イリヤと美遊が仲違いしようともカードの回収には必ず駆り出される。
今回のカード回収とて、美遊がイリヤに怒っていようと協力関係は変わらない。
だが、一つ違う点があるとすれば。
「ねえ、イリヤ」
「はい?」
「結紀は?」
「・・・一緒に帰った」
「帰ってきて無いわ。朝出てからね」
凜と結紀は一緒に住んでいるため、結紀の帰宅時間が遅いと凜とて心配はする。
それが夜中になっても帰ってこなければ尚更。
結紀と一緒に帰った美遊も帰っていなかった事に驚いている。
「仕方有りませんわ。今はこの人数で行きますわよ」
「そうね、結紀の事が分かってないもの。待ってても仕方ない」
「・・・分かりました。ルビー」
《はいはーい!反射路形成。鏡界回廊、一部反転します!》
イリヤを中心に魔方陣が形成されると、そのまま通常世界から鏡の世界へと移動した。
その時一緒に入り込んだものには誰も気付かなかった。
イリヤ達が鏡面世界へと移動すると、辺りを見回す。
だが、何も無かったように見えた。
《・・・!イリヤさん!上空から魔力反応があります!》
「じょ、上空!?」
「なぁ・・・!」
ルビーの警告に全員が上を見ると魔力を溜めている黒化英霊がいた。
すると美遊がステッキを振って魔力弾を発射する。
しかし効果が無いようで謎の障壁に阻まれてしまった。
その隙を狙って黒化英霊はイリヤ達に向かって魔力を放出する。
「しまった・・・!ルビー、障壁!」
《やってますよ!それでも防ぎ切れません!》
ルビーとサファイアの二人係でも防ぎきれない魔力量に全員が緊迫する。
するとどこから現れたのか分からない、一人の少女がイリヤと美遊の前にいた。
「・・・工程作業・・・短縮。顕現・・・完了」
「ちょ、ちょっと!」
「・・・来なさい。
少女が手を出すと、黄金に輝く鞘が現れた。
そしてそれは数百と様々なパーツへと変わると魔力砲を消し飛ばした。
「・・・ん、これで良いかな」
目の前で、神話に伝わる伝説の聖剣の鞘が出てきた事と、それを出した少女に全員が驚いていた。
黒化英霊も少女を警戒すると、背後から一人の人影が現れる。
「限定的解除。幻想刀、顕現」
手には虹色の光を放ち、美しい一振りの日本刀が。
そしてを黒化英霊に向かって大きく振りかざすと背中を切り付けた。
「そぉい」
それが最後となって、黒化英霊は息絶えると中からカードが出てきた。
日本刀を鞘に納めてカードを手に掴むとイリヤ達の所へ向かう。
「・・・って、結紀!」
「ん・・・」
「ちょっと結紀!あんた今までどこに居たのよ!」
「・・・教えれない」
「はぁ!?教えなさい!」
「・・・嫌」
「凜さん、嫌がってるのに聞くのは・・・」
「・・・はあ・・・それでこの子は誰よ」
凜は結紀に対して気になることが沢山あったが、ひとまず置いとくと先程、宝具とも言える鞘を顕現した少女を問いただした。
「私は楓です」
「イリヤ、あんた何か知らないの?」
「ううん、初めて知った」
「結紀。あの子って・・・」
「ん・・・秘密。いつか教える」
「うん・・・」
カードを難無く回収出来たため、いざ帰ろうとすると楓が制止した。
「世界の崩壊が・・・ありません。まだ黒化英霊が存在しているかと」
「さっき結紀が倒しましたわよ」
「・・・楓が言ってるのは・・・多分もう一体居るってこと」
「私の前方に見えますね・・・あれは・・・セイバーでしょうか」
楓が見つめる先を見ると黒化英霊がこちらに向かって歩いて来ていた。
英霊の右手には黒い剣、周りには黒い靄のような物が漂っていた。
「・・・楓。もう大丈夫」
「分かりました。いつでも待機していますので」
「ん、ありがとう」
楓は形の輪郭がぶれると桜の花びらに変わって消え去った。
凛とルヴィアは英霊から大きく離れた森林へと入ってイリヤ達を見守る。
「・・・イリヤ、美遊」
「ん?」
「どうしたの?」
「凛さんの所にいて」
「えっ?」
「結紀は・・・どうするの?」
「別に。一人でやるだけ」
それを言い残すと結紀は日本刀を引き抜いて英霊へとぶつかる。
「・・・霧は・・・ただの魔力障壁か」
結紀はただただ、無謀に突っ込んでいる訳ではない。
勝てる見込みがあるからこその自信。
そしてこの相手が自分を殺してくれるとも。
「・・・対魔力。やっぱりセイバー・・・か」
セイバーのクラスには対魔力のスキルが与えられる。
聖杯戦争を知る結紀はその知識を何故か知っていた。
そしてこの相手が誰なのかもある程度検討がついている。
「・・・・・・!」
「しまっ・・・!」
考え事をしていた結紀はセイバーの不意打ちを避けれず、お腹に剣が突き刺さる。
「げっほ・・・!」
「結紀!」
「く・・・るな・・・!」
イリヤと美遊が来ようとするが結紀は止めると、セイバーに向き直る。
「くっそ・・・!」
結紀は何とかしてセイバーの剣を抜くとお腹が空いていた。
血が大量に流れ出て、普通に考えれば生きているのがおかしいぐらいの。
だが結紀は笑っていた。
この死にかけを喜ぶかのように。
「・・・あはは」
「・・・はぁ。もう死んじゃおうか」
結紀は笑うのを止めると自分の力を一気に解放した。
それだけで空間が捻れるような感じがあった。
ただただそれをイリヤ達は見ていることしか出来ない。
セイバーが剣に魔力を溜める。
それは宝具の使用行動で、結紀が喰らえば消し飛ぶぐらいの力。
「・・・星が紡いだ剣でも、神には勝てない」
「幻想刀。封印全解除」
封印を全て解くと刀は輝きを増した。
そしてそれを鞘に納めると抜刀の構えを取る。
「・・・来なよ、アーサー王」
「・・・!、エクス・・・カリバー!」
星が紡いだ剣から放出される大魔力の塊。
それを結紀は真っ正面から刀を引き抜く。
「舞え。桜よ」
「・・・『幻・・・よ、・・・てを・・・・・・』」
結紀の言葉は誰も聞き取れなかった。
だが、分かることは結紀の周りには桜が舞っていた。
イリヤ達が目を覚ますと通常世界に戻って来ていた。
姿などは先程までと同じだった。
「あ・・・れ?」
「・・・おはよう」
「あ・・・結紀。私たち・・・」
「余波で・・・気を失ってた・・・美遊が、鏡面から移動してくれたから」
イリヤは美遊や凛とルヴィアを見つけるとほっとする。
だが結紀の事が気になった。
あの時お腹を貫かれて血だらけになっていたはずなのに平然としている。
「結紀・・・お腹は?」
「別に。すぐ治る」
「そっかぁ・・・良かったぁ」
「・・・もう帰ろう・・・楓」
「はい。どうされましたか?」
結紀は楓を呼び出すと耳元で話をした。
「・・・分かりました。イリヤ様」
「は、はい」
「今からご自宅に転送します。良いですか、目をつぶって今から5秒間数えてください。そして数え終わってから目を開けてくださいね」
「う、うん」
イリヤは楓に言われたとおり目をつぶって5秒間数えた。
そして目を開けると、自分の家へとついている。
「あ、あれ?」
《あれは・・・魔法の領域に近しいですよ。あんな短時間で遠い距離の転送は》
「そうなんだ・・・」
イリヤはひとまず家に帰って中に入ると、家族にばれないように自室へと向かった。
イリヤを転送すると、結紀はあるところへ電話をかけた。
「・・・はい。終わりました。お迎えを・・・はい」
すぐに電話を済ませて1分ほどで車が全速力で向かってきた。
そして車は止まると中から老いた執事が出てくる。
ルヴィア家の執事のオーギュストだった。
以前にたまたま会ったとき、連絡先を貰っていた。
「オーギュストさん。ルヴィアさんと美遊を」
「畏まりました・・・結紀様と凛様は如何なさいますか」
「自分の家に帰ります」
「分かりました。では」
オーギュストはルヴィアと美遊を車に運ぶと来た道を戻っていく。
「・・・楓。凛さんと俺を運んで」
「はい」
イリヤと同じように運ばれて、目を開けると家に転送されていた。
楓は結紀にだけ仕える従者ともいえる関係。
だが結紀はそれを嫌がるが。
「凛さん運んでくれるかな・・・?」
「お任せください。結紀様は・・・?」
「ん、もう寝る」
「分かりました。おやすみなさいませ」
「うん。おやすみ、楓」
楓に見送られて結紀は自室に入ると何故か美遊がベッドで寝ていた。
「・・・あれ?」
近くのランプ台には小さなメモが置かれており、中を見てみる。
【お嬢様からは許しを頂いております】
「・・・」
美遊は着替えさせられており、パジャマ姿になっていた。
しかし毛布には入っていないので、結紀は美遊に毛布をかけるとベッドで寝ずに、近くに椅子を置いて椅子で寝た。
「・・・?」
美遊は目を覚ますと知らない部屋で警戒した。
寝ているベッドは天蓋付きで豪華だと思っていると隣から寝息が聞こえた。
「・・・結紀?」
結紀が寝ているということはここは結紀の家だと分かると美遊の顔が赤くなる。
そして自分と結紀を何度も見た。
自分はベッドで寝ていて、結紀は椅子で。
「・・・怒られるかな・・・」
怒られるかもしれないと思いつつ、美遊は結紀をベッドに入れた。
幸いにも結紀の体は軽かったため美遊でも何とか持ち上げられた。
「ん・・・」
「ぁ・・・」
しかし揺れによって結紀は目を覚ましてしまう。
美遊はそれでどうしようと慌ててた。
「・・・なんでベッドに」
「あ・・・え、えと・・・」
「・・・一緒が良いの・・・?」
「・・・うん・・・」
普段はクールな美遊が恥ずかしそうに顔を伏せている。
それを見た結紀もさすがに拒絶出来ないと思い、ベッドにちゃんと入り込んだ。
そして美遊の手を握る。
「・・・これで良い?」
「・・・ありがとう」
「・・・ん・・・おやすみ」
「おやすみ、結紀」
美遊は最初結紀の事をただの興味本位で近付いた。
だけどいつからか、結紀の事ばかりを考えてしまう。
それが何か分からなかったが、いつかの日にサファイアに言われていた。
《美遊様。それは・・・恋というものです》
「恋・・・?」
《誰かを好きになっているのですよ》
「誰かを・・・」
美遊は一番最初に思い浮かんだのは結紀。
学校では常に寝ており、どのような学校生活をしているか全く知らない。
分かるのは頭が良いということと寝ていること。
だが、イリヤと話していると美遊は原因不明の胸の締め付けがあった。
嫉妬している。
美遊は頭の中でそう考えた。
結紀と話しているイリヤが羨ましいと感じていた。
しかしこの醜い感情は封じなければならない。
自分はただの道具。
それから逃げているだけの卑怯者だから。
「美遊は・・・素直になっていい」
「誰か頼れる人が居るなら、その人に頼るべき」
「一人で抱え込んだら・・・俺みたいになるよ」
誰かが自分に話している。
それだけは分かったが、睡魔に負けてそのまま眠ってしまった。
だが左手には結紀の手が握られていた。
それだけでも・・・。