結紀とイリヤは昨日の戦闘により、寝不足に陥っていた。
「ふわぁ~・・・」
「どうしたんだイリヤ、朝から寝てるなんて」
「ん、ちょっとね~・・・」
「ん・・・」
「結紀はいつも通りだね」
寝ている結紀はいつも通りなのだがイリヤは普段起きている。
そのため朝から寝ているイリヤに那菜亀達はびっくりしていたのだ。
「・・・イリヤ。昨日の子。こういうのって」
《昨日の正体不明の女の子。これはよくある転校生フラグでは~?》
「ないないー、あったらやだよ~・・・」
イリヤはルビーの可能性を自分に言い聞かせているように結紀は感じるも寝ることに集中した。
すると教室の扉が開き、担任である藤村大河が入ってくる。
「はーい!みんなー、今日は転校生がやってきまーす!」
転校生というワードにクラスメイトはざわめく。
イリヤも体をびくっとすると扉を見つめる。
結紀は興味なさそうに寝ていた。
「はーい、どうぞ~!」
藤村は転校生を呼ぶと入ってくる。
すると昨日のあのショートヘアの黒髪少女がやってきていた。
「美遊・エーデルフェルトです」
「美遊ちゃんはフィンランドからの帰国子女でーす!みんな、仲良くしてあげてね?」
イリヤはあんぐりをしており、結紀は顔を少し上げて美遊を見る。
すると自分を見ている結紀に気づいたのか美遊は結紀に向かって少し微笑む。
「美遊ちゃんの席は・・・イリヤちゃんの後ろね。結紀ちゃんの左隣よ」
「わかりました」
美遊はかばんを持って言われた席に座った。
顔を少しだけあげていた結紀に微笑み返す。
「来たよ、結紀」
「ん・・・本当に来たんだ」
「・・・うん」
結紀と美遊の信頼感にイリヤは複雑な気持ちになる。
「むむむ・・・」
《イ、イリヤさん?》
「なんか・・・悔しい・・・」
《先程の少女・・・美遊さんですか?》
「そうだよ・・・結紀となんかいい感じだし・・・」
イリヤの想い人は現在進行形で美遊と離している結紀だった。
ルビーもそれを知っているため、あれやこれやで結紀をイリヤとくっつけようと考えるも結紀の事がまるでわからなかった。
そんなことでHRが終わるとクラスメイト達は美遊へと駆け寄る。
「美遊さん、フィンランドってどんなとこ?」
「結紀とどんな関係なのー?」
といった美遊に関する事や結紀との関係を聞かれていた。
当然結紀も含められていたのだが・・・。
「・・・」
「ねー、結紀くん。美遊さんとどんな関係なのー?」
「・・・ただの知り合い。それ以上でもそれ以下でもないよ」
「っ・・・」
結紀の言葉に美遊はまた胸が苦しくなる感覚を覚える。
だがそれがなにか全く見当もつかず、無視を続けた。
「・・・寝るね。眠い」
「結紀くん、体育・・・休む?」
「ん・・・気が向いたら」
「結紀、体育出ないの?」
「・・・」
美遊が問い掛ける頃には結紀は寝てしまっており、結局聞けず仕舞いだった。
するとサファイアがいなくなっていることに気付くと探し回る。
「私、トイレに行くね」
「うん、それじゃ美遊さん」
「またあとでね~」
「・・・結紀」
「んう・・・」
「ちょっと行くね」
「うん」
美遊はサファイアを探すべく教室を出て行った。
結紀が目を開けると時間は5時間目。
授業は体育の真っ最中だった。
「・・・やろう、かな」
教室に誰もいないことを確認するとかばんから体操服を取り出して着替えた。
長い髪の毛は学校中に広まっていた。
男でありながら女顔寄りで長い黒髪がより女の子として見えるようになっていた。
だからこそ結紀は目立つのを嫌い、関わることは好かない。
しかし美遊にあの時言われた言葉。
体育に出ないという時、美遊はすこししょんぼりとした表情をしていた。
「・・・別に美遊のためじゃない。気が向いただけ」
結紀は着替え終わるとグラウンドへと向かって行った。
結紀がグラウンドに出ると50m走の計測だった。
走者はイリヤと美遊。
イリヤは学校一足の早さがあるから美遊は負けるがクラスメイトの予想。
結紀はあえて美遊が勝つと予想したが。
「5秒9!?」
「ん」
「あ、ありえない・・・」
「・・・イリヤ、残念」
「結紀?!来たの?」
「ん、まぁ。気が向いただけ」
「来たんだ」
美遊はどこか嬉しそうにしていた。
結紀もその表情で自然と笑う。
「結紀ちゃんも計測しようか。誰と走りたい?」
「・・・美遊、まだ走れる?」
「大丈夫、問題ない」
「美遊・・・走ろうか」
敵討ち・・・ではないが結紀は美遊と対決した。
魔術によるブースト無しでの実力勝負。
「よ~い・・・どん!」
合図が始まると結紀はあえて一呼吸遅らせた。
美遊はそれをチャンスと思って先に疾走する。
「ふ~・・・・・・・・・はっ!」
普段の怠けている結紀からは考えられないほどの脚力でスタートダッシュを決めた。
一気に美遊に追いつくとイリヤにも劣らない早さで美遊の隣を抜ける。
「なっ・・・!」
そのまま少しの差が開き、結紀が先にゴールする。
美遊も連続は疲れるのか、息を切らしていた。
結紀にいたってはフラフラだが。
「結紀はやっ!」
「結紀くん早くない!?」
クラスメイト達は結紀を囲むが本人は嫌そうにしていた。
美遊と対決して勝っただけなのにここまで持て囃されるのは嫌だった。
そこで結紀は美遊に口だけを動かした。
「・・・校門前・・・?」
それだけを伝えると結紀はクラスメイトに囲まれたまま倒れてしまった。
「結紀!?」
「結紀ちゃん!大丈夫!?」
「・・・っ」
いきなり倒れた結紀に全員驚くも、ただ疲れによる睡眠だと分かるとほっとしていた。
「良かったぁ・・・さて、それじゃあみんな、教室に戻って着替えて!」
「「「「はーい」」」」
藤村は結紀を抱き抱えると保健室へと連れていった。
それを美遊は心配そうに見る。
「・・・結紀大丈夫・・・かな」
《美遊様、結紀様のことが気になるのですか?》
「なっ・・・そんなんじゃない。でも・・・」
《心配なのであれば放課後に寄っては如何ですか?》
「・・・うん、そうする」
サファイアの提案に美遊は頷くと着替えるために教室へと向かった。
ある昔のことだった。
俺はよくわからないことが起きた。
家族全員が驚いて俺を見る。
だけど・・・それは恐怖の目。
俺はいきなり現れたそれに話しかける。
「・・・何者」
【世界の抑止力。あなたはこの世界の危険因子】
頭のなかに直接語りかけていた。
不快な気分だったけど気にせず、見つめ直す。
「抑止力・・・危険因子なら、どうする」
【守護者が駆除、排除】
抑止力は光の中から一つの影を作り出した。
それは長身で赤い外套を見に纏い、白い髪の毛の男。
「・・・」
「ほう・・・お前がこの世界の危険因子か」
「っ・・・」
「なに、すぐには殺しはしない。だが・・・気になることがある」
「・・・なに」
「お前はその力をどう扱うのだ?」
男は俺の力・・・いやこの世界が俺の持つ力を知っている。
望まれぬ生を受けて生まれ、忌むべきこの力を。
確かにこの力は扱い次第では・・・世界を簡単に壊せる。
だけど俺はそんなことをするために使いたくない。
使うなら・・・大切な何かを守るために俺は使う。
「・・・ふん。ならば・・・抑止力よ。撤収しよう。この者は排除すべきではない」
【それは真か。危険因子は消すべきと判断】
「この小僧の将来は知らんが・・・信念は確かだ。消すのは惜しいほどにな」
【ならば退こう。次の世界が待っている】
「らしい。小僧。決してその信念、曲げるのでは無いぞ」
それをきりに俺の意識はない。
だが・・・わかったことがあった。
魔法の存在、世界の調整機、守護者。
そして神様の存在を。
結紀が目を覚ますと保健室の一室にいた。
「・・・ん」
「あら、起きたのね」
「・・・カレン」
「何があったかは知らないわ、私はただここの保険医だもの」
「ん」
「次運ばれて来るときは生死の境の時にでも来ると良いわ・・・貴方のお迎えがいるようだから」
「・・・お迎え?」
カレンがカーテンを開けると美遊がいた。
結紀が校門前と言ったのだが倒れてしまったので美遊は見に来ていた。
「・・・美遊」
「結紀、どこか痛いの?」
美遊に問われるも結紀は口を閉じた。
結紀の力は美遊であっても見続けて良いものではない。
本人は一切そのことに触れてほしくなさそうにする。
「結紀?」
「・・・ごめん・・・痛いとこは・・・無いから。ありがとう」
結紀は何とか無理して笑う。
痛みなど常に結紀の体にある。
だからこそ結紀自身が慣れてしまった。
痛みや苦しみは誰にも言わない。
それが結紀が出した結論だったから。
「・・・本当?」
「うん、大丈夫」
《美遊様・・・嘘はありません》
「・・・帰ろっか」
「っ!」
「・・・ぅ」
結紀は起き上がると激痛が走った。
だが見せるわけにはいかなかったので無視して立ち上がった。
足はまだ拒否をしているのかプルプルと震えていた。
足取りも覚束ない。
「結紀、だめ。まだ寝てて」
「大丈夫・・・こんなのいつも通り」
結紀は魔術を唱えると足の震えなどが全て消え去った。
それを美遊は目を見開いて見ていた。
「結紀・・・」
「・・・大丈夫だから。帰ろう」
何事もなかったかのように立った結紀を不安と心配で美遊は寄り添った。
「・・・美遊。俺なんかと・・・一緒にいたら。ダメだよ」
「・・・どうして?」
「一緒に・・・いたら君にまで・・・」
美遊は結紀の言葉の意味が分からなかった。
だが、結紀の表情は泣いているようにも見えた。
「・・・さて、いこっか」
「う、うん」
保健室を出ていく結紀の背中を美遊はただ追うだけだった。
しかし何を背負っているのか、それだけは一つも分からなかった。
結紀と美遊は共に学校を出る。
だが距離という名の壁を二人の間にはあった。
「結紀・・・その」
「・・・美遊、駄目・・・俺と美遊はただ協力関係・・・必要以上の事は、不要」
「・・・ぇ?」
結紀は必要以上の関係を拒む。
イリヤとは幼馴染だからこそ、昔からの関係だからこその関係性。
だが美遊とはただの協力関係。
カード回収が終わればそれまでの関係となる。
結紀はそんな関係は拒む癖がある。
「・・・美遊?」
「っ・・・イリヤスフィール」
《結紀さんも・・・まさかあれですかぁ?》
「そんな感じじゃないもん!」
「・・・何をしているの?」
「あはは~・・・これは美遊さん・・・学校ではお恥ずかしい所を・・・」
「・・・イリヤスフィール。あなたは何故戦うの」
「・・・何故?」
「何のため、貴女は戦うの。貴女はただ巻き込まれただけ、本気で拒絶すればルビーも諦める」
「・・・興味があった・・・からかな」
「興味・・・?」
「だって普通ならこんな事出来無いでしょ?だからゲームみたいだなって」
「・・・イリヤスフィール、貴女は・・・本気でそんなこと言っているの?」
美遊の問い掛けにイリヤは理解が出来なかった。
イリヤと結紀、美遊。
この3人はただ巻き込まれただけの事で、強制ではなかった。
「・・・あなたは戦わなくて良い。私が全部やる」
イリヤの返答に美遊は怒った感じだった。
「・・・帰る。じゃあ」
「・・・私も」
結紀が帰ろうとすると美遊が必死に付いていく。
イリヤはそれを見ていることしか出来なかった。