Fate/Apocrypha 英雄王と鈴の花   作:戒 昇

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アニメのアポクリファがあまりにも衝撃的で、思わず書いてしまった作品です。

今回はプロローグも兼ねている為、短いですが宜しくお願いします!


第一話 英雄王とユグドミレニア

 ルーマニアは首都、ブカレストの街は時刻も相まってか大勢の地元民や観光客で溢れかえっている、そんな中をゆったりとした足取りで進む一人の男がいた。

 顔には生々しい傷痕がいくつも残りサングラスから覗く剃刀のような眼と筋骨隆々の肉体を覆う黒のジャケットが威圧感を漂わす男―「獅子劫界離(ししごう・かいり)」である。

 

 「夜までまだ時間があるな…」

 

 空を見上げれば、そこには雲一つない快晴が広がっていた。しかしこれから行う儀式にほ(いささ)か早すぎる為、軽く市内の観光をしそれから召喚に適した所まで向かいながら、数時間前の事を思い出す。

 

 

 

 

 事の発端は数時間前のイギリス、魔術師達の最高学府「時計塔」内にて召喚科の学部長「ロッコ・ベルフェバン」に呼び出された事に始まる。

 先程少しぶつかった時計塔の学生に涙目になりながら逃げられたことを愚痴ると笑いながら「その容姿のせいだろう」と言われ、厳つい見た目であることを自覚している為か舌打ちぐらいしか出来なかった。

 他愛ない会話の後に笑っていたロッコの表情がいつになく真剣になった…どうやら自分が呼ばれたのが理由がよほど重大であるらしい。

 

 聞くと数日前、ルーマニアの大家「ユグドミレニア家」が魔術協会に対して反乱する宣告を出した、これに協会側は50名からなる討伐隊を編成し、対処にあたらせたが…

 

 「一人を除いて全滅…とはね」

 

 「しかも、それだけではない」

 

 戦闘に特化した魔術師だけで組まれた討伐隊を壊滅させたのはユグドミレニアの魔術師…ではない、戦闘が記録された資料を見て獅子劫は顔をしかめる。

 地面から無数に突き出した"杭''によって貫かれた魔術師達、その中で悠々と佇む人影…しかし「それ」は人に非ず、獅子劫の頭に一人の歴史的人物が思い浮かぶ。

 

 「そこがルーマニアで串刺しするって事を、踏まえればあの英雄を出さない訳ないか…」

 

 「然様、つまりこれから頼む事も分かるだろう?」

 

 「まさか『サーヴァント』と戦えってか?」と問うと、ロッコは彼の間違っている認識を正す。

 依頼は「ルーマニアにて行われる大規模な聖杯戦争に参加して、ユグドミレニアの元から大聖杯を奪還する」ことであった。

 

 

 ―「聖杯戦争」、それは遥か極東の地「日本」にて約百年前から行われていた大儀式の名称である。

 七人の魔術師が使い魔の最上位である「サーヴァント」を召喚して最後の一人になるまで殺し合う、そして勝者にはいかなる願いを叶える願望機「聖杯」が与えられる。

 

 しかし、聖杯はその姿を見せることなくその地から消す事になる…それが六十年に行われた三回目の聖杯戦争の時、参加した一人のマスターの手によって聖杯の核となる「大聖杯」が奪われてしまい、行方が掴めないまま戦争は終結してしまった。

 それが今、ルーマニアはトゥリファスという地にてあることが分かった。討伐隊の生き残りは僅かだか一矢報い、大聖杯の予備システムを起動させ既に召喚されているサーヴァントとは別に新たなサーヴァントを喚ぶことに成功した。

 

 これを受けて協会は選りすぐりの魔術師をルーマニアの地に送り、ユグドミレニアとの聖杯戦争を行う事を決定した、獅子劫は最後の一人になり直ぐにルーマニアまで行ってサーヴァントを召喚して欲しいとの事だった。

 

 「依頼は受けるが、他のマスター達はどんな奴なんだ?」

 

 「心配せずとも、全員腕が立つ者達じゃよ」

 

 差し出された六枚の紙には一人一人詳細なステータスが乗っており、それぞれが強力な魔術師であることを示していた。

 その中に知っている顔は何人かいた、敵か味方はその都度変わっていたが確かにこのメンバーなら心配はなさそうだ。

 最後の一枚に記された人物は監督役も兼ねていて、名前からして日本人だと分かる。彼も既にサーヴァントを召喚し、トゥリファスに入っているらしい。

 暫し考えた結果、自身も叶えたい願いがある為に参加することを伝えた。

 

 触媒は何をくれるのかと期待すると、用意してあったのか一つの物品を出した。それは輝きは薄くなっているが錆が全くないが故、元は黄金色であった事を示すのに充分であった。

 

「それは古代シュメール、ウルクにあったと言われている蔵の鍵だ」

 

「蔵? そんなんで英雄が呼べるのかよ」

 

「ただの蔵ではない…無数の黄金や様々な武器が収められていた『王の蔵』よ」

 

「ちょっと待て、まさかこれは…!」

 

 ウルク、それに様々な武器を収めた蔵…考えられるのはたった一人いる。だがそいつが呼び出せるのか…それを考えただけでも思わず口角が上がってしまう。

 見ればロッコも不気味に笑みを浮かべていた、そして獅子劫もどうするかは既に決まっていたこともあり直ぐにそれを受け取った。だかそれだけではなく前金として近くにあった瓶に入っているもの―「ヒュドラの幼体」を貰っておくことにした。

 

 

 

 

 ブカレストの郊外に位置する場所…無数の墓石が並び立ち夜中の静寂が相まって独特の雰囲気を出している「霊園」である。自身の魔術と相性からかここにいると何処か心地がいい感覚に思ってしまう。

 タバコを吸い、心身共に落ち着かせてから地面に描いた魔法陣の前に立つ。

 

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公

 

 手向ける色はーー『赤』

 

 降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

 

 召喚の途中ながら彼は己の過去を思い出していた。かつて自分が救えなかった『娘』の事、自分がフリーランスになった切欠を生まれたあの日、袂を別った父の事、様々な戦場を駆けていた日々…この戦争において自分が死ぬかもしれないが、それでも引き下がれない。

 その強い思いが陣の輝きを一層増し、視界を覆うほどになった。

 

「汝三大の言霊を纏う七天、

 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――!」

 

 

 

 光の柱が建つ。黄金が溢れ出し、闇に包まれた霊園に『それ』は現れた。

 

 金髪の髪が召喚の余波で今だ漂う風で靡き、上半身は裸に見えるが肩や腕に黄金色と赤で彩られた鎧を身に纏い、腰からは赤色を基調とした腰巻を着け、両脚にも黄金の鎧で覆われている。

 

 背中に収まっている二振りの黄金の剣が見え、それが主武装であると自然に物語っていた。そしてスローモーションのようにゆっくりと両目が開かれた。

 その眼は真紅の如く赤く染まり獅子劫をその視界へと捉える、と同時に口を開く。

 

 

「問おう、貴様が不遜にも(オレ)を従えようとするマスターとやらであるか?」

 

 

放たれた声はどこまでも澄み渡り、どこまでも傲慢である言い方であった。しかし不思議と嫌な気分にはならなかった。

 

「ああ、これから宜しく頼むな」

 

「分を弁えろよ魔術師、我とお前は対等の関係ではないのだからな」

 

 「サーヴァント」の目が細まり、より一層の鋭い視線が獅子劫を貫く。有無を言わせない威圧感はそれまで感じていた不思議な感覚に答えを出させるのに充分であった。

 

(嫌な気分にならない、じゃなく…それすらできないのか)

 

 圧倒的カリスマとも言えるのか、威圧な雰囲気を出されたものも獅子劫はむしろ…面白いと考え、あえて堪えてない感じを出して口を開く。

 

「悪かった、なら王様って呼ばさせてもらうかな?」

 

「ふ…」

 

 割と失礼な事かなと思いながらも、「サーヴァント」は不敵な笑みを浮かべた後、静寂の霊園に高笑いの声が響いた。

 

「ハッ! ハハハ! 面白いぞ、(オレ)に怯まずむしろ不遜ともとれる態度をとるとはなっ!」

 

 高笑いをする「サーヴァント」に対して獅子劫は呆けた顔をしているが、お構いなしと言わんばかりと言葉を続ける。

 

「気に入ったぞ、どうやら今宵の戦いは(オレ)を楽しませてくれそうだなッ!」

 

「お、おう…とりあえず良いって事か?」

 

「安心するがいい魔術師よ、本気でやっても相手にとっては辛かろう…

 最初の内は軽くあしらっておくとしよう」

 

 とんでもない自信家だな…と思いつつも、軽く見たパラメーターはどれも高く陣営を組む必要性を感じてしまう程であるが、契約の関係上それはまだ考えておくだけにしておく。

 改めて右手を出す。

 

「獅子劫界離だ、これから頼むな」

 

「『サーヴァント・セイバー』だ、精々(オレ)を愉しませてくれよ」

 

 

 

ここに人類最古の王が、七騎と七騎の「聖杯大戦」に参加し正史からの道を外れる事になるとは誰しも想像できなかった。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

ブカレストから車で数十分の所にその町はあった。

 歴史あるトランシルヴァニア地方の中でも、のどかな田舎町として知られているのが、ここ「トゥリファス」である。

 しかし、そんな町の中央にそびえるのがルーマニアの魔術師一家であり魔術協会から離反の宣言を出した「ユグドミレニア家」の居城「ミレニア城塞」、この町の最古の建造物と言われているものだ。

 

 そこの地下に広がる空間に五つの陣が敷かれていて、その前には五人の男女の姿があった。

 これより行われる儀式はただの儀式にあらず、人ならざる英霊達を喚びトゥリファスの地を舞台にした「大戦」に勝利する為の最初の一歩となる。

 

 「―それでは、始めよう」

 

 ユグドミレニアの長にして六十年前に遠く日本の地より「大聖杯」を強奪した者、「ダーニック・プレストーン・ユグドミレニア」は始まりを告げる一声を放つ。

 

 「我が千界樹(ユグドミレニア)が誇る魔術師達よ―」

 

 陣の前に立つ肥満体の男性「ゴルド・ムジーク・ユグドミレニア」はこれから起こることへの不安と英雄を使役できる高揚感にかられていた、しかし後には引けない…かつてドイツの名家「アインツベルン」と肩を並べていた「ムジーク家」も今や血筋は風前の灯火になっており、名家としての誇りと再び栄華を取り戻す為にも…

 

 『素に銀と鉄、礎の石と契約の大公』

 

 車椅子に座る可憐な少女「フィオレ・フォルヴェッジ・ユグドミレニア」はこの聖杯大戦には消極的であった…が、ダーニックの言葉通りなら回復不能となった自分の両脚も治すことができるかもしれない。それが如何に私的なものであるかは、彼女自身良く分かっていた。それでも…

 

 『手向ける色はーー黒』

 

 陣営では最年少ながらも、ゴーレム製造者として名を馳せている「ロシェ・フレイン・ユグドミレニア」はただ楽しみであった…自分が英霊を召喚すること、これからの戦いも。彼にとってこの大戦は自らが楽しめれば良いであり、それ以外は気にすら留めていなかった…

 

 『降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で王国に至る三叉路は循環せよ』

 

 黒魔術を得意とする「セレニケ・アイスコル・ユグドミレニア」の気持ちは最高まで昂っていた。そのせいで昨夜は魔術と関係ない生贄を普段通りに殺してしまったが、どうでもいい事として今では忘れてしまっているだろう。それほどまで今回の聖杯大戦は彼女にとって愉しみであるから…

 

 『閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

 繰り返すつどに五度。ただ満たされる刻を破却する』

 

 眼鏡をかけた少年「カウレス・フォルヴェッジ・ユグドミレニア」は自身が平凡で取り柄がないことは自覚しているつもりだった…しかし、聖杯は令呪を与えマスターとして選ばれた。

 何故自分なのかはとても計り知れないが、今は役目を果たす。それが苛酷な戦いに身を投じる事なろうとも…

 

 『―告げる。

 汝の身は我が元に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意この理に従うならば応えよ』

 

 陣の輝きが増す。風は対流を起し閉鎖空間に魔力が満ちていく。

 

 『誓いを此処に。

 我は常世総ての善と成る者

 我は常世総ての悪を敷く者』

 

 次にカウレスがある一行を加える。

 

 『されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者、我はその鎖を手繰る者』

 

 輝きはさらに増し、最高潮まで高まる。

 

 『汝三大の言霊を纏う七天

 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――』

 

 輝きが空間を覆う…それは目を開けていられないほどになり、五人の姿が一瞬だけ見えなくなる。

 

 煙が晴れると陣に五体の「サーヴァント」の姿があった。

 

 青いマントを翻し、頭部は仮面で覆われて全身に服を纏いし者。

 『キャスター』

 

 背中まで届く長い髪に清冽な雰囲気を持ち合わせる青年。

 『アーチャー』

 

 特徴があるピンク色の長髪に中性的な顔立ちに鎧とマントを身に付ける格好した青年。

 『ライダー』

 

 銀髪に露出が目立つ服、だが相手を見据える瞳は強さと高潔さが伺える。

 『バーサーカー』

 

 燦然と輝く鎧に身を包み、大剣を背にする長身の青年。

 『セイバー』

 

 五体のサーヴァント達が同時に口を開く。

 

 『召喚の招きに従い参上した。

 我ら「黒」のサーヴァント』

 

 『我らの運命は千界樹(ユグドミレニア)と共にあり、我らの剣は貴方がたの剣である』

 

 

 これで全てのサーヴァントが出揃った…積年の思いが遂に成就する。

 この時、ダーニックが僅かにだか口角を上げているのに誰一人として気付いていなかった。

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