ダンジョンでも心を燃やせ!   作:TouA(とーあ)

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お久しぶりです。
覚えてくれている人がいるかどうか不安ですが投稿しやす!

今回は会話主体ですが、煉獄杏寿郎という男に対しての様々な考えという一話です。

ではどうぞ!!






第參話

 ()

 

《豊穣の女主人》

 

 

「ふむ」

 

 

 (またた)く間の出来事に、店内外の大半の冒険者は何が起きたか把握できずにいた。

 だが把握できた者の視線の先は二つに分かれ、向けられている。

 一方は決河の勢いで飛び出した少年を追い、もう一方はその少年の背を慈愛の籠もった目で見つめる一人の男に向けられていた。

 男はその少年の背が見えなくなると、正面で牙を剥く狼人(ウェアウルフ)の青年に視線を飛ばす。

 

 

「言っただろう?彼は強い、と」

 

「……ハッ、尻尾巻いて逃げただけだろ?この空気に耐えれきれねェで」

 

「…」

 

「んだよ、言っとくが俺は曲げねェよ。テメェがどう思うが、雑魚は雑魚だ。馴れ合いってのは自分(テメェ)の失敗を自分(テメェ)で誤魔化す為の自己満足だろ?塵芥(ゴミ)塵芥(ゴミ)と言って何が悪い?」

 

 

「…」

 

 

 暫しの沈黙。

 瞠目する煉獄は静かに、ただ静かに日輪刀の鞘に左手を添える。

 静謐なのは表相(うわべ)だけで、内に燃ゆる炎心は今にも噴き出さん限りに五臓六腑に拡がり燻っている。

 狼人(ウェアウルフ)の青年────ベート・ローガ、及び“豊穣の女主人”の客、店員に裂帛の気迫をぶつけた時とは真逆の煉獄の佇みに、再び緊張感が疾走(はし)るのは必然だった。

 

 

「すまない」

 

 

 彼我の距離に割って()る冷徹な声。

 ベートの前に立ち、煉獄を下から見上げる少年、否、纏う空気は煉獄に勝るとも劣らず、強者の佇まいそのもの。

 (やわ)黄金(こがね)色の髪に湖面の様な碧眼。この酒場にいる誰よりも幼い外見でありながら、深い理知を感じさせる相貌と声音。

 

 

「おいフィン!!邪魔すんじゃ────」

 

「ベートッ!!……彼に、()()()()()()()

 

 

 この空気の趨勢(すうせい)を見極める少年の声は高く鋭い。

 ベートの言葉を遮る叱責は、理知から漏れ出た怒りと少しの恐れを含んでいた。

 柳眉(りゅうび)を逆立てる“フィン”と呼ばれた少年は、ベートから視線を引き払い、再び煉獄と向き合う。

 

 

「…………チッ!俺はお前を認めねェ、それと俺はお前が嫌いだ。それだけは言っとく」

 

「気が合うな!初対面だが俺も既に君の事が嫌いだ」

 

 

 居心地が悪くなったのか、ベートは悪態をつき、豊穣の女主人を出て行く。誰も彼を引き留めはしなかった。

 煉獄は鞘から手を離し、腕を組む。そして────。

 

 

「僕の団員が失礼を働いた、申し訳無い」

 

「うむ!こちらこそ朗らかな酒の席を壊してしまい申し訳無い!鬼殺隊・炎柱“煉獄杏寿郎”だ!よしなに頼む!」

 

「ハハ…改めて。僕の名前は“フィン・ディムナ”。【ロキ・ファミリア】の団長を務めてるよ。宜しく、杏寿郎」

 

 

 双方の謝罪の後、固く結ばれる二人の掌。

 空気が弛緩し、緊張が霧散し、溌剌(はつらつ)とした酒場の雰囲気に戻っていく。多くに届いた二人の会話も、辺りの喧騒に掻き消されていく。

 

 

「して、フィン。貴殿の背丈は(わっぱ)程しかないが、纏う空気は幾度と死線を潜り抜けた強者のもの!なぜだ?」

 

「あぁ、僕は小人族(パルゥム)という種族でこういう体質なんだ。もう歳は四十(しじゅう)は超えてるよ」

 

「なんと!“ぱるぅむ”という言葉は存じないが、この世界は本当に奇天烈なものばかりよ!愉快愉快!」

 

「僕にとっては君が奇天烈そのものなんだけどね…」

 

 

 豪気に笑う煉獄と少し引き気味に笑むフィン。

 ウエイトレス姿の店員はその光景に怪訝の目を向けたり、呆れた目を向けたりと十人十色。好ましくない客である事は確かだからだ。下手に目立つ為、声を掛けることこそしないが。

 

 

「杏寿郎、君はファミリアには所属していないのかい?」

 

「していない!抑々(そもそも)、この世界に来たのが今日だからな!」

 

()()()()……?」

 

「うむ!フィン、君は“鬼”という言葉を聞いたことはあるか?」

 

「“おに”、“おに”、“おに”……いや、無い。知識には自信があるけれど全く無いね。それが?」

 

「“鬼狩り”と言ってな、俺を含め“鬼殺隊”という組織は、無辜なる民を護る為に、人を喰らう“鬼”を屠ることを生業としている。悪鬼・滅殺、隊の矜持だ!」

 

「“おにがり”、“きさつたい”…聞き覚えはない、ね。本当に違う世界線から来たのかい?有り得ないとは一概に言えないのが、オラリオの面倒なところなんだけど」

 

「フィン、その男、嘘は吐いてへんよ」

 

 

 二人の会話に、ジョッキを片手に口を挟む女性が一人。

 糸目に緋色の髪、淡麗な顔立ちに出るところは全く出ていない体。

 この世界で“神”と呼ばれる超常の存在の一人である。フィンらが所属しているファミリアの主神────ロキだ。

 

 

「うちは“ロキ”。フィン達のファミリアの主神っちゅうやつやな!杏寿郎、【ロキ・ファミリア(う ち)】の家族にならへん?」

 

「む??」

 

「やから、【ロキ・ファミリア(う ち)】のファミリアに入らへんか〜?っちゅうお誘いや。うちはこれでもオラリオ中ではトップでな?オラリオ(こっち)に来た背景とかその他諸々調べるには便利やで?どうや!」

 

 

 ジョッキをを掲げ、無い胸を張り、ロキは意気揚々に勧誘する。

 勿論、ロキが挙げた条件というものは煉獄にとっては大きく知りたい事である。何せ、なぜこの世界に飛ばされたのか、召喚されたのか、理由も何も判明していないからだ─────だが。

 

 

 

 

 

「有難い誘いだが断らせて貰おう」

 

 

 

 

 

 煉獄は一切の迷いも無しに一点の曇りの無い瞳でそう答えた。

 ロキとフィンは目を丸くする。まさか断れるとも、そして瞬時に答えが返ってくるとも思っていなかったからだ。

 

 

「…理由を聞いてもえぇ?」

 

「あぁ!ロキ、君のファミリアに入るという事は君の下に付く、という事と同意義だろう?!」

 

「ま、まぁそやな。うちの眷属(こども)としてここで暮らし、ダンジョンに身を投じるっちゅう意味や」

 

 

 ロキが言うように、ここ“オラリオ”、即ちダンジョンに身を投じる冒険者達は、何かしらの夢を持っており、人それぞれに目指すべき場所がある。未到達領域に踏み入り歴史に名を遺そうとする者、商売で一攫千金を狙う者、酒池肉林を追い求める者、命を(なげう)つ冒険に興奮する者…或る意味、群雄割拠なのだ。

 

 そしてそれは、煉獄杏寿郎も()()()()()()

 煉獄はロキの言葉に数度と激しく頷くと、双眸を見開き、明朗快活に言う。

 

 

 

 

「俺の心は既に“お館様”に預けてある!他の者の下に付く気は毛頭ないッ!!」

 

 

 

 

 初志貫徹。

 煉獄杏寿郎という男は、たとえ世界が変わろうが、誠心誠意、忠義を貫くのだ。

 それが煉獄杏寿郎が煉獄杏寿郎で在る為の矜持で、誇りで、強さであるから。

 誰であってもその志を、心を圧し折る事は出来ない。出来やしないのである。

 

 

 

「それに!俺はこの世界に来た理由など微塵も興味は無い!」

 

 

 

 そう、煉獄はこの世界に召喚された理由など、どうでも良かった。知りたくない、と言えば嘘になるが心底どうでもいいのである。

 あの世界に戻りたいとは思わない。既に、命を燃やし尽くした身だ。加うるに、“煉獄杏寿郎”の熱き魂の在り方は()()()()()()()()()()()()

 

 だが、たった一つ。

 煉獄が元居たの世界で遣り残した事がある。それは─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソがッ!!」

 

 

 苛立ちを隠さぬ、忿懣(ふんまん)の表情を浮かべる孤狼が一人。

 忿懣と言うが、忸怩たる思いも滲ませていた。孤狼────ベート・ローガは現在、複数の感情が入り混じり、遣る瀬無い感情に振り回されているのだ。

 

 

────弱き者を護るのは強き者の責務

 

 

 数刻前、或る男に言われた言葉に────。

 自身の『弱者を甘やかすな』という過去の経験から得た寓意とは真逆の旗幟(きし)を、真っ向から衝突させられ、懊悩し、今に至る。

 

 

「認めねェ……」

 

 

 あの時、男が魅せた裂帛の気迫を直近で受けたベートの体は“畏怖”に染まっていた。そう、ベートの確固たる意思が認めたくないだけで、事実、体が認めていたのだ。男────煉獄杏寿郎が自身より上である、と。

 故に、尚更認める事が出来ないのだ。

 オラリオの冒険者は、【Lv.7】から【Lv.1】まで存在する。その人数は下に行けば行くほど多くなる。つまり頂点から三角形の様に人数が増えていく。

 ベートの考えは下の人間が上に登るには、自身の力で登る以外無いというもの。甘やかす、助け合いなど不要であると。しかし、煉獄の考えは真逆で、上は下の者を護る為に刀を振るうべきであると。それが強き者の責務であると、そういうのだ。無論、煉獄はベートの考えの全ては否定していない。事実ではあるのだ。

 だが、ベートは自身より上の実力を持っていると認識した、否、認識()()()()()からこそ、強者の役儀は弱者を(たす)くこと、という寄り添い、必要以上に馴れ合う関係を嫌悪するのだ。上の者が下の者に檄を飛ばさずして誰がするのだ、と。

 

 

「俺ァ俺のやり方を貫く……!」

 

 

 激情の炎が宿る双眸と‘強さ’への渇望がベートを突き動かす。

 貫徹している信念を捻じ曲げることもなく、ただ独り、誰よりも強者で在りたいが為に。

 誰も彼もベートをエゴの塊だと言えない。この世界では強さが全てで、弱い者は、自身の力を見誤る者は先に先に死んで逝く。

 ベートと煉獄、決して交わらぬ双方の信念は、誰一人として否定し唾棄することなど出来ないのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベル……」

 

 知り合ったばかりの少年の名を小振り唇に乗せる。

 白い髪に細身の体が店から飛び出した時、急転直下のことで暫く固まっていた“アイズ・ヴァレンシュタイン”は、暫くして店の外へと歩み出た。

 背には再び活気湧く冒険者の喧騒。その中に、一段目立つ明朗な声を耳が拾う。

 

 

「鬼滅隊・炎柱“煉獄杏寿郎”だ!よしなに頼む!」

 

 

 彼と会うのは二度目。

 一度はダンジョンで、二度目は酒場で。纏う空気は自分達と同質、即ち強者(つわもの)のそれだった。常にひとときの隙も無い重く、過密な空気。

 

 

────弱き者を護るのは強き者の責務

 

 

 煉獄が口にした言葉が頭の中を延々と反芻する。

 アイズは間接的に、ではあるが少年を傷付けた。一度ならず二度までも。

 煉獄の言葉に則るならばアイズはその責務を放棄している事になる。勿論、それは煉獄杏寿郎という男の在り方であり、アイズが尊守する必要は皆無である。

 

 

「私は……弱い、ね」

 

 

 煉獄の様に高潔で在れない心の弱さが。

 自分の意と反しているベートの言い分に強く言えない少胆さが。

 責務も何も自分可愛さに他者との関わりに一歩踏み出せない内気さが。

 畢竟(ひっきょう)、仲間に自分の弱さを曝け出せない臆病さが。

 精神的にまだ幼いアイズにとって、煉獄杏寿郎という男の在り方と言葉は酷く突き刺さるものだったのだ。

 

 

「私は…どうしたらいいの、かな」

 

 

 アイズの問いかけに応える者は誰一人として居なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!」

 

 

 喉が張り裂けんばかりの咆哮。

 血河流るる脆弱な肉体。

 脳の信号よりも先行する激情が乗る、刃零れしかけのナイフをただただ振るう。

 

 

(悔しい!悔しい!悔しいッ!!)

 

 

 殺意を覚えるのは自身を蔑んだ青年でも周囲で馬鹿にしていた他人でもない。

 何もしていないくせに無償で何かを期待していた、愚かな自分に対してだ。

 

 

「畜生ッ!」

 

 

 青年の言を肯定してしまう弱い自分が。

 何も言い返せなかった無力な自分が。

 悔しさに身を震わせることしか出来ない愚かな自分が。

 

 

────弱き者を護るのは強き者の責務

 

 

 熱き魂に護られるだけの自分が。

 自分の代わりに青年の前に立ってくれた事に()()()()()()()()自分が。

 彼女の隣に立つ資格を、欠片も所持していない自分が。

 甘えるばかりの飢食の自分が。我儘な自分が─────酷く、苛立たしい。

 

 

「ッ!!」

 

 

 既に少年の衣服はぼろぼろであった。追い剥ぎにあったかのように。

 右手に握る護身用の短刀は、無数の怪物の血に染め上げられ濡れている。装備も(ろく)調(ととの)えず、傷だらけになっている自分の体を他人事のように感じるまでに、少年はただモンスターを屠る機械となっていた。

 弱くて、惨めな自分の力を認め、自棄になり、絶えず湧き出す悔しさを糧に、手の中にある一つの武器を振り続けた。

 

 

「はぁっ、はっ、は……ッ!」

 

 

 緊張の糸が途切れ、理性を手放した虐殺ファイトに終わりが来る。

 疲労がどっと押し寄せ、出し抜けに膝が折れ曲がりそうになり、限界が近いことを知る。

 だがダンジョンは無慈悲だ。ピキリ、と音を鳴らすと蜘蛛の巣の様に放射線状に亀裂が走り、新たなモンスターが生まれ堕つ。

 

 

「ははっ……」

 

 

 突発にでる笑い。諦念か呆れか、それともまた別の何かか。

 疑いようの無い窮地。抱いた想いは決意と意地。

 脆弱な覚悟は血痰と共に吐いて捨てる。

 短刀を握り締め、構える。自身を囲む意思の無きモンスターに深紅(ルベライト)の双眸で睨み付ける。

 

 

「ここから、ここからだ……」

 

 

  燃やせ、燃やせ…燃やせ!

 沸騰する血流を全身で体感すると、瞳孔が狭窄(きょうさく)した。

 自身を襲う鋭利な尖爪が、いや全ての動きが緩慢になり、走馬灯共に耳横を駆け抜けていく。

 

 鮮明に光を放つ記憶は少女(憧憬)との出会いと何時も傍にいて支えてくれる大切な神様(だれか)の笑顔。

 

 そして────誰よりも大きい師匠(強者)の背中。

 

 

 

 

 

 

「僕は………強くなりたいッッ!!」

 

 

 

 

 





お楽しみいただけましたか?
ベートは信念を曲げず、アイズは自責を考え、ベルは一歩踏み出しました。その全てが『弱き者を護るのは強き者の責務』という点に繋がります。
前回の感想で『使い過ぎじゃない?』と指摘を受けましたが、今回の話に繋げるため、多く使いました。

一応の補足ですが、煉獄さんはベートの在り方までは批判していません。譲れない信念、という意味では煉獄さんも持っていますから。それ自体は否定していません。


以後恒例謝辞。
『ましろんろん』さん、『トラソティス』さん、最高評価有難う御座います!!
『メタドラ』さん、『三大【天】』さん、『ken1121』さん、『茶丼』さん、『ヘラクレス兜』さん、『綺麗なジャイアン』さん、『ALUTAILU』さん、『星辰』さん、『綿狐』さん、高評価有難う御座います!!

まさか、こんなに評価を貰えるとは思ってみませんでした。本当に感謝しています。凄く嬉しいです!モチベーションも上がるってもんです!

感想は随時返信していきます。沢山の感想有難う御座います!

ではまた次回!感想、評価お待ちしています!
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