キャスター、セイバー戦と連戦をした結紀はいつになく深い眠りに落ちていた。
だからこそ嫌な夢を見てしまう。
自分の妹が変わった夢を。
あの夢の日、結紀は家で過ごしていた。
いつも通りの日常を過ごせると思っていたが、妹が失踪する。
数週間以上見つからず、死んだ可能性が高かった。
結果としては妹である夜々は死んだ。
原因は・・・不明のショック死。
魔術師ならば分かるが、魔術回路の無理な稼動。
それによるショック死だった。
そして数日後、結紀宛に届いたのは何の変哲も無い髪留め。
しかしそれは夜々が肌身離さず身につけていた物。
そしてほのかに髪留めから魔力が感じ取れていた。
それは一種の魔術礼装でもあった。
夜々は元々聖杯の器となるはずだった。
それを両親が止めて、普通の生活を送ることとなる。
しかし夜々はおかしな部分があった。
病気の一つもかからなかった。
それどころか過程を無視し結果だけを残したりした。
それは髪留めによる効果。
夜々は自身の小聖杯の力を全て使って髪留めに移した。
この髪留め自体が聖杯となる。
しかし聖杯は魔力がなければ動くことが無い。
ならば魔術師がつければ魔力の提供で動く。
結紀がいつも付ける髪留め。
それは・・・自分の妹である夜々の形見でもあり、自身を護ってくれるお守りでもあった。
結紀が嫌な夢から覚めると時計を見た。
「ん・・・12時・・・」
学校は既に遅刻で、それは一緒に寝ていた美遊も同じだった。
まだ寝ていたいのか、美遊は結紀に絡み付くように抱き着く。
「・・・動けない」
結紀としてはあまり必要以上に関わるのを嫌うが美遊にだけはあまり嫌悪感が出なかった。
最初は少し出ていたが、段々関わっていく内に何とも無いぐらいに。
「ん・・・もっかい・・・寝よう」
ぐっすり寝ている美遊を起こせなかった結紀は結局また寝ることにした。
今度はあえて美遊とお互い向き合うように。
その後美遊が起きてパニックになったのは言うまでもない。
結紀は帰ってきたイリヤと凛達によって次なるカードの回収に向かう。
それは森林地帯で見通しが悪かった。
カードの気配もなかったため、本当にあるのかも疑わしいぐらいに。
「何も無いわねぇ」
「本当にあるのかな・・・?」
「カードがあるから鏡面世界があるのよ」
「うう~・・・」
イリヤは全然出てこない相手にイライラがたまるも周囲を探索していると、奥の方で草むらが動いた。
「・・・あれ?」
「ん・・・イリヤ、何かあった・・・?」
「今あそこに・・・」
《イリヤさん、囲まれてます!》
ルビーが発する頃には遅く、囲まれていた。
相手は仮面を被っており、総数は50以上。
数の差で圧倒的に不利だと判断すると凛は一度撤退する事にした。
「一度撤退するわよ!」
「は、はい!」
するとイリヤの首もとに何かが通った。
それは一つのナイフだが、ルビーの物理防護にて防がれる。
凛の言葉で全員行動するがイリヤだけ動かなかった。
「イリヤ、何してるの!」
「あ・・・れ・・・?動け・・・ない・・・」
《毒を盛られたみたいです!魔力循環に影響が!》
「・・・!イリヤ、逃げて」
結紀が気付くと、相手は動きが止まったイリヤが標的と狙うと一斉にイリヤに向かう。
結紀達もイリヤを助けようとするが間に合わない。
「あ・・・たす・・・けて・・・」
イリヤが気がつく辺りは更地になっていた。
自分を中心にしてクレーターが出来上がるほどに。
「み、みんな・・・」
「イリヤ・・・あんた・・・」
土煙が晴れるとイリヤは目を疑う。
そこには、足元に血の溜まりを作って、血を吐いている結紀の姿があった。
「・・・ゆ・・・結紀・・・?」
「あ・・・ぐ・・・」
「結紀!大丈夫・・・!?」
立っているのも辛そうな結紀は傷を治さず、血を流しつづける。
凛とルヴィアが治癒魔術をするも効き目は薄そうだった。
「イリヤ。あなた何をしたか分かっている?」
「な、何を・・・って・・・」
《イリヤさんから膨大な魔力が出力されました。魔力循環の乱れによるものでしょうが、少なくとも結紀さんが防いでなければ凛さん達は死んでいましたよ》
「・・・だって・・・私・・・」
イリヤは自分の引き起こした惨状を受け入れられていなかった。
友達の美遊を、凛やルヴィア。
そして何より幼馴染の結紀を殺そうとしたから。
イリヤはそんな気はなかった。
ただ爆発させれば、解決すると思っていた。
「・・・イリヤ。魔力循環の乱れをそのまま外に放出したんでしょうね。でもね、その結果がこれよ」
「あ・・・」
「結紀がこれだけ傷を負ってるのは私達を守ろうとしたから。迫ってくる暴走した魔力をその身に受ければ誰でもこうなるわ」
「あ・・・あ・・・」
「・・・イリヤ。私はあなたがこんなことをする子ではないと思ってる。だけど今回はあまりにも看過できない。これ以上に強ければ・・・結紀が死んでいたわ」
凛の一言によってイリヤは我慢が出来なくなったのか、涙を大量に流す。
「・・・も、もう嫌ぁぁぁぁ!!」
「・・・」
「・・・イリヤ」
悲鳴ともいえる声を出してイリヤはどこかへ飛び去っていった。
それを見て結紀は限界が来たのか口から更に血を吐き出す。
「うぐ・・・げっほ・・・!」
「結紀!魔力を治癒に回しなさい!」
「わか・・・ってる」
凛やルヴィアが扱う宝石魔術ですら効き目が薄い程結紀はダメージが深かった。
本来ならば結紀の意思で身体の傷などは自動治癒されるが今回はされていなかった。
原因がわからず美遊もどうすれば良いかというぐらいに。
「・・・ま・・・りょく・・・足り・・・ない」
「魔力不足・・・どうしたら・・・」
結紀が治癒出来ないのは先程の爆発を防ぐために結紀は自分の魔力を全て使いきって美遊達を護った。
しかし結紀自身にまで回すほど魔力は残っていなかった。
結紀の魔力不足を回復させる方法がないわけではなかった。
だがそれは異性でも同性でも恥ずかしい方法だからか、簡単に出来る事ではない。
美遊は少し悩んだ後、決心したように凛達にいう。
「・・・凜さん、ルヴィアさん。少し・・・後ろを見ていてください」
「・・・どうしてよ?」
「凜。言いから向きなさい」
「はぁ?・・・ったく、分かったわよ」
ルヴィアにも言われ凜は渋々後ろを向いた。
美遊は一度深呼吸する。
「すぅ~・・・はぁ~・・・」
自分を落ち着かせると結紀の唇と美遊の唇が重なり合う。
美遊は結紀の口の中に自分の唾液を送り込む。
これは一種の魔力交換方法だが、キスをしなければならないので恥ずかしいものがある。
しかし美遊は結紀に好意を抱いており、嫌ではなかった。
だからこそ、この方法がこの場の最善策だと判断し美遊は結紀とキスをする。
「ん・・・」
「・・・ぢゅる・・・」
「ん・・・!?」
「はむ・・・ん・・・」
「・・・ぷは・・・」
「・・・美遊・・・」
「ん・・・こっち見ないで・・・」
そういう美遊は顔を赤くし、結紀に見られないよう背を向ける。
「・・・ありがとう」
「・・・うん」
美遊の魔力によって結紀の傷は回復していった。
だが二人は顔を赤くしていたが。
「・・・凜さん、ルヴィアさん」
「結紀!大丈夫!?」
「・・・美遊、したんですわね」
「・・・はい」
「結紀、後でわたくしの所に来なさい」
「・・・?わかりました」
「楓・・・いる?」
「はい、いつでも」
「イリヤの事・・・お願い・・・出来る?」
「分かりました、イリヤ様の事はお任せください」
楓は結紀から頼み事を聞くと姿を消してどこかへ去っていく。
ルヴィアに呼ばれ結紀はルヴィアの部屋へと案内された。
「・・・来ました」
「よく来ましたわね。さて貴方に聞きたいことがありましたの」
「・・・はい?」
「貴方・・・美遊の事はどう思っているのかしら?」
「・・・美遊ですか・・・どうしてそんなことを」
「わたくしは美遊の保護者として思ってますわ。だからこそ美遊のお相手が気になるもの・・・そこで貴方の気持ちを聞きたいと思いまして」
「・・・別に・・・どうとも思ってませんけど」
「お互いにキスを済ませているのに?」
「・・・もういいでしょう・・・どうせ・・・俺は」
「美遊の事なんてどうでも良いのかしら」
「じゃあ・・・聞きますよ」
「世界の修正力・・・抑止力・・・守護者、狙われてる自分が普通じゃないことなんて分かってました。自分は異物なんて分かってます。だからこそ人と関わりたくない、それだけです」
「・・・結紀・・・あなたは・・・」
「いつ世界から消されるか分からない・・・そんな辛さはルヴィアさん達には分からないでしょう。別に分かってもらわなくて良いです、どうせ一人で消えますから」
「結紀!なにを言っていますの!」
「・・・帰ります」
結紀はそそくさとルヴィアから逃げるように部屋を出ると家を出て自分の家に帰った。
凜は家にいないようだった。
「・・・はぁ」
「美遊かぁ・・・」
結紀ははたして自分のような異端児が美遊を好きになっても良いのかと思っている。
世界からいつ消されてしまうかも分からない結紀はその恐怖に怯える。
しかしそれを誰かに見せることもない。
見せても結局変わらないから。
それが結紀の考え。
人と必要以上に関わらない結紀が欲しがるのは一体何なのだろうか。