないぐらい体の奥から燃え盛った。

 

 

「べ、ベートさん……!」

 

「何だよ、アイズ。雑魚を雑魚と言って何が悪い?何も間違ったこと俺ァ言ってねェだろうがっ!」

 

 

 酒気を帯びているのか、ベートと呼ばれた狼人(ウェアウルフ)の青年はベルを見下し、嘲笑を響かせながら続ける。

 ベートはベルがミノタウロスに襲われているその瞬間を遠目から視認していた。涙腺を決壊させ瞳に涙を溜めるベル()の姿をしっかりと捉えていた。その様な存在がベートにとって一番癪に障るのだ。

 ベルは頭の隅がゴリゴリ削られていく様な錯覚を覚える。しかし何一つ言い返す事ができない。

 

 

「そら、このザマだ……!救えねェ腰抜けに雑魚と言って何が悪ィんだよ!」

 

「だ、だからといって……!」

 

「止めんじゃねェよアイズ!!俺はなァ!言うことだけは一人前で歯向かう気概もねェ、毎日毎日自分(テメェ)より弱ェモンスターを仕留めていい気になってる雑魚が一番嫌いなんだよ!吼えることも出来ねェ奴は冒険者なんざ()()()()()()!!」

 

 

 ベートは吼えた。アイズはその気迫に押し黙ってしまう。

 ベルは惨めな自分が恥ずかしくて唇を噛み締めていた。言い返せない、目を伏せる事しか出来ない。何もしていない、煉獄に『弟子にしてくれ』と最初から他人任せだった自分に(はらわた)が煮えくり返る。青年の言を肯定してしまう弱い自分が、何も言い返せない愚かな自分が、堪らなく悔しい。

 感情が乏しいアイズでさえも、嫌悪の表情を滲ませている。だがこの場で一人だけ、先程と全く表情を変えていない男が口を開いた。

 

 

「君が言う“雑魚(弱き者)”を護るのが強き者の責務だろう?」

 

「あ゛?」

 

「力有る者が力無き者を護るのは至極当然だと言っている。違うか?」

 

「んだと……!テメェみてェな奴が、そうやって甘やかすから群れる事しか脳がねェ雑魚に成り下がんだろうがッ!『俺は強ェ』と勘違いする雑魚が増えんだろうがッ!」

 

 

 ベートに真っ向から意見をぶつける煉獄。

 今まで口を開かなかったのはベートの発言の一部は理解が出来るからだ。しかしベートの“弱い者”を見下すだけ、嘲笑するだけ、吐いて捨てるだけ、理由も無く拒絶するだけの姿勢は到底許容出来る範疇には無い。

 

 

「確かに君の言う様に己の限界を勝手に決め付け、足を止め、詭弁を並べるだけの者はごまんといるだろう。然し、仮例(たとえ)そうであったとしても強き者は、救える力を持つ者は、弱き者を助く為に力を奮わねばならない。それに────」

 

 

 煉獄は顔を伏せるベルを一瞥し立ち上がる。ベルの隣に立ち、正面からベートを見据える。そして唇の端から血の筋を垂らし、体を悔しさで振るわせるベルの頭に優しく手を置いた。

 

 

 

「クラネル少年は今、己の弱さや不甲斐なさに打ちのめされている。歯を喰いしばり、君が口にした惰弱、貧弱、虚弱、軟弱、怯弱、脆弱の言の数々に目を背ける事なく全て受け止めている。静かに、ただ静かに…心を燃やしている」

 

 

 

「“強さ”というものは肉体のみに使う言葉では無い。(ひと)人生(生き方)他人(ひと)が決めるものでは決して無い」

 

 

 

 

「彼の“弱さ(強さ)”を侮辱するな」

 

 

 

 

 煉獄の放つ裂帛の気迫が周囲の緊張を極限にまで引き上げる。

 第一級冒険者は臨戦態勢に入り、それ以下の冒険者は煉獄の気迫に気圧された。涙目になっている冒険者さえいる。

 そしてその緊張の空間を破ったのは他でも無いベルだった。

 

 

「─────ッ!!」

 

 

 椅子を飛ばして立ち上がる。殺到した視線を振り払い、外へと飛び出した。

 道行く人々を追い抜いて、周囲の風景を置き去りにして、自分を呼ぶ声を背後に押しやって、夜の街を駆け抜けた。

 歪められた(まなじり)から水滴が浮かんでは、背後へと流れる。吊り上げた瞳に涙を溜め、闇に屹立(きつりつ)する塔に向かってひた走った。

 

 

 

 

「それでいい、クラネル少年────心を燃やせ」

 

 

 

 

 ぽつり、と。

 “豊穣の女主人”の店内の空気が弛緩する中、煉獄は弟子にしたばかりの少年の背中を優しく温かい目で見つめ、呟いた。その呟きは誰に届く事もなく、静かに街の雑踏に掻き消され、霧散した。

 

 

 

 

 




どうでしたか?アニキっぽさ出せたかとても不安です…。

以後謝辞。
『ゆぴこ』さん、高評価ありがとうございます!まさか9なんて評価を貰えるとは思いませんでしたのでとても嬉しくて一日、ふがしふがし、と盛り上がってました。

友人に言ったら『そういう妄想をしてらっしゃるんでしょう?』と善○風に言われたので腹パンしました。私は悪くない。


ではまた次回にお会いしましょう!感想、評価お待ちしてます!!

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